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ArtDiary ||| 村田 真のアート日記
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9月25日(木)

朝日新聞朝刊に「カメラの列」と題する写真。大勢の報道カメラマンが、パリのエリゼ宮から出てきたジョスパン首相を出迎える図だが、彼らは全員カメラを地面に置き、腕を組んで見てるだけ。ダイアナ元英皇太子妃の事故死で、フランス司法当局がカメラマンの身柄を拘束し、記者証を剥奪したことへの抗議のパフォーマンスだそうだ。カメラマンが撮影しないことで抗議の意志表示になるのなら、抗議されるほうにとってこんなに楽なことはない。きっとダイアナもこれを望んだことだろう。
 だけどここでいちばんおもしろいのは、「だれがこの写真を撮ったのか」ということだ。ひとりだけオキテ破りがいて、この写真をスクープしたとするなら、こんなに皮肉なことはない。が、実際にはカメラマンのうちのひとりが代表撮影したのだろう。とするならこれは、撮影する意志がないという意志で撮影されたものなのか? あるいは、カメラマンが徹底した撮影拒否を伝えるためには、撮影拒否を徹底することができないのか?

9月30日(火)

井上武吉が死んだ(9月26日)。
PHスタジオの夜討ちにあい、痛飲。彼らはしばしば仕事場に現れて飲んで帰るのだ。

10月1日(水)

リキテンスタインが死んだ(9月30日)。
夜、ダムタイプの「OR」を見に、新宿のパークタワーホールへ。半円形の舞台に吸い寄せられるように、前のほうの席に座る。おっと、隣の席にシュー・リー・チェンが……悪いけどアイサツは抜きだぜ。面識ないもん。
 舞台上に手術台らしきものが運ばれてきて、スタート。ストロボの閃光とデジタルな金属音のシャワーの中で、パフォーマーたちが踊る。一歩間違えれば不快な音と光だが、二日酔いにもかかわらず奇妙に心地よい。ひとしきり終わると、次はコント。ってわけでもないけど、犬とご主人様の役割が代わりばんこに交代していったり、全裸女性の死体(のつもり)を黒子(白い服を着てたけど)が歩かせたり、生と死あるいは主と客の入れ替わるイメージが繰り返される。これが「生と死の間に横たわるグレイゾーンにまつわる考察」であり、「自己と非自己のボーダー」であり、「死をごまかす方法」についてのイメージなんだろうね。
 最後は、背後の白い半円形のスクリーンにハイウェイを疾走する映像が映し出される。途中でスピードが増し、「2001年宇宙の旅」のラストシーンを彷彿とさせる。これがけっこうシミュレーションゲームのように吸い込まれてしまうんだな。やっぱり前に座ってよかった。
 「OR」とは、例によって、「生か死か」の二者択一のほか、OR-binary system(2進法)、ゼロ・アール(半径0、見えない円、点)、オペレーションルームなど多義的な意味を持つ。が、シンボリックなイメージを多用した「pH」より明快だし、また粘着質な言語に頼った「S/N」よりすっきりして、好感を持てた。ま、コアなファンには物足りないかもしれないけど。

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