秀英体のコネタ

2016年6月22日

 

第38回 高精細ディスプレイなら明朝体が読みやすい!? 〜読書速度の測定〜

読みやすい書体とは?また、秀英体の「読みやすさ」は私たち担当者の思い込みでなく、読者の方に届いているでしょうか?
前回のコネタに引き続き、今回も書体の定量評価の取り組みをご紹介します。

紹介するのは、眼光学の専門家である北里大学の川守田先生(医療衛生学部准教授)と、ディスプレイメーカーの(株)ジャパンディスプレイとの三者共同で取り組んだ読みやすさの評価実験です。

 

どんな実験?

スマートフォンやタブレットPCなど、高精細化が進む液晶ディスプレイ。
ディスプレイの高精細化で文章は読みやすくなるか、書体の種類(明朝体とゴシック体)はディスプレイでの読みやすさに影響するかを評価しました。

比較する条件はディスプレイ精細度・書体・文字サイズです。ディスプレイの精細度は一般的なパソコンと同程度の101ppi(pixel per inch)から、高精細なスマートフォン(※1)と同程度の498ppiまでの4段階。書体は秀英明朝Lと秀英角ゴシック銀L、そして、一部のディスプレイに採用されている他社ゴシック体Aの3書体。文字サイズを3ptから10ptまでの5段階としました。
(※1 例えば、iPad Airは264ppi、iPhone 6s Plusは401ppi です。)


評価した3書体

今回の実験は、読書速度を「読みやすさ」の尺度としました。
200文字ほどの横組の文章を、条件(精細度・書体・文字サイズ)を変えてディスプレイに表示。実験参加者に黙読してもらい、読了時間を測定、読書速度(1秒あたりに読んだ文字数)を求めました。実験参加者は矯正視力1.2以上の大学生15名です。


評価用画像の例(秀英明朝L,10pt)

文章は「河童」(芥川龍之介)から用いました。同じ文章の繰り返しだと学習してしまうため、条件ごとに用いる文章を変えています。

 

高精細ディスプレイならゴシック体より明朝体が読みやすい!?

従来、印刷物には明朝体、ディスプレイ表示にはゴシック体が主に用いられてきました。実験前は、ディスプレイには明朝体は不向きかと考えましたが、精細度や文字サイズによっては、予想を覆す結果が出ました。


グラフ1:ディスプレイ精細度101ppiの読書速度(書体別プロット)

このグラフの縦軸は読書速度(1秒あたりに読んだ文字数)です。上にプロットされるほど速く、読みやすかったと考えられます。
101ppiでの書体別の読書速度を比較すると、5〜7ptの文字サイズでは、秀英明朝Lはゴシック体の2書体に比べて遅く、読みにくいことが分かります。しかし、秀英明朝Lは、8〜9ptでは他社ゴシック体Aと秀英角ゴシック銀Lとの中間の速度になり、10ptではゴシック体2書体よりも速い結果となりました。


グラフ2:ディスプレイ精細度498ppiの読書速度(書体別プロット)

一方、498ppiで比較すると、7pt以上の文字サイズで秀英明朝Lがゴシック体を2書体とも逆転し、読みやすいという結果になりました。9ptでは1秒あたり1文字の差が出ていますが、1時間で3600文字(およそ小説5ページ分)と考えると、この差は小さくないですよね!

 

ディスプレイの高精細化で読みやすさが向上!

書体別のグラフ3も見てみましょう。
秀英明朝Lは、ディスプレイ精細度や文字サイズによって、大きく速度差が出ています。一方、ゴシック体の2書体は、いずれの影響も小さく、安定した読書速度です。


グラフ3:秀英明朝L/秀英角ゴシック銀L/他社ゴシック体Aの読書速度
(ディスプレイ精細度別プロット)

また、総じて、ディスプレイの高精細化で読書速度が向上することが見て取れます。スマートフォン等に500ppiを超える高精細ディスプレイが実用化されてきましたが、その精細度をもってしても、日本語の読みやすさはまだ限界ではないのかもしれません。

 

まとめ(印刷物に近づくディスプレイの精細度がもたらすもの)


10ptにおける101ppi/498ppiのドット密度のイメージ

これは、10ptにおける秀英明朝L・秀英角ゴシック銀Lの、101ppi・498ppiのドット表示を拡大したイメージです。
101ppiでは1文字あたりのドットが粗い(約14pixel)ですが、明朝体と比べ、ゴシック体はデザインがシンプルなため、ぼやけても文字のシルエットが分かります。これが、従来のディスプレイでゴシック体が多用されてきた要因の1つでしょう。一方、498ppiでは1文字あたりのドットが密(約69pixel)で、複雑な漢字の形状や、画線のメリハリなど書体の特徴もつぶれずに表示できます。

今回の実験では、精細度が高まれば、明朝体がゴシック体より読みやすくなるという結果が出ました。高精細ディスプレイであれば、書体の特徴が活きることで、印刷物(※2)と同じように、明朝体が読みやすくなったのだと考えられます。
(※2 印刷物は600〜1200dpi(dot per inch)が一般的です。)

 

補足 書体の特徴(可読性と視認性)
ゴシック2書体の読書速度の差から考察しました。

 

今回の実験結果が示すように、高精細化が進んだディスプレイでは、書体の微妙なニュアンスが表現できます。
これからは、印刷物と同じように、使う場面や目的によって特徴を意識した書体の選択が重要になってきます。電子書籍やウェブのコラムなど、読み物のコンテンツには、秀英体を選択肢の一つとしてご検討ください。

(2016.6.22 高橋(怜))