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fieldwork
ギャラリー−3
東京アートフィールド
「わたしの東京」のアート
Taka Ishii Gallery
Taka Ishii 
槻橋 修

住宅街、住宅建築のギャラリー

北大塚のTaka Ishii Galleryは住宅街の中の現代美術ギャラリーである。山手線の駅を出て歩くこと10分、居酒屋や風俗店から、レンタルビデオ店、コンビニにいたるまで、種々雑多な店舗が窮屈そうに建ち並んだ商店街の喧噪を抜けたところにある。坂道に立つ鉄筋コンクリート造3階建の一階部分がギャラリーで、上階は物静かなオーナー石井氏の邸宅になっている。白いクロスが貼られた壁をのぞいて、床はモルタルの地床、柱と天井はコンクリート打放し仕上げになっており、4メートル程の高い天井高をもつギャラリー内部には、街とは対称的な静けさが漂っている。道路に面して駐車場をとる必要から、ギャラリーの中央に大階段を設けて、道路側の床は半階上がっている。これによって入口からギャラリー全体を一望したあと、階段を下りながら作品を鑑賞するという、空間的な演出効果が生まれている。人の少ないときには愛犬の遊び場としての役割も兼ねているようだ。この建物とともに三年前にできた新しいギャラリーで、ラリー・クラークや荒木経惟、森山大道らを中心的に扱っている。1960年代頃からあまり変化していないような生活臭の濃い商店街を通ってきた身には、アラーキーやラリー・クラークの作品に描かれる、飾り気のない生身の私(わたくし)性と、いま通ってきたばかりの街の空気とが共鳴する。

外観
ギャラリー外観
二階より上は住居
空間にレベル差 商店街
敷地が傾斜していること、駐車場を設けた
ことで空間にレベル差が生じている。
山手線大塚駅とギャラリーをむすぶ商店街。
わたしの東京

「東京」と名付けられるカオティックなイメージにも、秋葉原の電気街、新宿歌舞伎町から高島平の団地群まで、いくつかのタイプがある。たとえば都築響一の『TOKYO STYLE』が紹介した若者の部屋のインテリア写真−−部屋の広さや収納家具の数をはるかに超えてモノがあふれかえっているような室内の写真は、インテリア写真でありながら、外にある街の姿まで映し出している。それは西欧の街に比べて室内的な性格をそなえた過密都市であり、住処と街の境界が曖昧な空間に、雑多なモノがあふれかえっているような都市である。この室内的な「東京」像は、映画『ブレード・ランナー』などにおける近未来都市のヴィジュアル・モチーフとして知られた秋葉原電気街に比べて、もっと身近な、私的な都市像である。そこには確かに住人たちのコミュニティが存在していて、安い食事をとるところ、洗濯をするところ、立ち読みをするところ、暇をつぶすところなどが一揃いそろっている。ただコミュニティを構成している当の住人が、コミュニティに対して離れて立っているようなコミュニティ。つまり、職場や学校など、住人ひとりひとりが別個に持っているコミュニティはもっと広域なネットワークを持っているのだが、それぞれが部分的に重なり合って、たまたまその場所に生じているような見かけ上のコミュニティ。これが「わたしの東京」とも呼ぶべき都市である。Taka Ishii Galleryのある北大塚の商店街もやはり「わたしの東京」を想起させる。街はよそ者に冷たくはないし、かといって馴れ馴れしくもない。なにかが欲しいとなれば大体与えてくれるのだが、すべて揃っているという訳でもない。

「わたし」をめぐって

Taka Ishii Galleryは、そんな「わたしの東京」で、現代美術・写真の中に描かれた「わたし」たちを紹介する。今月は3人の若手ヴィデオ・アーティスト――ダグ・エイケン、アレックス・バッグ、ナオタカ・ヒロのヴィデオ作品が上映される。ダグ・エイケンとアレックス・バッグの二人はニューヨークの303ギャラリーで発表された作品である。エイケンの『Autumn』(94年)はNYとLAの若者を撮ったコマーシャル映像から新しいひとつのものがたりを構成する。バッグの『fall '95』(94年)は彼女自身が様々に変装し、ひたすら語り続けるというもので、ビョークの歌う『Army of me』のシーンが挿入されている。ナオタカ・ヒロの『Cookin'』と『Eatin'』は「痛み」をテーマとして認知される肉体を問う実験的映像である。テレビとの相乗効果で10年足らずのうちに普及してしまったビデオは、日常生活、つまり生活の私(わたくし)性を簡単に映像化することのできるメディアである。このようなメディアの性質を作品に積極的に用いているのはバッグの独白だろう。挿入されているビョークといえば、前作『Telegram』でアラーキーによるポートレイトをジャケットに使用したことも記憶に新しい。荒木・ビョーク・バッグの三角形が、とある住宅の中に像を結ぶ。ギャラリーの静けさが、作品からあふれ出る「わたし」と、「わたしの東京」とのあいだの境界線となって、〈わたし−都市〉という主題を浮き彫りにしている。

ヒロ
ナオタカ・ヒロ『Cookin'』
バッグ1 バッグ2 エイケン
アレックス・バッグ『fall '95』 アレックス・バッグ『fall '95』 ダグ・エイケン『Autumn』
写真:槻橋 修

Taka Ishii Gallery
所在地:170 豊島区北大塚3-27-6
開館:11:00-19:00(月曜定休)
問い合わせ: Tel.Fax. 03-3915-7784
ダグ・エイケン アレックス・バッグ ナオタカ・ヒロ展
ダグ・エイケン:『Autumn』(1994, 8min.)、『Fury Eyes』(1994, 7min.)
アレックス・バッグ:『fall '95』(1995, 57min.)
ナオタカ・ヒロ:『Cookin'』(1995, 11min.)、『Eatin'』(1996、10min.)

1、2、3をつづけて上映
1回目 12:00-14:00
2回目 14:30-16:30
3回目 17:00-19:00

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