reviews & critiques
reviews & critiques ||| レヴュー&批評
home
home
dance
「舞踏」は真に“マイナーなもの”へと転成できるか?
──土方巽'98前夜祭
熊倉敬聡

前夜祭の様子

1998年1月17日、恵比寿にあるイーストギャラリーで「土方巽'98前夜祭」が行われた。今年は、1986年に没した土方の13回忌に当たる。それを機に今年を「土方巽'98」と銘打ち、土方並びに舞踏に関する様々な催し、企画が繰り広げられることになった(『土方巽全集』も河出書房新社より出版される)。そのオープニングを飾って、「前夜祭」が麿赤兒の構成のもと、多くの舞踏団体、舞踏家の参加により行われた。
 それは、68年の伝説的な『土方巽と日本人──肉体の叛乱』の、日本青年館への入場シーンを彷彿とさせるような、恵比寿駅からの舞踏家たちの行列で始まった。今やガーデンプレイスなどで、東京の代表的な「トレンディ」な地区の一つである「恵比寿」の街中に、それは「東京」が長らく忘れていた異物を持ち込んだかのようであった。
 行列が会場に到着すると、会場の中央には土方を祀る祭壇のごときものがあり、土方の大判の写真パネルが幾枚かくるくる回るもと、米や野菜などの供物が捧げられていて、舞踏家たちはその周りをゆらゆらと踊り出す。会場はものすごい人だ。まさに老若男女が入り乱れ寿司詰め状態になっている。文字通り祭りのごとき熱気だ。
 土方生前の友人であり全集の編集委員でもある種村季弘を筆頭に、土方の未亡人である元藤あき子らが開会の挨拶をした後、今宵に集った舞踏家たちが、会場の四隅に配された小舞台で次々と紹介され、自分らの「舞踏」を踊る。次いで、土方に馴染み深いビートルズなどの曲が流れる中、生前の土方の様々な表情、仕草をとどめる写真が会場の壁面にスライドで映し出される。そして、土方の声。その、インタビューに応えている声は、彼の踊り同様、身体の深い疼き、衝動などから直接発せられていて、会場の空間を強く打つ。そして、しまいには祝電の紹介。大野一雄やスーザン・ソンタグ らのメッセージが読み上げられる。
 フィナーレは、一応麿によって構成されていたらしいのだが、会場の盛り上がりは(そしてしまいには麿自身が率先して)それを全く無視し、ミュージシャン、踊り手入り乱れてのレイヴのごとき狂騒となった。



土方巽'98

大野一雄と白林聖堂、笠井叡と天使館、麿赤兒と大駱駝館、田中泯とPlan B、大森政秀と天狼星党(テルプシコール)、元藤あき子とアスベスト館(土方巽記念資料館)を拠点として実施。さまざまな表現活動が年間を通して各地で展開される。


美術と舞踏の土方巽展
会場:池田20世紀美術館
  (静岡県伊東市)
会期:1997年12/1〜1998年2/28
問い合わせ:Tel. 0557-45-2211



出演者
前夜祭出演者たち
「舞踏的なもの」の再発見へ

今、「レイヴ」と書いたが、この光景のただ中にいながら、頭をよぎったことがある。なぜ、日本では、60年代、70年代のこのような「舞踏」に代表される「アングラ」カルチャーが、その後、今や「クイヤー」などと呼ばれる文化の異形性へと接続されなかったのか。それは土方や寺山といった「天才」が死んでしまったからなのか。しばしば舞踏は失速してしまったとか、マニエリスムに陥ってしまったなどといわれる。確かにそれはあながち間違ってはいない。しかしそれと並んで、あるいはそれ以上に、80年代日本の社会現象としての「ポストモダン化」の力が、文化を、その「暗黒」の層まで漂白してしまったからではないだろうか。
 『土方巽全集』が出版され、「土方巽'98」などが開催される関係上、これから舞踏はもしかするとマスメディアによって「メジャー」化されるかもしれない。はたして舞踏はそのようなマスメディアの記号化、「トレンド」化の力に抗すことができるだろうか。抗しつつ、社会を新たに特異化する真に「マイナー」なものへと転成することができるのだろうか。
 なにも、舞踏の「スタイル」を反復することが、(土方の意味での)「舞踏的なもの」を実践することにはならないと思う。むしろ、土方が舞踏の中に見、実現しようとしたものを、現在というコンテクストの磁場の中でどのように作動させていけるかを改めて問う直すことこそ急務なのではないだろうか。

会場風景
盛り上がる会場


写真:アスベスト館
土方巽'98前夜祭
会場:イーストギャラリー
会期:1998年1月17日
問い合わせ:Tel. 03-3793-3164 土方巽'98事務局

top
review目次review feature目次feature interview目次interview photo gallery目次photo gallery artscene97-98目次art scene 97-98





Copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 1998