ニュースリリース

東京大学と大日本印刷 「ナノフォトニック階層型ホログラム」を開発

新たなセキュリティ媒体や光機能部材用途へ展開

東京大学と大日本印刷 「ナノフォトニック階層型ホログラム」を開発
ホログラムのなかに光の波長以下のナノサイズで情報の埋め込みと読み取りに成功

 

国立大学法人東京大学(総長:濱田純一 所在地:東京、以下:東京大学)と大日本印刷株式会社(本社:東京 社長:北島義俊 資本金:1,144億円、以下:DNP)は、ホログラムの立体画像を損なうことなく、読み出し可能な情報を付加することができる「ナノフォトニック階層型ホログラム」を開発しました。

このホログラムは、東京大学の大津元一教授を中心とした研究グループのナノメートルの世界の現象を探求するナノフォトニクスの研究と、DNPのホログラム製作ノウハウと微細加工技術を融合させたものです。既存のホログラムパターンに近接場光(※1)でのみ読み取ることのできる光の回折限界(※2)以下のナノサイズの情報を埋め込むとともに、その情報の読み取りに成功しました。

 

【開発の背景】

DNPは、半導体用回路原版であるフォトマスクやディスプレイ用光学機能性フィルム、各種ブランド品の偽造防止や模倣品対策に使用されるホログラムなど多くの微細加工製品や光学機能性製品を開発してきました。その製品のひとつであるホログラムは、ホログラムの表面に光の干渉縞を微細な凹凸加工で記録して立体画像を再現するものですが、製造技術の進歩とともに、常に高いセキュリティ性の確保が求められています。私たちの眼に見える光の波長は、青色で約400ナノメートル程度までとなっており、それ以下のサイズの構造は光の回折限界のため、光学顕微鏡などを用いても見分けることができません。このことは、我々の眼に見える光は、波長寸法より小さい構造の影響を受けないことを意味しています。また、光の波長より小さい物の表面付近には、近接場光と呼ばれる微小な光が存在しています。

東京大学は、この近接場光を活用したナノフォトニクスを研究しており、光の波長寸法より小さいナノメートルの世界で特徴的に生じる現象を活用した技術開発を進めてきました。

今回、東京大学とDNPは、従来のホログラムに対して、近接場光によってのみ読み取ることのできる情報レイヤーを新たに付与したナノフォトニック階層型ホログラムを開発しました。東京大学がナノサイズの構造設計と読み取り、DNPがホログラムパターンの設計と微細加工をそれぞれ担当し、これらの融合により本ホログラムが実現しました。

 

【ナノフォトニック階層的ホログラムの概要】

ナノフォトニック階層型ホログラムは、ホログラムパターンの内部に特定の近接場光を発生するナノフォトニックコード(※3)を微細加工したもので、ホログラムの立体画像に対して干渉しない近接場光の読み取りを可能としました。したがって、ホログラム自体の見た目を損なうことなく、付加的な情報や機能を追加することが可能となりました。すなわち、ホログラムの立体画像の情報を「伝搬光レイヤー」、ナノサイズの近接場光で得られる情報を「近接場光レイヤー」として、同一のホログラムで独立した2階層の情報レイヤーを取り扱うことが可能になります。

近接場光で読み取られる情報は、ナノフォトニックコードの構造と読み取り装置の双方に依存します。すなわち、ホログラム媒体と読み取り側装置がそれぞれ有している構造間の相互作用によって、情報が読み取られます。一方、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡では、それを用いてナノフォトニックコードの構造を読み取ることができたとしても、「そこで記録されている情報」については、推測を困難とさせることが可能です。

今回開発したナノフォトニック階層型ホログラムは、3次元のコンピュータグラフィックスにより作製されたホログラム『バーチャグラム®』内部に「近接場光レイヤー」として、ナノフォトニックコードを埋め込んだものです。ナノフォトニックコードの構造は、最小寸法が50ナノメートルでホログラム内に埋め込みました。ナノフォトニックコードの解析には、近接場光を検知可能な特殊な光検出器などを組み合わせた近接場光学顕微鏡を用い、近接場光レイヤー上の情報を読み取ることに成功しました。

 

写真1:
[左]『ナノフォトニック階層的ホログラム』の伝搬光レイヤーとしての『バーチャグラム®』、[中] その内部の近接場光レイヤーに埋め込まれた『ナノフォトニックコード』と、[右]その拡大写真。

 

写真2:
[左][中] 近接場光学顕微鏡を用いて読み出された『ナノフォトニックコード』と [右] その光強度分布。周期的なホログラムパターンに対して、わずかに非周期的な変調を加える形式での符号化により、各ナノ構造に起因した明快な近接場光応答の読み出しが実現できました。

 

【今後の展開】

ナノフォトニック階層型ホログラムの近接場光レイヤーでは、近接場光の階層性を生かして、さらに多くの階層での情報の入力が可能です。したがって、今後、ホログラムパターン内部において、近接場光の特徴をより顕著に発現させるためのパターンの最適化や、近接場光レイヤーの簡易読み取り方式などの開発をさらに進め、セキュリティ性や機能性を一層高めていきます。また、光の回折限界より小さな世界における主役であるナノフォトニクスは、セキュリティ用途のみならず、光機能部材用途などに向けても有望であり、新たな用途の開発にも取り組んでいきます。

なお、本開発は2009年9月8日から開催される応用物理学会で発表する予定です。

 

(※1)
光の波長よりも微小な物質構造に光を当てた際に、その物質構造の表面に発生するが遠くへ伝搬してゆくことがない特殊な光のこと。
 
(※2)
光が波の性質をもつために、その波長より小さいスケールを扱うことができないという限界のこと。
 
(※3)
「近接場光レイヤー」上に記録する情報として、ナノサイズの凹凸構造による近接場光をもとに符号化したコード。
 
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