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現代美術によるアーバニズム
――ベルリン・ビエンナーレ1998−2000
槻橋 修

イヴェントからシチュエーションへ

review今年の10月、ベルリンではじめての現代美術のためのビエンナーレが開催される。先日、CCA北九州が主催して行なわれたシンポジウム『Let's Talk About Art 1998』にパネラーとして参加していたクラウス・ビーゼンバッハ――ベルリンのクンスト・ヴェルケ(現代美術センター)のディレクターであり、CCA北九州のインターナショナル・コミッティーでもある――によって国内で初めてのプレゼンテーションが行なわれた。
「1998−2000」とあるのは、このビエンナーレが従来の国際美術展とは形式の上で一線を画すことを目論んでいるためである。すなわち、2年に一度、短期間に世界中の作品を集めるのではなく、2年間とおして継続的に国際的な美術展を行なっていくという企画なのだ。確かにビエンナーレの語源である<biennial>には「二年ごとの(行事)」とともに「二年間続く(事態・状況)」という意味もあるし、「太く短く」ではなく「細く長く」という訳なのだが、これは単に今までの博覧会的なビエンナーレ形式を批判するだけにはとどまらない、本展のメイン・コンセプトと密接な関わりがあるようだ。
 ビエンナーレを企画構成するのはビーゼンバッハに加え、ハンス・ウルリッヒ=オブリスト、ナンシー・スペクターという前線の3人。オブリストは昨年ウィーンのゼツェッションで《Cities On the Move》と題した国際展を企画した若手キュレーターで、いまや業界では相当有名人らしい。本誌でもその敏腕ぶりが紹介されている。ナンシー・スペクターはグッゲンハイム美術館の現代美術キュレーターで昨年のヴェネツィア・ビエンナーレでもキュレーターをつとめている。クンスト・ヴェルケを設立し、ベルリンの中心街にソーホーのようなアート街を作りあげたビーゼンバッハを中心として、彼らがこれから2年間にわたり実現しようとするビエンナーレ。それは、ヴェネツィアと同様の美術展を場所を変えてやるのではない、現在のベルリンがあってはじめて可能になるようなビエンナーレなのである。

主題としてのベルリン

来年に迫った首都機能の移転にあわせて、現在ベルリンは急速な変容の渦中にいる。巷でいわれる「ベルリンでは地図が役に立たない」というのは言い過ぎではない。中心部の人口8万人ほどのミッテ区だけでも、工事の件数が約3,000にのぼるという。《Cities 〜》で急成長するアジア都市を主題にしたオブリストが、ベルリンは「ヨーロッパの中のアジア都市だ」と言っているそうだが、むしろその驚異的な復興のピッチはアジア以上に「アジア都市」的かもしれない。ベルリン・ビエンナーレが2年間もの期間、継続的に行なおうとするのは、このように現実に日々更新されていく都市空間の特殊な時空間を現代美術によって顕在化させると同時に、近代(西洋)化の問題を問い直す試みなのである。したがってベルリンという都市空間は、従来のような国際展の舞台=容れ物なのではなく、招待される作家すべてに課せられる主題なのだ。彼らはいわば「現代美術によるアーバニズム」を目指しているのだと言えるだろう。
 最近ベルリンに関係した50人におよぶアーティスト、建築家、映画作家らによる《Berlin/Berlin》展を皮切りに、《7/11》《Flanerie》という3つの主要なイヴェントが、2年間にわたって連続的に開催される。《7/11》はビエンナーレのメイン・コンセプトである<時間>や<プロセス>に基づいて、少人数の作家を各国から招待し、サーヴェイを行ないながら新しいプロジェクトを制作するというもの。《Flanerie》は世界中から多数のアーティストを招き、<フラヌール(遊歩者)>としてベルリンを歩き回ってもらい、各々が抱いた印象をあつめて、2000年に一挙に公開するというものだ。また10月のオープニングには、様々な分野の人を招いた三日三晩のマラソン会議《Congress3000》も予定されている。



クンスト・ヴェルケ
クンスト・ヴェルケ
《Berlin/Berlin》《7/11》の開催場所ともなる
photo: Andras Siebold


ベーベル・プラッツの銀行
ベーベル・プラッツの銀行
《Berlin/Berlin》会場
photo: Andras Siebold


nmp_j 1997年9月18日号
キュレーター・オン・ザ・ムーブ
「混在以外、何の一貫性もない新しい世界」への視線
……太田佳代子



《Berlin/Berlin》会場
《Berlin/Berlin》会場
photo: Albrecht Gruss


世界文化センター
世界文化センター
《congress3000》の会場となる
photo: Albrecht Gruss


ベルリン・ビエンナーレ1998−2000
会場:ドイツ、ベルリン市内
会期
《Berlin/Berlin》1998年10月1日〜1999年1月3日
《7/11》1999年10月〜
《Flanerie》1998年〜2000年
《Congress3000》1998年10月1日〜2日〜3日
問い合わせ
tel. (49) 30 28 59 91 48
fax (49) 30 28 59 91 50
e-mail: presse@berlinbiennale.de

Erste berlin biennale 1998 bis 2000
http://www.berlinbiennale.de/

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