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The Best of 1997/1998
1997年のアートシーン/1998年のアートシーン

八角聡仁 批評家
1997年のアートシーン(演劇/パフォーミング・アーツ)

1――評価した展覧会/イベント/作品など
豊島重之 構成・演出 『HO-58/HO-59』
  モレキュラーシアター
ピーター・ブルック演出 『しあわせな日々』
パトリス・シェロー演出 『ヴォツェック』
  ドイツ、ベルリン国立劇場

『HO-58/HO-59』はベケットとアルトーのテキストを用いて写真と演劇を接合した画期的な試み。『しあわせな日々』はそれと対照的に戯曲に忠実な舞台だが、いい俳優(ナターシャ・ベリーが好演)と緻密な演出があれば、ベケットは単純な意味でも面白い。『ヴォツェック』はバレンボエム指揮の音楽とも相まって、現代におけるオペラの「演劇」としてのアクチュアリティーを再認識させる。

2――活動が印象に残った人物
豊島重之
吉増剛造
シルヴィ・ギエム

豊島は上に挙げた他、ダンス・オペラ『San Nai』ではまったく違った展開を見せるなど、刺激的な上演を続けている。現代最高の詩人である吉増が、今年はそのモレキュラーシアターへの演出をはじめ、アテネフランセ文化センターでの「映画詩」などのイヴェントで、「演劇」への志向を強めたことが注目される。ギエムは舞台はもちろん、自らのプロデュースしたビデオも印象に残った。

3――記憶に残った動向/トピックスなど
ベケットの再発見
新国立劇場のオープン

ベケットについては上記の他にも、マギー・マラン『メイ・ビー』の来日公演や、未邦訳だったテキストの出版など、現代演劇がこの作家を避けて通れないことがようやく確認されつつあるのは喜ばしい。新国立劇場は内容の情けなさは、税金の無駄遣いとしか言いようがない。



nmp.j1997年12月25日号
シェロー演出による
アルバン・ベルク『ヴォツェック』
――オペラの終幕
●阿部一直











nmp.j1997年7月24日号
シルヴィ・ギエムへのオマージュ
●多木浩二


nmp.j1997年8月7日号
『エヴィダンシア』
ビデオで楽しむシルヴィ・ギエム
●多木浩二

シルヴィ・ギエム
ビデオ『エヴィダンシア』
1998年のアートシーン(演劇/パフォーミング・アーツ)

1――期待する展覧会/プロジェクト/作品など
川村毅構成・演出『名づけえぬもの』
《土方 巽 '98》

'98年にはどんな公演があるのかほとんど知らないので、手元に情報があるもののみ。『名づけえぬもの』は'90年代の世界的な構造変化にもっとも真摯に向き合っている演出家による、ベケットの小説に基づいた上演。主演が唐十郎というのも興味深い。
《土方巽 '98》は1年間通して行われるイヴェント。全集も刊行されるが、大野一雄、田中泯らの公演が土方のアクチュアルな可能性を見出す契機となることを望みたい。

2――活躍が期待される人物
豊島重之
川村 毅

ともに海外公演が相次ぐこともあり、世界的な視野で仕事を展開していくことを期待する。

3――1998年はどのような変化があると思いますか
期待を込めて言えば、「演劇」という枠組み自体を問いに付すようなものしか生き延びられないはず。日本の状況において現実的には、一方で共同体的な「退屈ごっこ」がますます開き直って盛んになり、一方ではそれを打破する一つの方向として、狭義の演劇のダンスやオペラへの傾斜が強まっていくことが予想される。






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