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海外アート・レポート ..

「東風」フレンチ・エスプリをビビットさせる!?

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Vent d'Est 案内状
Vent d'Est 案内状
 いまは枯れ葉が舞う秋深いパリだ。というより、すでにコートを着ているので初冬かもしれない。というわけで今回は、現地報告になる訳だが、考えてみれば3月に光州ビエンナーレについて報告して以来、ずーと海外情報を書きつづけているようである。つまり、ずーと旅を続けているということになる。むしろ、日本との往復を続けていると言ったほうが正しいかな。なんだか、そう考えるとかなり疲れがたまってくる感じだ…。確かにとっても疲れているんだけどね。
 今回のパリは少し長めで3週間ぐらいの滞在。room というオルタナティヴ・スペースで「東風」と題した日本現代美術展を企画しているからである。日本から喜多順子、鈴木貴博、田中功起、林佐織、東恩納裕一、古川弓子の6人による若手アーティストを紹介する展覧会だ。知ってる名前がちらほらあるだろうか?もし、いなくても構わないといったら語弊があるかな。でも、そのぐらい無名、新人アーティストを選んでみたのである(もちろん、すでにエスタブリッシュされた作家だっているんだけどね)。世界ではちょっとぐらい知られていたって、新人だって同レベルに扱われるのだから全ての人にチャンスがあるという状況なのだ。せっかくだったら、チャンレジ精神があるほうが楽しいじゃないか。といった意識も含めてできるだけフランスで初めての展覧会となる作家を選んだ。実際にみごと全員が初めてのヨーロッパ進出となった。プレ・イヴェントとしてストックホルムにも本展から作品を一部持っていったが、今回が本格的な展覧会である。ハンス=ウルリッヒ・オブリストからは、「多くの人間が有名アーティストを獲得するのにやっきになっているのに、まったくの無名作家を選ぶとは立派である。21世紀はもはや君たちの時代だ」とエールを送られる。はたしてそれが真意であれば、これから何かが起こってもおかしくないはずだけどね…。

 roomは、日本人アーティスト細木由範氏が昨年4月に始めたスペースでこれまで日本の作家を中心に展覧会を開催してきた。1年半ですでに6回目になるというのだから積極的に活動しているといえるだろう。これまでは個展または2人展という形式だったが、「東風」は初めてのグループ展で、初めての外部キュレータ−となった。細木さんとは、ロンドン時代からの友人である。ロンドンのACAVAというアーティスト・レッド・スペース(アーティストが中心にオーガナイズしているスタジオ+ギャラリー)のグループ展に参加していたのが出会いだった。細木さんが、自分自身でオルタナティヴ・スペースを始めようとしたきっかけは、ロンドンにあるといっても良さそうである。96年パリで初めて大掛かりなイギリス現代美術展「ライフ/ライブ」がパリ市立近代美術館で行われた。その頃のロンドンを象徴するようなかなりパワフルで若いエネルギーが集まったごちゃごちゃの展覧会だったが、たくさんのオルタナティヴ・スペースがまるでアーティストのように参加していたのだ。ロンドンのオルタナティヴ・スペースというのは、そうやって海外で紹介される程かなり発展している運営形式なのである。その頃はロンドン在住で、あまり客観的にロンドンを見ることがなかったから、その部分をクローズアップされたことで改めてロンドンのアート事情というのを観た思いがしたのである。その展覧会によって、かなりオルタナティヴの魅力を観客に与えたし、また自分でもできるんじゃないかなと思わせたようでもある。細木さんに限らず、ロンドンのオルタナティヴ・スペースに刺激を受けた人に桃谷恵理子さんがいる。彼女は「ライフ/ライブ」より先の95年から「シェ・モモタニ」という名前で自分の自宅のアパートを使ってユニークな展覧会を開催している。彼女もまた積極的な活動を行っていたロンドンのオルタナティヴ・スペースに可能性を感じたということだった。しかし、ロンドンのオルタナティヴ事情は、現在はマーケットの向上でコマーシャル化が進んでしまって、以前のような活気のあるノン・プロフィット・オーガニゼイションが衰退してしまったのだから皮肉な状況といえるかも知れない。今回、ロンドンのオルタナティヴ・スペースに声をかけてもなかなか実行されなかったのが、こうやってパリのオルタナティヴで自主企画の展覧会が開催できるのも、そんな状況の変化が多少関係しているとも言えそうだ。でも、細木さんによればパリはオルタナティヴが発展しにくい場所だそうである。国家主体の芸術運営が中心になっていることもあって、なかなか個人レベルで組織運営をしたがらないといえるかもしれない。また、フランス人の気質がそうさせているのか、アーティストによる自主運営はなかなか継続できないといわれている。さて、細木さんはどこまでがんばれるのか、これから楽しみなところである。

 東恩納裕一のカーテンの作品
東恩納裕一のカーテンの作品

喜多順子と田中功起
展示風景
喜多順子(絵画)、田中功起(ヴィデオ)作品

東恩納裕一(地下インスタレーション)作品部分
展示風景 東恩納裕一
地下のインスタレーション(作品部分)
Foto: Emiko Kato
 roomは、パリの中心からRER線で20分ぐらいのところだが、ちょっと離れただけで閑静な住宅街といった雰囲気だ。会場が細木さんの個人宅でありアトリエでもあるから普段は生活の場でもある。しかし、前の持ち主がヨットの設計をしていたということもあって、造りがシンプルで白い壁が豊富にある。もともとからギャラリーに向いていた場所といえるかもしれない。入り口からすぐのスペースが天井高が2.7mとちょっと高くて広い。床の白いタイルがちょっとユニークだ。入ってすぐに東恩納裕一のモデルハウスのプリントのついた大きなカーテンの作品が、ピンクの蛍光灯に照らされている。窓には黒いゴムバンドのストライプ。向いの壁には、田中功起のコーラが流れ続く作品。そして喜多順子のペインティング。この入り口のスペースが通常の展覧会会場とすれば、地下はちょっと不思議な空間だ。蟻の巣のように奥へ奥へと続くのである。その2つの空間を結んでいる小さな中庭があるのも嬉しい。その中庭では、鈴木貴博がよくぞ!という場所を見つけて「生きろ」パフォーマンスを行った。彼が会場をアレンジするとパリ郊外のパテオがすっかりアジアの喧噪したどこかの市場のようになってしまうのだから、アートとは楽しいマジックである。地下の階段入り口に喜多順子のペインティングが蛍光灯の青光りで照らされていて、そこから導かれるように地下へと入っていくのだ。小さな部屋がいくつか別れているのも魅力的なのだ。林佐織の小型のドローイングが100枚と毛玉でできた立体作品が印象的。そして、次の部屋で古川弓子の小説からイメージした立体作品が小さく静ひつに置かれている。田中功起のプロジェクターの作品とバランスよくインスターレーションできた。さらに奥に小さな洞くつのような窪みがあって、もっと小型の古川の作品が設置されている。そしてさらにさらに一番奥は、東恩納のミラーボールの作品があるのである。こうやってただ状況を羅列しただけでも、かなり豊富な内容になっているといえるだろう。ちょっとわざわざ出かけるのは面倒と思いつつ行ってみれば、結構楽しめた。というのが、おおかたの感想だ。なかには、かなり褒めちぎってくれる人もいたが、できれば客観的にもっと評価を聞いてみたいところだ。だれか観に来てくれませんか?いまからでも…。  

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「東風」日本現代美術展
出品作家:喜多順子、鈴木貴弘、田中功起、林佐織、東恩納裕一、古川弓子
キュレータ−:
嘉藤笑子
会場:
room パリ 40 rue Pierre Marcel 94250 Gentilly France
   RER B線ジャンティーイ駅徒歩5分
会期:2000年10月27日〜12月4日
オープン:土曜日、日曜日、月曜日 14:00〜19:00 または事前に電話連絡
主催:Notre Creativite Chambre 日仏交換美術展実行委員会
問い合わせ:Tel&Fax: +33-1-49-08-98-21

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