秀英体のコネタ

2006年02月17日

 

第15回 便利でかわいい見本帳『活版の栞/しおり』のこと

 

「書体見本帳」とは、書体の製造メーカーがお客様に対し、「この書体はこういうデザインですよ、これぐらい漢字が使えますよ」とアピールするための冊子です。明治はじめの「活字の父」本木昌造の崎陽新塾製造活字目録から、現在販売されているデジタルフォントまで、どのメーカーも作っています。

もちろん秀英体にもさまざまな活字見本帳があります。しかし今回のコネタでご紹介するのは、秀英舎/大日本印刷の活字見本帳のなかでも、ちょっと特別な見本帳「活版の栞/しおり」です。

活字見本帳「活版の栞」
左が昭和36年版「活版のしおり」、右が昭和37年版「活版の栞」です。

昭和27年版と昭和36年版の違い

この見本帳は昭和27年に作成され、昭和36年に改訂されています。昭和27年版のタイトルが「活版の栞」で、昭和36年版が「活版のしおり」とひらがなに変更されています。

もちろん内容にも変化があります。昭和27年から36年までのあいだに、創業当時からの活字のサイズ体系であった号数制が社内で廃止され、ポイント制に完全移行しました。そのため、昭和27年版では号数とポイントのそれぞれが記載されていますが、昭和36年版はポイントのみです。

しかし号数からポイントに移植された書体もあります。たとえば昭和27年版に掲載されている初号は40ポイントに移植されました。本来は初号のほうが若干大きいのですが、秀英体の初号は活字の正方形のボディに対し小さめに作られていたため、うまく40ポイントに移植することができたようです。比べると文字のデザインはまったく一緒です。

初号明朝と40ポイント明朝
左が40ポイント明朝、右が初号明朝。

ここが便利(1) センチ&ポイントスケール

この見本帳には様々な便利機能が付与されています。まずは全ページの左右につけられた定規! センチとポイントが両方わかるので、急なサイズ計測にも安心です。(昭和27年版では尺とセンチでした)

スケール
左にポイント、右にセンチ。

ここが便利(2) テキストが豊富

書体見本帳の多くは、決まった例文を書体を変えて見せています。しかしこの見本帳では、各書体でさまざまなテキストを使用し、実際に秀英体を使用した時の雰囲気を掴みやすく作られています。

例えば勧進帳の「旅の衣は鈴懸の〜」、北原白秋『城ヶ島の雨』、早稲田・慶應・明治・法政・立教の各大学校歌、夏目漱石・島崎藤村・樋口一葉らの名著からの一文も。

豊富なテキスト
誰が選んでいたのかはわかりません。

ここが便利(3) 字間アキシミュレーション

字間のアキ量を変えて例文が印刷されているため、実際に書体を組版したときのイメージが湧きやすいです。例えば10ポイント明朝のページでは、アキの大きさを全角(10ポイント)・8ポイント・6ポイント・二分(5ポイント)・四分(2.5ポイント)・ベタ組みの6パターンを一覧できます。

字間
校歌を印刷するなら文字間がアキ気味のほうがかっこいいですね

ここが便利(4) 本文組版シミュレーション

本文サイズの書体ではさらに詳細に、文字サイズ・段数・行間・ルビ・判型・縦横組を確認することが可能です。ルビはパラルビと総ルビをひとつのページで比べられるように作ってあります。欧文のページも用意されています。

組版
泉鏡花『婦系図』で具体的な組版イメージがつかめます。

ここが便利(5) 印刷豆知識

巻末には、印刷の豆知識がまとまっています。校正記号表・面付時のページの並び方・規格サイズの仕上がり寸法など、知っていると便利な内容が厳選されています。

ミステリーランドとターシャ・テューダー・クラシックコレクション
欧文と和文それぞれの校正記号がわかるようになっています。

ここが便利(6) 細長くてリング綴じ

既にお気づきかと思いますが、普通の冊子の形ではありません。縦30.5×横7センチの細長い形をしており、さらに開閉可能な金属のリングで綴じられているので、各ページを一枚ずつばらして使うことも可能です。

リング綴じ
リングなので見たいページもばっちり見ることができます。

この見本帳、どうしてこんなに実用的なのでしょうか。

実は、DNPの営業が持ち歩く用に製作された見本帳だからなのです。いつも携行できるようにバッグに入る細さ、いざというときにさっと取り出し書体や組版の具体的なイメージが共有できる内容なのも納得です。

若い頃に営業を担当していたベテラン社員にこの見本帳を見せると、必ず「お〜、なつかしい!」「俺も持ってたよ〜」と声があがります。誰もがバリバリ使っていたようです。そのせいか、この見本帳が社内では使い込んだボロボロの姿で見つかることが多いのですが、営業活動の汗と涙が染み込むほど常に持ち歩いてもらえたという証だと思います。

(2006.2.17 佐々木)