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企画展「形象としての紙:アラン・シールズ」関連企画
      アラン・シールズ公開制作ワークショップ見学レポート
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荒木夏実

去る10月25日、アラン・シールズのユニークな版画作品の展覧会に伴い作家本人によるワークショップが行なわれるというので、期待を胸にCCGAへと向かった。
Exhibiton

展示風景

 会場に着くとまず展示空間に広がる柔らかで明るい色彩が目に飛び込んできた。便宜上「版画」と呼んではいるものの、手漉きの和紙をでこぼこに重ね、様々な色をプリントし、ミシンのステッチを大胆に走らせた彼の作品は、むしろキルトのようなファブリックを思わせる質感を有している。版というプロセスのもつ間接性は、しばしば知的で冷静な効果を生み出すが、シールズの仕事において版は「ものを作る」という肉体の行為に直接結びついているようである。版と紙の創りだすシールズ独特の光景に新鮮な感動をおぼえた。
 さて作家本人はどんな人物かといえば堂々たる体躯の持ち主である。きれいにシェイブされた頭(見事につるつる!)にりっぱな髭をたくわえ、コットンシャツにジーンズというカジュアルな服装に彩色した木のパーツとビーズでできたネイティブ・アメリカン風の首飾りをつけている。この手作りの「作品」は曜日ごとにバリエーションがあるのだという。かなりのインパクトだ。学芸員の神山さんも熊の爪(!)をかたどったパーツを用いたあまりにもワイルドな首飾りをしていたが、おだやかな彼の風貌とのコントラストがちょっぴりおかしかった。
Shields

ギャラリー・ツアー

 ワークショップ参加者が集まると、まず作家によるギャラリー・ツアーが始まった。ある作品に使用した版を別の作品の中に使っているというような種明かしや、特定の素材やプロセスを用いるに至った心境、見る位置によって作品の表情が変わることなどについて、シールズは1点1点ていねいに説明していく。だじゃれを使った「アラン・シールズのシールド(盾)」をはじめ「ヘイゼルの魔法使いの帽子」「避難経路図」「世界一周貧乏旅行シリーズ」等々、物語的連想へと見る人を誘うタイトルの楽しさもシールズの魅力の要素である。率直でシンプルな作家の語り口は好感のもてるものであった。
 昼食をはさんで、ワークショップで使うビーズの作品について写真を見ながらのイントロダクションが行なわれた。数千個のビーズから成る長いひもを木に吊したり、浜辺にはわせたり、農場の巨大なサイロから吊すなど、シールズが行なってきたビーズのインスタレーションには繊細さよりもダイナミックでワイルドな性格が強く感じられる。「ビーズを使って巨大な絵を描く」と本人が語るように、素材や形態に関して常に型破りなシールズの指向が自然をキャンバスとして使う試みへと向かわせたのであろう。さて、ワークショップは腕輪などのビーズの小物を作るグループと、シールズとともにビーズのひもとビーズで作った「フラワー」(この名称にはシールズが若手作家として活躍した60〜70年代の香りが感じられる)をインスタレーションするグループに分かれて交代で作業が進められていった。
Workshop

ワークショップ

Workshop

ワークショップ

シールズは事前の調査でかなり具体的に設置場所を計画していたようで、これをそこに、これをあそこから垂らしてなどきびきびと指示を与えると同時に、おおかたの作業を自らの手で行なっていく。美術館の高い壁の突端に何の迷いもなくすたすたと歩いていく大男シールズの姿はなかなか雄壮であった。そして彼の存在によってそこがまるで険しい山の断崖絶壁でもあるかのように見えてくるから不思議だ。ニューヨークのロングアイランドで魚や牡蠣を捕るなど漁師としての生活を行なっていると以前聞いて「そんなアーティストが現代にいるのか?」と疑問に思ったものだが、しばらく彼の姿を観察するうちに「こういうことか」と合点がいった。シールズは霞を食うタイプではなく、地に足のついた、生命力あふれる自然派なのだ。彼はそういう体をしている。
 ビーズのひもを高い壁から垂らしたり、階段横に設けられた池の流水にひたしたり、「巨大な絵」は美術館の風景を見る見る間に変えていく。二本の木の間にカーテンのようにビーズを張り巡らせたインスタレーションは美しく見事なものであった。このように、シールズによる「公開制作」の時間を共有できたことは実に有意義であったし、それが今回の主たる目的であったと思うのだが、もう少し参加者自身が企画・制作する内容が盛り込まれればより面白かったのではないかと感じた。そうすることによって作家のコンセプトや制作プロセスが自分の問題として理解できたはずだ。そしてグループごとに構想を練る時間を少しでももてれば、参加者の交流にもつながったと思う。また、全くの素人の発想は意外にもアーティストに刺激を与えるものであり、シールズ自身思いもよらないアイデアを得ることができたかもしれない。
Workshop

ワークショップ

Workshop

ワークショップ


 それにしても、エネルギッシュなシールズに身近に接したことが、参加者にとっては何よりの体験であったことだろう。私自身、分類不可能なユニークな作品の魅力にふれることができたこと、そして現代にはびこる文明病とは無縁のアメリカ人作家の生き方を垣間見たことは大きな収穫であった。
写真提供:CCGA現代グラフィックアートセンター

形象としての紙:アラン・シールズ展

会場:CCGA現代グラフィックアートセンター
会期:1998年9月12日(土)〜11月3日(火)[前期]
   1998年11月7日(土)〜12月20日(日)[後期]
公開制作ワークショップ:10月25日(日)
問い合わせ:Tel. 0248-79-4811 Fax. 0248-79-4816

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