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ふたつの摩天楼都市サヌアとシバーム
イエメンの伝統的都市空間
イエメンの都市− サヌア /シバーム
シバーム全景
シバーム全景
乾期には枯れているワディをはさんで、手前に新市街がある
槻橋 修

不連続な世界の暗示

集落をもとめて旅を続けると、人間の文化とは、おおよそ途切れることなく滑らかに連続しているのだと感じるようになる。ところがイエメンという国は、このような感覚が怠惰な錯覚に過ぎないということを思い知らせる場所だ。すなわちイスラーム思想の原理をなすカラームにいう、「この世界に因果は存在せず、あらゆるもの、あらゆる時は、つながりなどなく、すべて神が直接つくり出したものである」という途方もない世界像が、現実であり得ることをわれわれに理解させてくれる。
 サヌアとシバーム。アラビア半島の南端部にあるふたつの幻想的な都市は、北に広がる広大なアラビアの砂漠とも、紅海を挟んで対岸にある北アフリカの高地とも連続性が見られない。マンハッタンのように、突如あらわれた摩天楼都市である。

hajara
地理
Sana'a, Aden, Shibam, Seyun,
Tarim, Red Sea, Gulf of Aden, YEMEN.....
二つの摩天楼の、二つのつくりかた

サヌアとシバーム。千年以上の歴史をもつ二つの摩天楼都市は、ともにユネスコの世界遺産に登録され、アラブ世界唯一の共和国となった統一後のイエメンが、海外にむけてイメージづくりを行なっていくための2大看板である。同じ塔状住居であるから、これがアラブでもっとも長い歴史をもつイエメンの住まい方なのだと理解するのが普通だ。しかし訪れてみて驚いたことに、似ているのは塔状だということだけで、この二つの都市は根本的に異なっている。つまり、建築的にみて、たがいに別々に高層化を遂げたとしか思われないような決定的な相違が、両者に見られるということである。

サヌアの塔状住居は足元部分の1、2層を石造で堅固につくり、3層目から上を日干し煉瓦でつくる。平面を見るとほぼ正方形のまわり階段が最上階まで通されており、各階の平面は超高層ビルで用いられる基準階平面のように似かよっている。最上階にキッチンがあり、屋上にはキッチンの煙突をはずして、<マフラージ>とよばれる男性のためのパーティールームが、ペントハウスとして作られる。下層から順に家畜・倉庫・リビング・女性の部屋といったふうに、階の利用の仕方は各住居に共通したルールとなっている。一つの塔状建築として構造・間取りが高度に完結しているのがサヌアの住居の特徴である。

構造の面からみれば、 シバームの住居はサヌアよりもルーズである。1層目から日干し煉瓦でつくられているため、6、7階建となると強度がもたない。補強のための支持材が足元まわりに斜めに立てられているので、住居の外形は地面から2層目くらいまで末広がりになっている。しかし空間利用の仕方はシバームの方がはるかに豊かである。4層目あたりの女性の階には勝手口が設けられて、直接隣の住居との行き来ができ、屋上部分も2〜3層にわたるテラスで構成されていて、白く塗られた上階部分だけをみると、まったく別の一つの街並みを構成しているようだ。各ブロックの中央部には、10戸程度の住居に共同の汚物スペースが設けられていて、各戸のトイレから直接落とされる汚物を、下にいる山羊が食べるという巧妙な仕掛けも機能している。(もちろん現在は配水管のためのパイプ・スペースになっているが)二つの摩天楼都市は、共にすぐれた仕組みをもった都市であるが、一方(サヌア)が建築単体の、垂直的な仕組みであるのに対して、他方(シバーム)は建築の集合状態における水平的な仕組みである。飛行機で1時間程度しか離れていない地点に、偶然にも生まれた二つの摩天楼。ここには高層化した都市空間における可能性と問題点が、純粋に結晶化しているように感じられた。

haraz
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hajara

写真:槻橋 修

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