雑誌ブランドを活かしたWebメディア展開と事業構築アイデア

DNPは「出版社のウェブメディアの運用型広告の支援」「マッチング広告・タイアップ広告の推進」「読者起点の会員制デジタルサービスの構築」を軸に、出版社のコンテンツを活かして、多様なコミュニケーション体験を企業や生活者に提供しています。今回は、これからの雑誌メディアをテーマに株式会社ピアラベンチャーズ 代表取締役社長 中 有哉様をお招きし、インタビューを実施致しました。

ピアラベンチャーズ中社長

中 有哉 氏(株式会社ピアラベンチャーズ代表取締役)
2010年 株式会社インタースペースに入社。代理店営業を経て、タイで現地法人代表として新規事業立ち上げを経験。2017年に帰国し、マーベリック株式会社でアドネットワーク事業の新規立ち上げに責任者として従事。2020年 投資/M&A担当としてビューティアンドヘルス領域特化のマーケティング支援をしている株式会社ピアラに入社。2021年11月に株式会社ピアラベンチャーズを設立し、代表取締役社長に就任。現在1号ファンドを運用中。

紙媒体の雑誌ブランドをWebメディア化するのは難しい?

DNP:紙媒体からWebメディア化する雑誌が増えていく中で、どのような印象をお持ちでしょうか。

ピアラベンチャーズ 中氏:EC等を抜きでお話すると、現代の雑誌のWebメディア化は誌面での知名度が高いにも関わらずPV数が少ないサイトが多いと感じています

前職でアドネットワーク事業をやっていましたが、その際に出版系のWebメディアさんにそういったケースが多かったんです。
それに対して、Googleやアドネットワークでマネタイズを視野に入れて、イチからWeb専業で立ち上げたメディアは、初期の知名度が低くてもPV数が多いサイトが沢山あります。

雑誌のWebメディア化の傾向として、コンテンツのクオリティ自体は、雑誌編集のバックグラウンドがあるので、かなり高品質なんですよね。しかしながら、PV数が少ない傾向があると思います。

ひとつの雑誌ブランドをとっても「東京カレンダー」のWebサイトはPV数が多い方だと思いますが、逆にファッション誌のWebサイトは顕著にPV数が少ない傾向にあるのではないでしょうか。

編集部はいい記事を書かれていますが、紙とWebでは違う部分が多く、活かしきれていない部分があるかもしれないですね。

今まではPVを獲得して、Googleを中心に広告マネタイズをするのがWebメディア開発の主軸でした。ダイレクト系の広告効果が高まるとメディアの収益性が高くなるので、それがあまりに極端に走りすぎてしまって、コンテンツの信頼性や質の部分で本質的ではないことを行う媒体が出てくることで結果的にWebのコンテンツの信頼性が下がってしまい、GoogleのSEOも信頼性を見るアルゴリズムに変更され始めています。

それが一巡して紙クオリティのコンテンツをWebに載せるべきというWeb専業メディアも出てきています。こうなると今までPVの獲得はうまく行っていなかったがコンテンツはクオリティが高い雑誌のメディアも見直される傾向は出てくるかなと考えています。

注目される雑誌のブランド力を活かした商品コラボ技とは?

DNP:雑誌には特定のファンだったり、ブランドだったりがあると思いますが、そこを活用したビジネスの可能性は非常にあるかと思ってます。

ピアラベンチャーズ 中氏:ECに関していうと、広告で新規ユーザーを獲得する、CRMで長期に渡って購買いただくというのが重要指標。しかし、Google・Facebookなどの主要広告媒体は年々広告単価が高くなる傾向にあり、新規獲得に広告依存度が高いと利益体質が作れません。

そういった意味では雑誌はチャンスがあるなと考えています。具体的には雑誌の場合、固定の読者を持っているのでそういった世界観に共感している読者を購買層に出来ると広告に依存しない新規ユーザー獲得に繋げられます。

雑誌はタイアップ企画で認知拡大や購買意欲醸成をしてきたと思いますが、その手のクライアントとコラボ商品を作るような企画は面白いかなと思っています。例えばバルクオムさんは木村拓哉さんを起用していますが、その文脈でユーザーが共感してくれるような誌面で共同商品開発が出来ると面白いなとか。
たとえばOCEANSのような年齢層上めの高収入そうな雑誌の名前を使って『バルクオム for OCEANS世代』みたいな商品を作るのはありかなと思います。一定のターゲット層が集まっているところに刺さるようにできるのではないでしょうか。

何かしらでオーソリティがないと購入意思決定がしにくいような育毛剤などのコンプレックス商材も相性がいいと考えていて、マス広告をしているような商品は「万人に向けられていて自分に効くだろうか」と考えてしまうユーザー心理があると思いますが、ここで雑誌のブランドが使えると、自分たちの読者のライフスタイルに合う商品として読者に提案できます。

リーブ21 やAGAのクリニックなどと協業して、コンプレックス商材などの体質が絡んでくる商品をパーソナライズの仕組みも作って提供するなどはありかもしれないですね。

雑誌という普段接触しているメディアのオーソリティを使って、入口のハードルを下げられるというのは雑誌の大きな強みだと思います。
Webメディアにない概念が紙媒体にはあると思っていて、私がWeb側の人として外から見ている印象では紙媒体はファンが媒体に帰属意識を持っている様に思います。Webメディアは媒体に対する帰属意識は少なく、情報に対する収集意欲の方が強い印象です。
なにか調べ物をしていて検索で上がってきたWebサイトを見るという行動には媒体への帰属意識は無く、情報収集意欲でこの行動が行われています。

例えば紙の媒体で帰属意識が低いのは、ポスティングです。これは無造作に家のポストに入ってくるので当然帰属意識はありません。対して新聞の場合は特定の新聞社を情報ソースとして信頼しているので購読していると思います。そうなると購読者は新聞に対して一定の帰属意識を持っている状態だと考えています。雑誌はもちろん自分で買っているので、その雑誌に対する帰属意識があり、世界観に対する共感や信頼関係を築けている状態にあると考えています。

紙媒体は帰属意識や共感を起点に何かしらのサービスや商品につなげることができるというWeb媒体にはない優位性があるのではないでしょうか。

化粧品の通販で物を売る時にはタレントを使ったり、美容家を使ったりしますが、これは権威性を付与することで集客をスムーズに行うためです。これと同じ様に例えば美的やVOCEが美容系の商品・サービスを開発したり、ananが婚活系のサービスと協業するといったことも面白いかもしれません。、こういった形でサービス開発に雑誌の帰属意識を使えるのはブランドの有効活用になると思っています。

雑誌ならではの世界観を大切にしたものづくりに人は惹かれる

DNP:雑誌の世界観・ブランド、そこに対する憧れだったりをもっと掘り下げて、商品化できるといいかもしれませんね。

ピアラベンチャーズ 中氏:雑誌社の人は世界観が作るのが非常に上手いという印象です。Webの人には真似できません。「こういう方々とコラボして作ったら良いのでは?」というアイデアは出ますが、世界観を作ったりみたいなことは私たちにはできないですね。

DNP:Webでも世界観を作るニーズは高まっているのですね。そう考えると雑誌Webメディアの中でも生きていけると思いますか。

ピアラベンチャーズ 中氏:そう思いますね。しかし、有料課金は難しい感覚がどうしてもあります。今まで雑誌を買っていたのに、Webになったら誰も買わなくなるのはWebのお作法だと思います。その点でいえば漫画はすごいと思っていて、中高生が二千円くらい平気で課金します。1ヶ月になると五千円近くなって、中高生にこれだけ課金させるのってすごく難しいと思います。
昔の子達はジャンプなどの週刊誌を毎週買っていました。Webは広告のマネタイズの走り過ぎがあって、Webのコンテンツは無料という前提が出来上がってしまいました。なので課金のハードルは高い印象がありますが、電子書籍としては漫画は売れています。

DNP:確かに漫画は定期的に買っていて、毎月、毎週DLしていて、習慣化しているかもしれないですしね。
広告ビジネスについても意見を聞きたいのですが、ポストクッキーについてもお聞きできますか。延長がされると聞いていますが、今後広告ビジネスは成り立つと思いますか。

ピアラベンチャーズ 中氏:一旦はどうしても広告単価は下がると思います。ブランド広告が一番影響を受けるでしょう。ターゲティングができなくなるのでCPMが下がるのは避けられないでしょう。しかし、YouTubeのようなIDベースでユーザーが管理できている媒体では広告単価が下がるということもあまりないのかなと考えています。

DNP:出版社におけるWebメディアコンテンツの作成においては、世界観を確立されているものを活用すれば、広告に活きてくる部分はあるでしょうか。

ピアラベンチャーズ 中氏:そのあたりはクッキーとは関連せず、PMP取引や広告枠の買い切りで売れるのではないでしょうか。ユーザーが帰属意識を持っていないPV量産型メディアはターゲティングができないと広告単価に影響が出てきますが、雑誌ブランドの予約型取引では広告単価が下がるみたいなことはあまり考えられないかなという印象です

デジタルにおける雑誌のマネタイズ方法の多様化とは?

DNP:サブスクや課金だったり、どこまでマイクロコンテンツ化していく必要があるのでしょうか。雑誌の部分のどこまでを売り物にしていくのか。その適正水準に対してご意見はありますか。

ピアラベンチャーズ 中氏:都度課金は難しいと思っています。自身の話でいえば、noteとかは課金しているものもありますが、なんだかんだで月額で課金してしまっています。最終的にはサブスクの方が取りやすいとは思っています。

DNP:ベンチマークにしているオズモールさんは良いなと思っています。出版スタートから旅行業までに広げていて、レストランを予約するにあたって「このレストランってこんなにも素敵なんです」という仕掛け作りだったりが、非常に上手だなと思っています。

雑誌という紙をWebにして、顧客体験まで作る。そこまでを作り切るのはとても大切ではないでしょうか。ECを展開する中でもそこは大切だと思われますか。

ピアラベンチャーズ 中氏:紙媒体を作っていた会社は、その喚起させる力が強いと思います。食べログは飲食店がなんでも並んでいてまさに総合ポータルサイトです。対してオズモールさんは女子会向けという線引きがされている前提があります。なので、そのスクリーニングが効いているというところで、信頼感が非常にあります。特定のシチュエーションでは自力で探すよりもオズモールさんに頼った方がいいのでは、という意思決定かなと思います。

「この雑誌が選んでいるから、こういう機会でも大丈夫だろう」ということは明確にあると思っていて、百貨店や千疋屋なんかも近いのではないでしょうか。「千疋屋で買ったから、どこに出しても恥ずかしくない」というブランドの信頼感で、意思決定から逃げるというか、そういう役割があるかなと思います。

DNP:意思決定から逃げるという言葉がすごく印象に残りました。

ピアラベンチャーズ 中氏:オズモールで予約するのは、オズモールだから大丈夫だろう、という自らの決定の信頼の担保をしてもらうという感覚があるでしょう。ファッション誌は昔からそうかもしれませんね。

女性の場合、誌面を見た反応が誰々が着ているあの服が欲しいになる傾向が強いかなと思っています。対して男性の場合は全体的なトレンドを見ている印象です。。流行りから外れたくないから情報をキャッチアップしているようなファッション誌の消費の仕方かもしれないですね。

女性誌向けのファッション誌は読者向けに提案すると売れる力が特にあるように思いますが、雑誌の方はそういうコンテンツを作ることができるのに、物販してマネタイズするみたいな発想は起きにくいのかもしれないですね。そういうところを組めるといいシナジーになるかなと思います。

DNP:出版社様とは雑誌作りで古くからお付き合いがあり、そういったいろんな提案ができるかなと考えています。

ピアラベンチャーズ 中氏:雑誌のブランドを使った定期通販みたいなのはやってみたいですね。

雑誌の記者さん編集者さんは読者の興味を持ちそうな領域の情報に非常に詳しいし、情報のアップデートも鋭いので活かせるところがたくさんあると思います。

DNP:雑誌を使った定期販売みたいな仕組みは、販売網を活用して連携ができるかもしれませんね。生活者の方々をもっと知っていけるような基盤作りもサポートできたら嬉しいです。戦略設計など支援できたらなと思います。

ピアラベンチャーズ 中氏:我々の得意領域でいうとコンテンツへの直接課金は貢献しにくいのですが、会員化されたものをECでマネタイズするところはすごく貢献できると思います。

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