丸善ジュンク堂書店
 書店員が語る2020-2021
 第1弾 児童書 丸善 丸の内本店 兼森理恵さん

私たちDNPは、生活者の「知」を支える出版文化の継続的な発展に貢献するというヴィジョンを掲げています。コロナ禍が社会を席巻した2020年。外出自粛やテレワーク・リモートワークの普及は、書店にも大きな影響を与えました。 いま、生活者が本や書店に求めるものは何か?ポストコロナ時代に求められる出版文化の姿はどんなものか?生活者の気持ちを知るため、丸善ジュンク堂書店の4ジャンルの書店員の皆さんに、2020年の書店動向と、2021年に向けた取り組みのヒントを伺いました。 DNPは今後も、ジャンルに則した最適なソリューションで、生活者のニーズに応える出版ビジネスを支えていきます。

【INDEX】
■都心部から子どもが消えた、緊急事態宣言期
■『モモ』の再評価に見る“児童書が持つチカラ”
■他ジャンルの流行も売り方に生かしていく
■想いを共有し、とことん話すことが“売り”につながる

■都心部から子どもが消えた、緊急事態宣言期

児童書売り場での「滞在のしかた」が変わってしまった

丸の内本店は、東京駅直結でビジネスマンが中心のエリアということもあり、緊急事態宣言やテレワークの影響は非常に大きく、昨対は大きく落ち込んでいますね。常連の子どもたちも、普段ならお母さん、お父さんに週1・月1くらいの頻度で連れてきてもらうことが多いですが、特に緊急事態宣言の間はそういう機会も激減していました。
取り置きの本※1をピンポイントで取りに来られるとか、滞在時間をなるべく短くするために急いで本を選ぶなど、児童書売り場での過ごし方としては、これまでとは『真逆の状態』になってしまったことは、児童書担当としても辛いところですし、今もまだ試行錯誤しているというのが本当のところです。
傾向としては、親御さんがリモートワークをしているので、家にいても読み聞かせができない状態になってしまったからか、どちらかというと『子どもが自分で時間を埋められる本』が強かったのかなと思います。
それでも、夏休みが終わる頃からは、やっと子どもたちが少しずつ顔を出してくれるようになっています。

※1hontoが提供する「honto With」のサービスの利用により、お近くの「丸善」「ジュンク堂書店」店舗に欲しい本をお取り置き・お取り寄せすることができます。
「honto With」はこちらから詳細ご確認いただけます。(外部サイト)

■『モモ』の再評価に見る”児童書が持つチカラ”

「答えが書かれた本」という風潮を越えて、想像力で読む本へ

NHKの100分de名著シリーズでミヒャエル・エンデの『モモ』が取り上げられたことで、定番の名作がすごく売れましたよね。ニュースなどでも『なぜ児童書が売れるのか』といった報道がなされ、ロングセラーに再びスポットが当たったという捉え方をされていましたが、私は少し違う印象を持っています。
優れた児童書には、人生の指針となる“核”のようなものがきちんと入っているものです。子どもたちに伝えるべき、きちんとしたメッセージが織り込まれ、それが希望とともに語られています。児童書の中に元々入っている大事な要素があらためて見直されたことで、『モモ』が売れたという感覚は大きいですね。
コロナとは関係なく、『答えややり方が書いてある本が売れる』ような風潮も目立ちます。ここ何年かの、そのような流れに正直辟易していたところもありましたが、『モモ』が売れてくれてホッとしているところもあります。児童書は想像力で読んでほしいですから。

■他ジャンルの流行も売り方に生かしていく

「新しい生活様式」も『鬼滅の刃』も児童書はどんなジャンルともコラボできる

作家の先生を呼んでイベントをするなど、人を集めることができない状態なので、今後どのようなプロモーションが可能かという点については、正直まだ見えていない状態です。
ただ、1つきっかけになったと思っているのは、夏に行ったフェアでした。1年ほど前から写真家で絵本作家の今森光彦さんと、丸の内のビジネスマンに向けたフェアができないかという話をしていましたが、コロナが来てしまった。来客も少ない中、フェアを実施するか迷いましたが、そんな中で舘野鴻さんが出した『がろあむし』(偕成社)という新刊がとても素晴らしかったんです。
その虫は、過酷な一生の中で手足をもがれたりすることもありながら、自然の中でたくましく生き抜いていく。その姿がコロナを前にした私たちにも響くのではないかと考え、「今森光彦×舘野鴻 いまを生き抜くアイディア~生きものに学ぶ新しい生活様式~」というフェアをやりました。ツイートしたPOPにも反響が大きく、想像以上に児童書コーナーに多くの方が足を運んでいただくきっかけになりました。

社会の状況を切り取りながら地道な努力をすることが、今は必要なのだと思っています。その意味では、『鬼滅の刃』には児童書のファンタジーの要素が詰め込まれているので、鬼滅にハマった子どもたちに向けた児童書の王道読み物フェアができないかを検討中です。児童書は基本的にオールジャンルなので、柔軟な視点でいろいろ仕掛けていけたらと思います。

■想いを共有し、とことん話すことが”売り”につながる

本に込めた想いを100%伝えてほしい

児童書は、『面を作れば売れる』というものではありません。フェアとの関連性、他の本と並べるか、単独で売るか…など、ケースバイケースなので、出版社さんととことん話をして売り方を決めていきます。
出版社さんから初めに提案をもらうこともありますし、ゲラを読ませてもらって『こういうことがしたいんだけど』と、こちらから打診することもありますが、大事なのは本の魅力の100%を伝えていただくことだと思っているんです。作家さん、編集さん、そして出版社としての熱い想いや志を私たち書店員にぶつけていただくこと。
売れるか売れないかは、そのような『想いのキャッチボール』から生まれるんだと思っています。絵と文章が付いていれば絵本や児童書になるのではありません。子どもたちに伝えたいという想いの強さや、絆、生き方といった大事なものを共有することが、『売れる売り場』につながるのだと考えています。

第2弾はMARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店のコミック担当、八木泉さんに伺います!

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