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データにみるアート−2
651館
太下義之

nmp8月21日号から不定期連載を開始したこの小文は、アートに関する統計・資料をひもとき、例えば「鑑賞料金」「参加者数」等の具体的なデータを取り上げて、それを話のマクラに芸術文化振興政策やアートマネジメント等についてコメントしていこうというものである。 ※1:「社会教育調査」とは、社会教育に関する基本的事項を調査し、社会教育行政上の基礎資料を得ることを目的として実施しているもので、平成5年度は現時点における同調査の最新年度版。
今回は、表題の通り「651館」という数値について話をしたいと思う。これは、文部省の『社会教育調査報告書 平成5年度』(※1)から拾ったデータで、1993年10月1日現在におけるわが国の美術博物館(※2)の施設の総数である。ちなみに、科学博物館や歴史博物館等も含めた博物館の総合計が3,704館であるから、美術博物館は博物館全体の約18%を占めていることになる。
 同報告書に記載されているその他の社会教育施設の中から、この美術博物館の施設数と同程度のものを抽出し比較してみると、地方公共団体が設置した剣道場(593施設)よりやや多く、柔道場(678施設)よりはやや少ない数であることがわかる。もっとも、このような意味ありげな施設数の比較は単なるご参考ということでこの程度にして、次に入館者のデータをみてみたい。
※2:この内訳をみると登録博物館(博物館法第二条に規定する博物館)が248館、博物館相当施設(博物館法第二十九条に規定する博物館に相当する施設)が33館、博物館類似施設(博物館と同種の事業を行い、博物館相当施設と同等以上の規模を持つもの)が370館となっている。本稿における「博物館」及び「美術博物館」は、上記の3種類の施設を全て含む。
再び同報告書によると、美術博物館への入館者数(平成4年度1年間)は、約4,577万人(※3)となっており、1館当たりの平均入館者数は約7.4万人/館・年である。これに対して、学芸員の数は専任が993人、兼任が93人、非常勤が92人、合計で1,178人となっており、1館当たりの学芸員数は約2.5人/館である。これら2つのデータから、学芸員1人がカバーしている入館者の数を計算してみると1学芸員当たり年間約3万人となる。
 ところで、そもそも“学芸員”とは、博物館法第四条第四項において、「学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる」とされている。しかし、現在多くの美術館においては、学芸員としての専門的業務だけではなく、「その他これと関連する」事務全般(≒雑用)も学芸員の担当となっていることから、自らのことを“雑芸員”と呼ぶ学芸員もいるようだ。
※3:入館者数が把握されている622館のデータ。
もっとも、他の専門的職業をみても、純粋に専門的な業務だけに従事できるケースはまれであろう(※4)。したがって、学芸員が雑用を担当すること自体に問題があるのではなく、上述したような1館当たりの学芸員の少なさが公共サービスとしての美術館事業の効率性に影響を及ぼしていると考えるべきであろう。 ※4:例えば、われわれシンクタンクの研究員についても、調査・研究以外の事務的業務をこなしながら日常の研究活動を行っているのが現状である。
さて、学芸員をめぐるもうひとつの問題点として、「(学芸員であるがゆえに)自分は研究者である」という意識があまりに強いのではないか、という点があげられる。ある学芸員に聞いた話によると、公共サービスとしての展覧会の事業運営にあまり興味がない学芸員も多いようで、中には「展覧会の赤字は、自分の“社会貢献”相当分である」と開き直っている学芸員も存在する、とのことである。
 しかし、もし仮にその学芸員の主張が正しいとするならば、人々にほとんど受け入れられないような自己満足的な展覧会を開催すればするほど入館者数はどんどん減少、赤字も増大するため、結果として彼(または彼女)の言う“社会貢献”も大きくなることになってしまう。当然のことではあるが、このような“社会貢献”を期待している納税者は誰一人としていないであろう。
 全国に651ある美術館が、剣道場や柔道場以上の社会的な存在価値を発揮していくためには、例えば民間の商業施設の場合において施設の企画担当者の評価が施設の売り上げというかたちで最終的に表現されるように、学芸員(及び美術館)による社会貢献を定量的に評価していくことが必要不可欠であろう。そして、美術批評というインナーサークルの評価だけではなく、社会貢献を主軸とした評価尺度を導入することにより、美術館運営そのものの意識改革を行っていく必要があるのではないだろうか。
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