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art management
データにみるアート−5
64.0%
太下義之

nmp8月21日号から不定期連載を開始したこの小文は、アートに関する統計・資料をひもとき、例えば「鑑賞料金」「参加者数」等の具体的なデータを取り上げて、それを話のマクラに芸術文化振興政策やアートマネジメント等についてコメントしていこうというものである。

文化庁が平成4年度に実施した『我が国の芸術文化の動向に関する調査』は、全国の国公私立の文化会館・ホールについての調査(第1部)と、全国の公私立美術館についての調査(第2部)から構成されており、この第2部においては、全国の公私立美術館を対象として特別展や教育普及活動等の現況についてのデータを集計するととともに、各美術館の運営に関する問題点や今後取り組むべき課題についてもその内容が把握されている。
 この調査結果によると、「(美術館が)これから優先的に取り組むべき課題」に関しては、「PRなど集客機能の充実」(64.0%、n=298、MA)、「展示品の充実」(50.2%、同上)、「研究機能の充実」(43.9%、同上)等があげられている。優先的に取り組むべき課題として「集客機能」と回答した美術館が最も多く、全体の約3分の2にも達しており、その他の回答を大きく引き離している点が特徴的であると言えよう。

確かに、一般の人々にとって美術館という存在は、「貴重な作品を見せていただく」ので「襟を正して作品を鑑賞する」というような感じの、どちらかと言えば権威主義的で、敷居が高い施設であると考えられる。「うちの店にゃぁ、いいネタがあるんだから、お客さんは黙って食べてくれりゃぁいいんだよ!」と豪語する老舗の寿司屋の頑固おやじと多くの美術館のイメージが何故かオーバーラップしてしまうのは筆者だけではないと思う。
 このような美術館と住民との“溝”を埋め、もっと気軽に美術館へと足を運んでもらうためには、例えば美術館でシンポジウムや文化講座、ワークショップを開催するなど、住民がアートに対する理解をより一層深めることができるようなプログラムを展開したり、教育的効果が期待される展覧会を対象とした補助事業を行政が実施するなど、観客の裾野を広げるための展開が必要であろう。
 また、仮に来館者にとってあまり親しみがない作品が展示されるケースにおいても、来館者と作品とをつなぐガイド役(説明者)を設けてギャラリートークを頻繁に行うことにより、作品の持つ“意味”を観客に対して伝達することは可能であろう。このように、美術館としてのホスピタリティを向上させることは、結果として潜在的なアート・ファンを掘り起こす「観客開発」ともなると考えられる。
 さらに、小さい頃からアートを通じて多様な価値観の存在を教えることは、集客という面からだけではなく、豊かな人間性の形成においても極めて重要なことであると言える。そこで、学校の美術教育の一環として、地域の児童・生徒(幼稚園、小学校、中学校、高校等)の校外学習、クラブ活動、修学旅行や遠足等において美術館が利用されるよう、教育委員会や各学校等への積極的な働きかけを行なっていく必要もある。
 この際、子どもたちにアートや美術館の良さを実感してもらうためには、まず教師にアートや美術館のことを理解してもらわねばならない。そこで、「ティーチャーズ・ガイド」(教師のためのテキスト)を作成したうえで、教師を対象とした教育プログラムを実施する必要もあろう。もちろん、ここで言う“教師”とは、美術の教師だけに限定するのではなく、全ての学科の教師が対象として想定される。

以上のように様々なアウトリーチ活動を展開することにより、結果として美術館の集客機能の向上が期待されるが、これからの美術館は、単に集客の量的な側面だけに着目するだけでは不十分である。すなわち、来館者が快適で魅力的なひとときを過ごすことができるような空間の提供や来館者に芸術的感動を与える展示等により、結果として滞留時間が増加するなど、集客の“質的側面”に着目する必要があるのではないか。

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