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《メディアローグ――日本の現代写真'98》
倉林 靖

展覧会場を巡ってまず感じたのは、何ともいえない空虚さだった。なぜ自分はここでこれほど空虚さを感じたのか……たとえばこの展覧会には、その作品に共感して私がパンフレット等に解説を書いたことのある作家が出展している(太田三郎、オノデラユキ)。だがそれらの作品も含めてこの展示にはどこかよそよそしさを感じずにはおれなかった。だからその理由の一端は確かに幾人かの出展作家の作品そのものにあるのだとしても、また他の一端は、展示構成あるいは展示コンセプトにあるかもしれないと思われた。会場には内外のキュレーターや評論家のコメントが壁や柱にディスプレイされて(それもわざと読みにくいように)いたが、まずこれが良くなかった。コメントともども展示作品までが、読解されるべき単なる情報(あるいは単なる装飾)のようにみえてしまうからだ。こうした負の効果は、会場内でCD-ROMをモニターで見せていたことにも同じくあらわれていた(ついでだがカタログにCD-ROMを入れて販売するのはパソコンを持たない私にとってはただ迷惑なだけである。CD-ROMはいらないからもっと安くしてくださいと係の人に言いたかったが勇気がなくていまいち言えなかった)。もっと会場構成がうまく行なわれていたら、私はたとえば山本昌男の作品展示などをさらに大きな共感を持って眺められたかもしれないのである。

だが私が感じた空虚さの原因は展示構成だけでなく展覧会コンセプトそのものに原因があるのかもしれないと思い、カタログ序文を読んでみた。すると少しは納得できたような気がした。出展作家の写真作品に「ただひとつだけ共通性を見出すとすれば、それぞれが『メディア』との対話を、そして自分たちを取り巻く『世界』との対話を積極的に試みている、ということである。とかく自閉的になりがちな創作の場において、彼らは彼らのやり方で『不安』な現代との接点をなんとか探し出し、それを『世界』と向かい合うための、すなわち『対話』を始めるためのメディアとしようとしているのである」と、そこには書いてある。
 なんと楽天的な見方であるか、といっておきたい。今日の写真表現の質が圧倒的に下落しているのは、たとえばアラーキーの悪い影響を受けた若者たちが自己表現でもなんでもない単なるスナップをアートと称して垂れ流しているからである。写真とは、何もないところにあたかも「対話」や「コミュニケーション」や「表現」が成立していると錯覚させてしまう危険をもつメディアの謂である(確かソンタグが似たような趣旨のことを言っていた気がする)。写真は、カタログ解説でも触れられているケータイやポケベルやプリクラとここでは同じなのであって、何も言うことのない、何にも話すことをもたない若者たちがメディア販売戦略に乗せられて何かを伝え合っているかのような錯覚に陥っている。マクルーハンのいうようにそもそもメディアはマッサージなのだと考えればそれも頷けるが、美術館という場ではマッサージと表現の差はつけてもらいたいと思う。

ケータイを使う若者たちはまさにそのためにますます孤独感に陥っている。私はそもそもそんなに世界にコミュニケーションが必要なのか根本的に疑っているものであり、愛とコミュニケーションは別なのではないかと思っている。伝達不可能性の中で思考するからこそ表現は豊かなのであり、一見理解不可能だからこそ表現は魅力を持つ(ダゲレオタイプの肖像が魅力的なのはそのためだ)。
 現代人に必要なのはむしろ自己と向き合うための豊かな孤独であると思うが、今日希求されているのは、自己を何も持たない者が退屈しのぎに求めるコミュニケーションで、そこでは乾いた孤独しか生まれない。だから私は現代人が豊かな孤独に浸るためならば、カタログ解説の意見に反して、美術館が静かな、落ちついた墓場であってもいいと思う。

私は別に《メディアローグ》に出品された作品群が嫌いだといっているわけではない。鈴木秀ヲや所幸則の作品は今回の展示ではなく街なかの素敵なギャラリーでみかけたらかなり好きになるだろう。森万里子のコメントには私は感動した。彼女には、美術館での発表ではなく、ぜひともオリジナルストーリー、自作自演のSFヴィデオを作って精神文化優位の思想を全世界に広めてほしいと願わずにはいられない。こういった現在形の作家たちの展示を行なうという美術館の気概は全面的に評価したいし、この種の企画の次回展示をぜひ期待したいと思う。

展示風景
太田三郎
太田三郎作品




山本昌男
山本昌男作品




森万里子
森万里子作品


写真提供
東京都写真美術館
カタログより
《メディアローグ――日本の現代写真'98》
会場:東京都写真美術館
会期:1998年4月11日〜5月24日
問い合わせ:Tel.03-3280-0031

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