メディア業界の2021年上半期を振り返る 【前編】

日々、目まぐるしく状況が変化するメディア業界。今回は、メディア企業の新規事業開発をサポートする株式会社メディアインキュベート 浜崎社長にインタビューを行い、2021年上半期のメディア業界を振り返ります。また下半期の展望についてもご意見をお聞きしました。

浜崎 正己氏(株式会社メディアインキュベート 代表取締役社長) 1988年、千葉県佐倉市生まれ。メディア、マーケティング関連を中心に6社起業し、その他で通信放送団体のNPOの事務局次長、PR会社や出版社、IoTサービスなどの役員を3社歴任。新聞、雑誌、ラジオ、オウンドメディアなど40以上のメディア運営に携わり、メディアのアップデートを目指している。日頃はメディアの事業開発、コミュニティを起点とした事業立ち上げに従事し、メディア、ベンチャーキャピタル、PEファンド、アクセラレーター、コミュニティに強い関心がある。

ー浜崎様は、月1回のイベント開催され、毎日Newsletterも発行されています。上半期を振り返るとGAFAなどのプラットフォームの動向や、プライバシー、サブスク、音声、AI活用、買収売却など、さまざまな動きがあったことが伺えます。
本日はその中からテーマを絞り、特に気になったトピックスについてお伺いさせてください。

【目次】

メディアがコミュニティを構築する意味とは?商品開発や広告への影響

ー2021年の上半期、雑誌メディアのコミュニティ化、会員組織化の動きが進んだと思います。DNPでもゴルフダイジェスト社と連携した「Myゴルフダイジェスト」を開始しました。
(Myゴルフダイジェスト )【外部リンク】
浜崎様は、メディアのコミュニティをどう捉えていますか?


特にこの半期で気になったテーマとしては、やはりEC、Cookie、サブスクリプションの話題は非常に多かったように思います。これらの事業に関連してコミュニティやオンラインサロンの話題も増えてきたのではないでしょうか。記憶に新しいのが「MERYがメディアをやめる? ファンとのコラボという全く新しいコミュニティへ【外部リンク】」 という記事です。アプリも終了し、月額800円(税込)のコミュニティを始めるとのことでした。MERY shopというECも展開していますが、上記発表の後にはユーザーコミュニティの声を反映したエコバッグの発売も発表しています。読者コミュニティ事業では、講談社が運営するmi-molletも月額5,500円(税込)でミモレ編集室を展開しています。mi-mollet STYLEでは、mi-mollet監修のコラボアイテムなども販売しているようです。

記事や動画、音声などのコンテンツを作るだけでなく、コンテンツをきっかけに同じ興味関心のある方々のコミュニティを形成する。そして、商品に反映したり、広告メニューなどに反映する動きが増えてきているのではないでしょうか。こうした動きは、スタートアップや新規事業開発の現場にも影響を与えるかもしれません。

商品案を考え、マーケティングリサーチを行ったり、顧客検証を繰り返すプロセスに、メディアと共創してコラボレーションしていく。そうすることで初期顧客の獲得が容易になったり、マーケティングプランの構築精度を上げることにも繋がるかもしれません。

このコミュニティに関連する話で言えば、1月末に日本に上陸し、2月、3月とものすごい熱狂をもたらしたClubhouseの存在も無視できません。今まで混じり合わなかったものを繋ぎ合わせ、まさにコミュニティ構築に繋がるような熱量がありました。

このサービスを通して、今まで話者として発信をしていなかった方々が、ラジオ形式で配信をするようになった事例も多くあったのではないでしょうか。Voicy、Radiotalk、stand.fmなどの音声サービスの登場で、ライブ配信サービスを利用していなかった層も取り込まれているように思います。ただ、双方向性という観点では、Clubhouseの登場で、受信者が発信者にもなれるという体験をした人が増えたのではないでしょうか。

毎日発信をしたり、受信をしたり、コミュニケーションを取っていくと、自然と距離も縮まり、愛着も増していきます。Instagramや、Facebook、LINEなどでもライブ配信ができます。メディアの場合、一方向での配信が多かったように思います。

そこにコミュニティ、ある意味ファンクラブ的なものが出来上がっていくと、ロイヤリティも高まるのではないでしょうか。そうした活動の結果、商品開発だったり、メディア読者のニーズも拾い上げられ、結果的に広告の商品開発などにもいきてくるように思います。

そうして、商品が作られ、D2C事業が展開されたり、コラボ商品が生み出されていくと購買データが溜まっていきます。After Cookieに対応した製品がさまざま出てきているかと思いますが、メディアに紐づいた形で購買データを持つことは、広告にも影響があるのではないでしょうか。

サブスクリプションビジネスを構築する際に考慮するべきビジネスポイント

ーありがとうございます。確かに、コミュニティ、ファンクラブが創出されることによってファンのロイヤリティも比例して高まると考えられますね。”好き”をシェアできる仲間がいる、とうことはとても大きな価値ですよね。
コミュニティ・会員組織という観点では、広告・サブスクなど様々なマネタイズ方法があります。
先ほどの「Myゴルフダイジェスト」ではサブスクリプションとしていますが、このサブスクリプションについてはいかがお考えでしょうか?


サブスクリプションビジネスを構築する際に、話題にあがるのは、どんなメニューを提供すればいいのか、といった商品ラインナップの観点や、そもそも成り立つのか、と成功事例がどんなものがあるのか、調査をしていきたいというニーズも聞くことがあります。

検討しなければならないのは、商品もそうですし、そのシステム基盤の選定に悩まれている方々も多いのではないでしょうか。コミュニティ構築サービスであれば「OSIRO」や、「commmune」などのツールもメディアでも導入事例があるかと思います。アーティスト関連に広げれば、SKIYAKI社が提供する「BitfanPro」であるとか、CAM社の「fensi」なども実績があります。

モデルプレスがプロデュースする「Mi-glamu」も出てきており、オーディション情報の提供や、写真集製作販売だったり、雑誌出演、テレビ・イベント出演も支援していくようです。インフルエンサー、グラビア・コスプレ、野球、アイドル、ミュージシャン、女優・俳優、アスリート、サウナなど、対象方に対してレーベルのようにサービス名を分けて展開しています。

サブスクリプションビジネスを展開する際に、ユーザーに課金いただくために、商品ラインナップを揃えるのはもちろんのこと、所属していただいたり、支援させていただくために使っていただくためにも、サポートするためのメリット提供がさまざまあることが重要とされているのかもしれません。それだけ優れた方々とご一緒に取り組みをすることが、競走も激しくなっているのでしょう。

上述したmi-molletですが、「Keiko’s Power Wish Academy」と題して月額380円(税込)の占いサービスも提供しています。2021年6月-11月のMedia Guideには、会員数も約15,000名と記されており、事業規模も推定できます。

雑誌メディアのいいところは、ターゲットが絞られており、読者層だったり、どんな方が読んでいるか、想像がつきやすいところにあるのではないでしょうか。今回の事例は占いですが、そういった広く受け入れやすいサービスをメディアが行うのは増えていくでしょう。また、i-mode時代に提供されていたようなジャンルのサービスが、メディアに内包されて提供されていくことも増えるかもしれません。

東京カレンダーが提供するサービスで、アッパー層のための審査制婚活・恋活アプリ「東カレデート」もあります。東京カレンダー株式会社は、ITコンサルティング&サービス事業を展開するフューチャー株式会社のグループです。サブスクリプションサービスも含め、ネット上でサービスを展開していく上では、エンジニアリング力は不可欠です。そういった技術、テクノロジーに対する投資も求められていくのではないでしょうか。

また株式会社リクシィと連携してワンランク上の結婚式を提案する結婚式相談カウンター『東カレウェディング powered by gensen wedding』を提供しているのも、自社のコミュニティを理解し、別の事業展開を行うのがよい事例かもしれません。

メディアにおけるNFT活用の方法と事例、メディア事業への影響とは

ー雑誌メディアについては、仰る通りターゲットが分かりやすい、という特徴があると思いました。また、雑誌の読者は帰属意識が高く、値段やその他インセンティブではなく、その媒体の世界観に価値・魅力を感じているファンが多いと考えています。
では、ここで少し方向性を変えて、コミュニティ・会員組織以外のトピックで気になる話題はありますか?


Clubhouseと同様に話題になっていた事象としては、NFTも見逃せません。「NBA Top Shot」の2021年2月の単月売上が約250億円だったり、デジタルアート作家「beeple」のNFT作品が約75億円で落札されるなどして、大きく話題になりました。FOXとBento Boxが、NFTに関わる1億ドル規模のクリエイターファンドの設立も発表しています。

海外では、CNNがNFTに参入してアーカイブを購入できるようにしたり、TIMEやフォーブスは表紙のイラストを、ニューヨーク・タイムズやQuartzは記事をNFT化して販売する例も出てきました。日本でも事例が出てきていますが、SKE48のライブ画像を収録した「いきなりNFTトレカ」や、映画やドラマ、アニメのレビューサービス「Filmarks」運営のつみきがNFT領域でクオンと提携を発表しています。

メディア運営は、クリエイターの方々と共に創り上げることがベースにあると思います。新しいプラットフォームの登場に伴い、新しいスターが誕生し、営業やマネタイズを支援するプロダクションなども出現してきます。NFTの普及により、クリエイターの方にとって新しい収益を得る方法が増えるかもしれません。それによって、メディアとの関係性にも変化があるでしょう。自ら運営するメディアをどのポジションに位置付けていくか、道筋をつけながら、新しいテクノロジーや、プラットフォームの誕生に付いていく上でも、技術的基盤への投資は必要かもしれません。

関連ソリューション

DNPでは雑誌メディアの新たな可能性として「マッチング広告」や「タイアップ広告」「運用型広告」など出版社のウェブメディアの収益性向上、「読者起点の会員制デジタルサービスの構築」の支援を軸に、出版社のコンテンツを活かした多様なコミュニケーション体験を企業や生活者に提供しています。

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