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海外アート・レポート ..

ヨーロッパ紀行 スウェーデン、ストックホルム篇
アート修学旅行は今日も賑やか

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J-way案内状
J-way 案内状

ガイドブック
ホテルのガイドブック
LYDMAR HOTEL

 昨日(10月4日)、スウェーデンから帰国したばかりだが、締切りに追われてボーとしながらも、つい先日までのウィ−クエンドの騒ぎを夢から覚めぬうちにお伝えしなければならない…。さて、今年2度目のストックホルム訪問は、総勢40人という大掛かりな集団旅行となった。それは、まるでアートのための修学旅行といった賑やかさである。いつも、ひとりでヨーロッパを視察している私としては、ちょっと不馴れな環境だったが、ひとり旅につきものとなる孤独な食事とは今回はまったく縁が無かった。というより、朝から晩まで人、人、人と一緒にいるのが当たり前。毎日がパーティ、ドリンク、パーティ、ドリンクとまるで社交界にデビューしたような酒とバラの日々である。さて、いったいストックホルムで何があったのかと興味津々といったところだろう。それは、すでに紅葉が始まっていた美しい公園の前にあるリドマール・ホテルというストックホルムで最も有名でホットなスポットで行われたアート・イヴェント「J-Way」に参加したためである。
 「J-Way」は、トーマス・ノーナンドスタッドというスウェーデンでかなり有名なアートの仕掛人が企画した日本のサブカルチャーを紹介するプロジェクトだ。したがって、ファイン・アートのみならず、音楽、マンガ、ファッション、映画、パフォーマンス、クラブなど様々なジャンルが混在した「いまの日本」を斬新な手法で紹介するイヴェントである。トーマスは、日本にときどき出現していたらしい人物だが、私はスウェーデン大使館夫人エヴァ・クムリンに紹介されて初めて会った。大使夫人のエヴァは、スウェーデンの美大で勉強していたこともあって現代美術への造詣が深い。大使館公邸にもアーティストやアート・クリティーク、キュレ−タ−などを呼んで数多くのパーティを開いている。私も招待されて何度か訪れていたが、ここまでオープンにアート・ピープルが集う官邸はどこにも無いだろう。この「J-way」に声を掛けてもらったきっかけが、パーティに呼ばれたときにちょうど北欧の現代美術について記事を書いたころだったので、そのことに触れたらエヴァがイヴェント参加に積極的に誘ってくれたのである(その記事の媒体はARTSCAPEなのだが、薄謝ながらも続けてみるものである。苦笑)。こうした出合いによって、アートが膨らんでいくのがヨーロッパ・スタイルだなとつくづく思う。

 会場となったリドマ−ル・ホテルは、市内の中心に位置していて、ショッピングにも観光にもかなり便利なところである。しかし、イヴェントの準備と開催中は身動きできず、ほとんどホテルに缶詰めになっていたので、あまり市街のことは分からない。結局、ホテルまで訪れてくれた人々しか出逢う事も無かった。こんな閉息的な世界にもかかわらず、本当にさまざまな事が起きた。ちょっとカフカ的世界を彷佛させるといえそうだ。結論に至ることのないラビリンスのなかで、いつのまにか与えられたエピソードを追掛けつつ、それぞれの役柄を演じながらすっかり踊らせていたのかもしれない。みんなそれぞれにそれを熱演してみせた。
 今回のイヴェントの総合プロデューサーの役割をしたのが、トーマスだが、エヴァがコーディネーターとして日本とスウェーデンの間を取り持ってくれた。ホテルのオーナーであるペレ・リドマール氏とは、2人とも親友らしく学生時代の遊びのようなノリで話は進んだようである。だからこそ、ある意味で組織的なプロの興業ではなく、カオス的でパワフルな学園祭のような楽しいイヴェントになった。彼らの口癖は、「リラックス!エンジョイ・ユアセルフ!」だ。オーナーのアート好きが嵩じてホテル全体がポッシュなオルタナティヴ・アートスペースといったところ。オルタナティヴとポッシュとは、なかなか結びつかないものだが、ブルジョワの道楽と考えれば納得できる。ヨーロッパではありがちなあそびである。
ホテルの室内
スウェーデンの新聞で紹介されたイヴェント
『SVENSKA DAGBLADET』紙 10月3日
Foto: Dan Hansson

 一部屋ずつサイズやインテリアを変えた作りは、インスタレーション作家にも刺激的だったはずだ。ヴィデオ作品を各部屋ごとに設置してあるワイドモニターで上映するだけで絵になってしまうのも事実である。モダンでスタイリッシュな家具やバスルームは、なかなかイケてる。ひとつひとつバラエティでおしゃれな部屋になっているアイデアは、参加者のひとりの発言によれば“ラブホテル”を彷彿させるとか!? ちょっとなるほど〜と思いつつ、日本のラブホテルのようなエンターテインメントには欠けるかな。エンターテインメントは、むしろカフェやレストランにあるのだ。ホテルのカフェやレストランほど、つまらないというのが一般的な考えだが、このホテルの1階ホールの人の集まり具合は半端じゃ無い。なにもイヴェントが予定されていない日でも、夕方になれば会社帰りの一杯のために立寄ったり、レストランではディナーを楽しむ人々で混雑している。私たちが到着した日もすでに満席状態だったから、大荷物をもって人を掻き分けてレセプションに辿り着くという状況であった。イヴェントがある日は、さらに混んでるノリノリのクラブ状態。みんなスタンディングでビールやワイングラスを片手に音楽のビートに乗っているのだ。こんなに人は集まるのも、ドリンク料だけで、イヴェントのチャージは一切とらないという太っ腹な営業方針のせいでもあるだろう。場合によったら只見で帰ってしまう客だっているかもしれない。実際に、「J-way」のイヴェントはあまりに混雑していて、ガラス越しにジャンプしてゴージャラスのライブをみてる観客も大勢いたのだ。バイタ−ズのパフォーマンスがこんなにパブリックな環境で演じたのも珍しいだろう。出演者側もスウェーデンの観客の熱い視線とパワフルな反応に盛上がって応えた。
 今回のイヴェントがバラエティな顔ぶれと内容になったのは、ひとりだけのキュレーションだけでセレクトされなかったからといえそうだ。トーマスによって質の違う日本の複数のキュレータ−(南條史生、和多利浩一、嘉藤笑子)が巻き込まれたことで、まったく視点の違う作品が集まった。しかし、選ばれた作家たちは、このカオスの海を泳ぎきってこちらの予想をはるかに越えた新大陸を発見したようである。その点でいえばキュレ−タ−の仕事は微力であったといえるだろう。むしろ、このミックスした状況を独自のサンプリングで楽しんだはずである。そして、観客のほうがこういうイヴェントの波乗りを心得いている。

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LYDMAR HOTEL PRESENTS‘J-WAY’
会場:
リドマ−ル・ホテル(スウェーデン、ストックホルム)
会期:2000年9月29日〜10月1日

東京から40人がストックホルムへ!
9月最後の週末、ストックホルムのLydmar Hotelは日本のコンテンポラリー・カルチャーでいっぱいに満たされます。アート、ミュージックパフォーマンス、ファッションショーなど様々なイベントをご用意。日本のキュレーターがホテルの部屋を独特なアート・インスタレーションでプロデュース、廊下の壁をマンガで飾り、アニメーション「Perfect Blue」を上映…ホテルの外には原宿のシルバー・プレッツェルが浮かび……この他にもまだまだあります!Lydmar Hotelが日本から招待された参加者達をおもてなしします。イベント全体のオーガナイザーはMr. Thomas Nordanstad。インディペンデント・キュレーターとして過去数年にわたってLydmar Hotelのアート、フォトイベントをアレンジし、同ホテルをストックホルムにおける重要なコンテンポラリー・カルチャーの目標となることに貢献。Mr. Thomas Nordanstadは99年の「スウェーデンスタイルin東京」でもアート・フォトイベントにキュレーターとして参加しており、今回のJ-WAYはスウェーデンから参加したアーティスト達が東京で出会ったもてなしに応える形で実現したと言えるでしょう。キーワードは今回も同じく:「コラボレーション」です!――「J-way」企画書より抜粋

ファサードのインスタレーション
建築家 マーク・ダイサムによるシルバープレッツェルのかたちをしたバルーン作品の設置による

キュレーター:
南條史生+アシスタントキュレーター 小沢有子
アーティスト:秋山さやか、Candy Factory:(フェデリコ・バルネ−ロ+古郷卓司)、ゴージャラス(松蔭浩之+宇治野宗輝)、ヴィデオ上映(奥田寛、佐藤義尚、松本力)

キュレータ−:
嘉藤笑子
アーティスト 鈴木貴博(パフォーマンスとカリグラフィー) 、東恩納裕一(インスタレーション)+荒木経惟、木村友紀、喜多順子、斎木克裕、青木陵子、田中功起、林佐織、藤田淳による作品展示(フォト、絵画、ビデオ、インスタレーション)

キュレーター:和多利浩一
アーティスト大木裕之(ヴィデオ上映+インスタレーション)、落合多武(インスタレーション)、バイタ−ズ(アキラとブブのパフォーマンス)

キュレーター:マリリン山田
ホテルロビーと廊下にマンガをアレンジ
「Perfect blue」1999年作アニメーション上映

古館徹也(ノイズミュージック)+
有馬純寿(サウンドサンプリング、エクスメンタルミュージック)

スリープウォ−カー(アシッドジャズ)

ファッションショー
Akihiro Fujita(SUN DESIGN, オーガナイザー
デザイナー: Shigeo Mimori(MIMORI), Nobuhide Yoshioka(PRONREVEIL)Fumihiro Uno and Ruiai Ka(PIED DE BICHE)

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