Kengo Kuma and Associates - 隈研吾建築都市設計事務所様

隈研吾からみたアートテック®の可能性と建築の未来

DNPの内・外装用アルミ焼付印刷パネル アートテックを、建築作品に多く取り入れていただいています建築家の隈研吾氏に、アートテックご採用の経緯やその効果、そして建築のこれからについて、お話しいただきました。

(2021年8月 インタビュー:DNP生活空間事業部 國東) 


アートテックの可能性

ご採用の理由

- 玉川タカシマヤからはじまり10年近く継続的にARTTECをご採用いただいている理由とは? -
これから僕らは新しい時代に突入していくと思っていて、それはコンクリートと鉄の時代から、それに代わる自然素材の時代に突入していくのですが、やはりメンテナンスの問題があるので、本物の木を外装に使える部分はそんなにたくさんはないので、それに代わるようなメンテナンスが楽で、しかも木と同じような質感、木と同じような表情のあるものを探すと、どうしてもアートテックを頻繁に使いたくなるんですね。
それで沢山の物件で使っています。

高輪ゲートウェイ駅で採用されたアートテック加工サンプルをお持ちの隈研吾氏

軽量であることと、耐侯性があるということはすごく重要なことで、それからやっぱりいろいろなテクスチャーや色に対応できるので、木というのは、この建物、この地域だったらこんな色というのがあるわけですよね。
僕らのリクエストに対応していただけるので、そういう幅の広い素材だと思います。

ご採用の事例

高輪ゲートウェイ駅

高輪ゲートウェイの場合では、本物の木を使っている部分とアートテックを使った部分が混在しているんですけど、実はほとんど分からないんですね。見た人は。

アートテックが採用された高輪ゲートウェイ駅

駅というのは他の建築以上に耐候性が必要で、傷んだりすると取り替える時に電車を止めなければならないかもしれないので、すごくデリケートな建物ではアートテックの持ってる耐候性というのは、すごく重要で必要なんです。
駅みたいな、ある意味で工業化の象徴そのものみたいなものですら、これからは木の質感というのが必要になってくると思うんですね。

高輪ゲートウェイ駅の各所に施工されたアートテック

高輪ゲートウェイは、駅街一体といったことがコンセプトとお聞きしておりますが ‐
これからの都市というのは、ウォーカビリティみたいなものがすごく大事で、歩いて楽しいとか、歩くことを中心にして生活するみたいな時代がくると思うんですね。

高輪ゲートウェイ駅の各所に施工されたアートテック

そういう時代に、歩ける空間、歩く速度にあった材料というのは、やはり木の質感みたいなものが非常に重要なので、高輪ゲートウェイなどは、そういう「歩く生活の拠点が駅になる」「駅を周りにして新しい歩く生活が始まる」みたいな形での新しい駅なので、そういうものにはアートテックみたいなものが、たくさん必要とされるのではないですかね。

赤坂檜町ザ タワー

高層マンションというのは、やはり高層ビルですから、やはり耐候性というのは非常に重要な要素になってくるので、でも僕らは耐侯性がありながらも、木というものを味わって頂けるような空間が、そういうタワーができるのではないかということで挑戦してみて、アートテックを採用しました。

外装にアートテックが施工された赤坂檜町ザ タワー

ここでの決め手は、色のバリエーションみたいなことなんですよね。
高層ビルというのは階も重なってくるし、へたをすると同じ調子の材料を使うと、単調な感じになってしまう。
そういうものを、色を微妙に違えて木の質感を表現するということがアートテックだとできるので、単調にならない高層ビルが出来るということが、今回の檜町タワーの僕らの達成だったんじゃないかなと思っていて。
そういうのはこれから高層ビルで、どんどん求められてくると思うんですね。

外装のフィンに使用されたアートテック

20世紀の高層ビルというのは、同じもの、同じユニットを繰り返すことで作られてきたが、これからの高層ビルはもっと多様性とか、表情豊かなものが必要とされるので、アートテックみたいな幅の広い素材というのは活躍すると思います。

外装における、木目の印刷表現とは? ‐
普通、日本人が木を使うときは、1階建てや2階建てで木を使ってきたわけですよね。
そうすると、人間の目から近いところだと、木目というのはちゃんと木目として感じられるけれども、少しでも人間の目から遠くなってきて、例えば何十階というところにあったときは、普通の木目だと木目が消えてしまい、色にしか見えないということが起こり得るんです。

そういう時には、木目の寸法を少し大きくするとか、色の濃淡をもう少し誇張するとか、そういう操作をすることで、より木に感じられる。
アートテックが、本物の木よりも木らしく感じられるみたいなことができるので、玉川タカシマヤで初めてそういうのを試してみたんですけど、これからもそういうことは、ビルの大きさとか、人間との距離によって、そういう様々な操作。
色調やパターンの操作みたいなのをやってみたいと思います。

玉川タカシマヤでの樹木をモチーフにしたアートテック外装

玉川タカシマヤの場合は、全部、いろんな種類のものをビルに実際に並べてみて、実際に見る視点からそれを比較してみて、そうやって決めました。
人間の目は不思議なもので、いろいろな錯覚に騙されやすいので、そういうものは実際にその場所で立って、その場所でモックアップを見ながら実験するのはとても大事になっています。

アートテックへのご期待

今は表面がフラットなものに印刷だけど、もう少し表面が複雑なものにも印刷ができたり、それはリアルな木工を表現するにもそれは向いてるかもしれないし、あるいはもっと違うような形状を持ったものに対してもテクスチャを入れるというのもあるかもしれないし、いろんな順列、組み合わせがあると思うんですけど、そういうのを、今までの印刷の壁を越えてもらえたら楽しいなと思います。

実際の木っていうのは、製材ですら微妙な凹凸。
製材というのは真っ直ぐ切っていても微妙な凹凸があったりして、そのようなものがアートテックでも、きっとできるんじゃないかなと思うんですよね。

東洋大学でのアートテック施工事例

檜町タワーの場合もそうだし、それから東洋大学の場合もそうなんだけど、アルミの素地を残しながらそこに木目が感じられるみたいな、そういう自然物と人工物の中間的な存在というものも、これから都市には求められてくると思うんですね。
そういう、クールなんだけど暖かいみたいな。
そういうものも、アートッテックだとできるんじゃないかなと思って、これからもこれから試したいと思ってます。

海外プロジェクト

- 海外プロジェクトにおける素材の選定について教えてください -
素材というのは、僕らが想像している以上に深いものがあって、例えば同じ杉といって、図面に杉の木、厚み2センチと書いたとしても、その場所場所で杉の色は違うし、それから杉の中のどの部分を切り取るか、製材の仕方によってもテクスチャが違うから、やはりその場所に行って、その場所で1個1個モックアップを、実物のモックアップを作ってみないと、本当の意味で、その場所のそのローカルな素材は使えないと僕は思っているんですね。
だからそのようなやり方で、それぞれの場所でそれぞれのローカリティと深く付き合うっていうのが、僕らのやり方なんです。

国によってテイストの違いもあるし、建築物に本当に求めるものもいろいろだから、
それはなんとなくわかるようになってきて、例えば中国で求められてる色調とか、アメリカで求められている色調とか、
あるいはブラジルで求められているものとかで、やっぱり微妙に違うというのは感じますね。

隈研吾建築都市設計事務所様による海外でのアートテック施工事例

それぞれの光も違うんだよね。
それぞれの場所で。
やっぱり湿度が違って光が違ったりするから、もし同じ赤を持って行っても違う色に見えたりとか。
やっぱりそれはその場所に材料を持って行ってみないとわからないことがあります。

建築の未来

建築におけるサステナビリティ

今までは、建築の基準というのはかっこよさ。
簡単に言えばかっこよさというのと、使い勝手みたいな2つぐらいの基準しかなかったんですけど、今はサステナビリティ。
要するにその建築というものが地球環境に対してどういう風な役割を果たしているか、どういうプラスがあって、どういうマイナスがあるのかみたいなのが、今最も大事な基準として浮上してきているような気がするんですね。

それが普通の人にもそういう基準がどんどん広まっているので、そういう質問を受けることがすごく多いし、そういう質問に対してデザイナーとか建築家はいつも答えられなきゃいけない。

そういう答えというのは、建築家だけで答えをいつも持ってられるわけではなくて、ものを作るところと、それから建築家がそういうものを、答えをいろいろ準備して用意しながらいかないといけない時代になったなと痛感しますね。

デザインの一番最初の時から、どのようなサステナビリティの切り口みたいなものを示していることが必要で、サステナビリティの計算自身は、例えばどのぐらいCO2を排出しているとか、ライフサイクルエネルギーというのは、いろいろ計算の仕方はあるけど、まず感覚的にこれはサステナブルだって感じさせる材料の使い方みたいな、僕はその直感的なサステナビリティみたいなものというのが、これから必要とされると思いますね。

アートテックのサンプルをお手にされる隈研吾氏

だからそれは、絶えずそういう新しい発見があるってことが重要だと思うな。
「あ!実はこの素材ってこう見えたけど、サステナブルだったんだ!」とかね。
やっぱりみんなそういう発見をして、それを人にしゃべりたくなるような、そういうことがこれから必要になってくると思うな。

そういうのが、一種の社会的な、なんか新しいエチケットみたいなことになっていっているような気がしますね。

すごく軽量であること自身、それによってビル全体の重さを減らせるから構造体の量も減らすことができるし、それから、トータルな地球環境に対しても、重たいものよりも軽いものの方が負荷を減らすという言い方もできるし、いろんな意味で軽いということは、僕はすごく良いことだと思いますね。

アルミのリサイクルというのも、実際にこれをうまい形で「みせる化」みたいなことができるといいなと思いますけどね。

ニューノーマルにおける建築や空間の変化

アートテックの新作意匠を吟味される隈研吾氏

空間の内部と外部との境っていうのは、これからどんどん曖昧になってくると思いますね。

今まで、20世紀というのは閉じた空間。
閉じた空間の中に人間を詰め込むことが効率性だということになっていたので、閉じた空間にエアコンガンガン効かせて、人詰め込んで仕事させるという感じだけど、今はそういう閉じた空間というのは、密で嫌だという感じになってきていて、これからその半外部の空間というのが主役になってくると思うんですね。

半外部というのは庇(ひさし)がでているとか、あるいはちょっとしたスクリーンで守られているとか、そういうものというのは耐候性がすごく必要とされてくるから、耐候性が必要とされるんだけど、実は内部的な優しさもあるみたいな、そういう空間がこれからどんどんニーズが高くなってくると思うので、そういうニーズにも対応できるような素材をどんどん作っていったらいいんじゃないですかね。

建物というものと、庭というものがだんだんと一体化してきてその両方の中間的な存在が出てきてる。
それがこれからの自然との調和の意味かなと思いますけどね。

インタビューにお答えいただいた隈研吾氏

日本の空間って、そもそも半内部と外部の境が曖昧だし、
そういう意味では密の後の、閉じ込められる空間の後の空間のヒントがたくさんあるから、
日本への注目というのは、これからどんどん高まっていくと僕は期待してますね。

アートテックは、DNP大日本印刷の登録商標です。

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