雑誌ビジネスの“もったいない”って? コンテンツの有効活用
過去当コラムではwithnews奥山編集長に「紙に載った記事をそのままデジタル化してアウトプットするところの勘違い」や「Webならではの稼ぎ方」といったお話をお聞きしました。また「雑誌のデジタル化における課題とは」というところで、出版社の皆様からのナマの声を公開しました。それらのコラムを通じて「雑誌がWebメディア化する必要性」を改めて確認されたことと思います。 本コラムでは全く逆の立場、DNPの一営業担当として、雑誌作りに関わる中で感じた「3つの“もったいない”」をご紹介します。
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【目次】
「この記事載せないんですか!?」 紙面掲載の限界
雑誌の製造に携わる中で一番感じた“もったいない”は「誌面スペースの都合上、掲載されない」原稿を目の当たりにすることです。初校時には掲載されていた記事が、再校・校了時にカットされていることが多々ありました。その度に「あの記事はお蔵入りか・・・」と。私が持ち帰った原稿も、編集部が必死で書いた記事の一部でしかありません。掲載されるのは膨大な取材原稿の中から選りすぐされた、本当に一部の記事であることを身をもって理解してきました。
では、掲載されなかった記事は面白くないのでしょうか?答えはNOです。
雑誌のクオリティに達していない、という理由で掲載を見送られる記事もあります。しかし紙の紙面には限りがある、ということがもっとも大きな理由として挙げられます。Webという掲載スペースの制限がないメディアを活用すれば、今まで泣く泣く掲載あきらめていた記事も、テーマや主旨を変えてWebコンテンツ化することができます。
記事の展開先を増やす一番のメリットは取材コストの収益化です。1回にかかるコストは同じでも、紙とWebメディアの双方で価値を訴求し、収益化することで取材コストを最大限活用できます。
【雑誌記事の最大活用】 |
【経費の最大活用】 |
「そういえば先週号の記事ってどうだったんですかね?」 効果測定の壁
2つめの“もったいない”は「すごく面白い記事なのに、どのくらい読まれているか分からない」ことです。印刷会社として一番ジレンマを感じる点です。紙というリアルな媒体では記事単位の効果測定に限界があります。読者アンケートや誌面上に配置したQRからのアクセス等で読者からのフィードバックを得る方法もありますが、正確かつタイムリーなフィードバックには限界があります。「あの記事面白いと思ったんだけど、実際どうなんだろう・・」ともんもんとしたまま次号の原稿整理に追われるのが常でした。
この課題はWebメディア化により解決できます。Web上では「この記事を出したらPVが増えた」「この記事をこのセグメントの人たちに出したら会員登録が増えた」など、記事の効果測定がリアルタイムに把握できます。Webで得た結果が次号の特集テーマの検討や、コンテンツ構成を改善するヒントになります。このトライ(記事掲載)&エラー(結果)の積み重ねにより、雑誌ブランド全体の質も向上し、記事による収益化の成功要因が見えてきます。
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「こんなにファンいるんですね!」 ファンの活用
3つ目は「コア読者=ファンの活用」です。雑誌の製造に関わる中で、友人や同僚、世の中の雑誌ブランドに対する関心や熱量の大きさ、そして数の多さを強く感じました。「熱量の大きいファンがこんなにたくさんいるなら、紙の売上以外にも収益化できないのかな」というもったいなさを感じていました。
実際、SNS内でもファン同士のコミュニティはありますが、雑誌ブランド自体が主催するWebメディアのコミュニティを作ることで、よりファンの熱量を大きくし、収益に繋げることができます。例えば、取材の裏話や1つめのお蔵入り記事というのは、雑誌ブランドならではの、ファンの心をくすぐる、課金できるコンテンツの1つです。また、「雑誌のブランド、世界観を示す仲間(会員)と繋がれる」というのも、ユーザーにとって大きな価値です。
コミュニティ化のメリットは収益面だけではありません。会員情報(年齢、性別など)やコミュニティ内での投稿を見ることで、ファンのことを知る機会が増えることもメリットです。ここで得たファンのニーズをコンテンツの改善に活かすことで、より会員にとって価値のあるコミュニティへと進化させていけます。
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まとめ
以上、DNPの営業担当として、雑誌づくりに携わる中で感じた「3つの“もったいない”」をご紹介しました。上記の観点は経済学でも用いられる範囲の経済、経験の経済、ネットワークの経済の一種とも考えられます。
記事の最大化 ⇒ 範囲の経済
記事の評価を活用 ⇒ 経験の経済
ファンの有効活用 ⇒ ネットワークの経済
上記の観点から、雑誌のWebメディア化を検討してみるのも1つの考え方です。
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