【第2回】なぜ雑誌メディアをWebメディア化するのか?
雑誌DXの意義と出版社の強みから考える

前回のコラムでは「数字で見る!出版市場・生活者トレンド レポート」と題し、デジタルトランスフォーメーションを推進していくにあたり、基礎となる出版市場と生活者のライフスタイルの変容、雑誌ブランドに対する信頼・情報の価値についてデータを踏まえご紹介しました。本コラムでは、市場の動向から雑誌メディアの向かうべき方向性についてご紹介します。

【目次】

価値の提供方法を変える

前回のコラムの最後にもまとめておりますが、

・生活者は紙の雑誌を購入しなくなっている
・生活者は1日の1/3を、携帯電話・スマートフォンを見て過ごしている
・紙の雑誌は読まないが、雑誌が発信する情報・コンテンツに対する信頼度は高い

ということをお伝えしました。
上記を踏まえると、紙メディアとして提供し続けることは先細りとなる、ということが傾向としてうかがえます。では信頼のメディアである紙の雑誌は、どのような道を選択すればよいのでしょうか?

事例から見るWebメディア化

方法の一つに、紙からWebへと価値の提供方法を変える(=Webメディア化)ことが考えられます。前回のコラムにおいて「携帯電話・スマートフォンといったデジタル領域に費やす時間は増加」という数値を紹介しました。雑誌もその変化にWebメディア化して追随するわけです。具体的なWebメディア化の事例として光文社『JJ』・『CLASSY.』をご紹介します。

出版月報(全国出版協会・出版科学研究所刊)2021.8月号 『特集 これからの雑誌メディアのあり方』より抜粋

『JJ』が提案するこれからの雑誌のカタチが「SNSファーストのスマホ・マガジン」だ。従来の雑誌は、鮮度の高い情報をまず紙の本誌で記事化し、Web媒体や公式SNSは宣伝媒体ないし記事等の二次利用という位置付けが多い。これに対して『JJ』では、撮り下ろしの一次情報をまずインスタグラムにアップし、それらがまとまったものをWeb上に記事化していく。紙の雑誌はその世界観がまとまった最も贅沢な(ロイヤルな)コンテンツとして、気になることを深く体系的に知るためのスペシャル号として刊行できるタイミングを今後図る。これからの紙の雑誌は、部屋に置いておいて何回も見返すインテリア雑貨に近い感覚だという。
<中略>『CLASSY.』では8月から、初の会員サービスとして「CLASSY.Plus」をリリース予定だ 。<中略>出版社自ら会員を募ることで、これまで読者アンケートなどアナログ的手法に終始していたターゲット層の可視化が進み、コンテンツの作り方も変わってくることが期待されるとのこと。

ここで読み取れることの一つに、市場に合わせた価値提供方法の変革があげられます。
ユーザーのライフスタイルの変化に合わせて、情報発信の場にスマートフォンやSNSというWeb媒体を加え、読者との新たな関係構築、ひいてはコンテンツの作り方を変える取組みは参考になるのではないでしょうか。

雑誌メディアの武器と強み

では、雑誌メディアをWebメディア化することは簡単にできることなのでしょうか?実はどんな出版社でも、生活者の接触メディアという戦場において戦える武器と競争優位を保つ強みを持っています。

武器:
・高いクオリティで継続的にコンテンツを制作する編集力を持っている

・コンテンツを大量に所有している
強み:
・ロイヤルティの高いコアなファンを持っている

出版社の武器と強み

いかがでしょうか?一般的に生活者に信頼される、質の高い価値あるコンテンツを作り発信し続けることは容易なことではありません。また出版社には過去のコンテンツの蓄積もあり、生活者の多様な要望にも応えられます。メディアがWebとなっても、その戦場において、信頼できるコンテンツとそれを産み出す編集力は強力な武器なのです。
さらに雑誌にはコアなファンである読者が既に存在している、という優位性をもっています。Webメディア構築初期の高いハードルになるサイトへの集客も、ロイヤルティの高いそれらコアファンを軸に展開することが可能です。既に認知しているコアファンがいる、ということは雑誌ならではの大きな強みです。

Webメディア化の意義

Webメディア化が可能だとしても、わざわざ行う意義が本当にあるのでしょうか?Webメディア化のメリットを読者と出版社、各々の立場で考えてみましょう。読者は情報をタイムリーに入手できる(速報性)、自らも情報を発信できる(双方向性)といったメリットがあります。他にも時間や場所に縛られず入手が容易となり(アクセス性)、自らの声が届くことが確認できる喜びも生まれます(参加性)。つまり読者の間口が広がると同時に、ロイヤルティが向上するのです。
一方出版社にとっても、読者の反応や声をタイムリーに把握することができ、またニーズやトレンドをつかみ取ることが容易になります。そしてそのままコンテンツ・サービスの改善にいかすことができる、というメリットが生まれます。

Webメディア

Webメディア化の意義は、発信→反応→分析→改善→再発信のサイクルを回し続ける仕組みを、会員・読者と共に築くことができることにあります。昨今のデジタルファーストの時代を、既にある武器と強みをそのまま用い、一過性でない対応力と継続性にて乗り越えることがポイントなのです。
Webメディア化の成功事例として取り上げられることが多い、The New York Timesも、Webメディア化したから単純に会員数が大幅に伸びたわけではありません。Webメディアの仕組みを活用し、読者の趣味・嗜好を分析し、そのデータをもとにサービスを改善する、という対応を繰り返した結果なのです。例えばVR元年と言われる2016年の1年前から取材現場を体験できるバーチャルコンテンツの提供を開始したり、スマートフォン向けに特化したコンテンツ作成を進めるなど、市場変化やターゲットである読者の特性に合わせることによってWebメディア化を成功させたのです
ここまでなぜ雑誌メディアをWebメディア化するのかを、その意義と出版社の強みから考えてきました。会員・読者の存在が要になっていることも浮かび上がってきました。次回のコラムでは、どのようなWebメディアにすればよいのかを、市場の分析を行いながら見ていきます。

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DNPは運用型モデルのサービスを提供し、出版市場の推移、生活者のメディア接触時間の推移から出版社がこれから取り組むべき、デジタルトランスフォーメーションを支援しています。

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