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ニューヨーク便り−2
ロドチェンコからボナールへ、
そしてそこに「ヨーロッパ」があった
熊倉敬聡

今、MoMA(ニューヨーク近代美術館)で、ロドチェンコ展が行なわれている。アメリカ合衆国で初めて彼の活動の全貌を紹介する展覧会だということだ。キュレーターは、MoMAからマグダレーナ・ダブロウスキとピーター・ガラッシ、そしてゲスト・キュレーターにスタンフォード大学のリー・ディッカーマンという陣容だ。

ロドチェンコから

この文字通り多才な、そしてマルチメディア的活動を縦横に展開したアーティストにふさわしく、展覧会の構成も主に彼の使用した媒体ごとになされていた。初期(1918〜21年)の造形的Constructivism──「構成主義」という通常使われる訳語は、このムーヴメントのイデオロギー的・政治的 (construction=建築・構築という)意味をカバーしきれていないためあえて訳さないで記す──、その二次元から三次元への展開。共産主義革命の成功につれて新しいコンセプトのもとに創設されていく文化的インスティテューション(ヴフテマスやインフク)の中核に、彼が参画していくことにより、急激に造形活動の社会的意義を意識してゆき、様々なメディアに挑戦していく──グラフィック・デザイン、LEFなどの雑誌メディア、フォトコラージュ、フォトグラフィそのものなどのコーナー。そして、1925年パリで行なわれた装飾・産業芸術国際博覧会にロドチェンコが出品した「労働者クラブ」の再現(閲覧用の椅子に座ってみたが、肘掛けが異様に高く、座り心地は決していいとは言えなかった)。最後のコーナーは、20年代終わりから30年代にかけてスターリンが権力の座につくとともに、Constructivismも硬直化を余儀なくされ、「政治の美学化」の一手段に惰していくその過程を、ロドチェンコの苦悩の中に検証していく。共産主義的理想の実現という名目でなされた北極海とバルト海を結ぶ大運河の建築。この極寒の地で20万もの人間が命を落とす。スターリンの最初の大量殺戮行為。その写真ルポを(自らの延命のため)余儀なくされるロドチェンコ。自殺をしたり、虐殺されたりした彼の朋友たち(マヤコフスキイやメイエルホリド)に比して、彼のアーティストとしての「余生」は何だったのか。その問いを疑問形で残したままこの展覧会は終わる。

ボナールへ

そして、私は、そのあと別のフロアーで行なわれているボナール展へと足を運んだ。今まで、私はこの二人を結びつけて考えてみたことなど全くなかったが、作品の制作年を何気なく見ていたとき、実は、この二人は(出生年にかなりの違いがあるとはいえ)同時期に活動していることに衝撃を受けた。ヨーロッパの東の辺境で共産主義社会構築の有為転変の中で自らのクリエイティヴな才能を開花させた、がまた、その才能ゆえにその後芸術的・政治的・実存的牢獄に幽閉せざるをえなかった一人のクリエーター。他方は、フランスの豊かな自然の実りに囲まれて、食物や女の身体を味わう悦楽を(画面の表層での色彩的・構成的遅延という方法により)視ることの悦楽に変換するラテン的ペインター。もちろん、MoMAそのものには、この(図らずも同時期に活躍した)二人を対比しようなどという主体的な意図はなかったろうが、一つの偶然が、二人を出会わせたのみならず、その極端な隔たりのなかに当時の「ヨーロッパ」という亡霊をexhibitすることなくexhibitしていたことに気づいた者はいただろうか。

MoMA
(ニューヨーク近代美術館)
(The Museum of Modernn Art,
New York)
http://www.moma.org/index.
html




ロドチェンコ展@MoMA
http://www.moma.org/exhibi
tions/rodchenko/index.html





ボナール展@MoMA
http://www.moma.org/exhibi
tions/bonnard/index.html




Pierre Bonnard
http://www2.iinet.com/art/
artists/major/b/bonnard.htm



Art in Context
Bonnard-Reference Page
http://www.artincontext.com/
listings/pages/artist/0/1cg1g
790/menu.htm
ロドチェンコ展
会期:1998年6月25日〜10月6日
ボナール展
会期:1998年6月21日〜10月13日
会場:ニューヨーク近代美術館(MoMA)
11 West 53 Street, New York 10019, New York
問い合わせ:eメール: comments@moma.org
Tel. 212-708-9400 Fax. 212-708-9889

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