放熱対策の決め手は放熱部品にあり

放熱性能の高さと省スペース性を持つ放熱部品が、最新電子デバイスの小型化・高性能化に貢献

高速の通信処理や画像処理をするような最新電子デバイスでは、小型化と高性能化のどちらも求められているため、電子部品が発生する熱を限られた空間でどうやって放熱するかという問題が、常に設計者を悩ませるものになっています。

目次

電子部品の放熱の仕組み

電子回路に使われている半導体に電気が流れ、動作状態になると熱が発生します。温度が高くなっていくと特性が変化する部品も多く、回路設計者が意図した性能が得られなくなったり、部品そのものの機能が失われたり(壊れたり)することがあります。また、電子回路の動作に影響がない程度の温度であったとしても、手に持ったり身に付けて使うデバイスの場合は、人間が熱くて持てなくなったり低温やけどをしてしまったりということも考えられるため、放熱対策は避けては通れません。

ある部品で発生した熱は、どのように放熱されるのでしょうか。放熱、つまり熱の逃げ方/逃がし方/伝わり方には3つあります。「熱伝導」、「熱伝達」(対流)、「放射」(輻射)です。
熱伝導は、物質内で高い温度の部分から低い温度の部分に向けて熱エネルギーが移動するものです。
熱伝達(対流)は、固体から流体への伝わり方で、固体の熱がそれよりも温度の低い流体(液体、気体)に熱エネルギーが移動する場合に、温度が高くなった流体が上昇し、温度の低い流体は入れ替わって下降します。
放射(輻射)は、物体から熱エネルギーが、電磁波(赤外線)となって放出されるものです。
一般的に、電子部品で発生した熱は、まず、部品が実装されている基板に伝わり、基板から空気に伝わることで放熱される割合が大部分です。

放熱部品により異なる特徴、注目は放熱性能

電子部品で発生した熱は、熱伝導や熱伝達(対流)により放熱されますが、発生する熱量が多いと、放熱が追いつかず部品はどんどん加熱し最後は壊れてしまいます。そこで、発生する熱をより効率よく放熱するために使われるのが放熱部品です。代表的な放熱部品としては、以下の4種類があります。

ヒートシンク

ヒートシンクは熱源に密着させて熱伝導により熱を受け取り、受け取った熱は熱伝達で空気中に逃がす放熱部品です。金属またはセラミックスで作られ、空気に熱を逃がす部分は空気と触れる面積を増やすため、フィン状や棒状になっています。空気を循環させて放熱効率を上げるためにファンと組み合わせて使われることも多い部品です。

グラファイトシート

グラファイトシートは、金属よりも高い熱伝導率*をもつ黒鉛を薄いシート状に加工した放熱部品です。グラファイトシートの熱伝導率は、ヒートシンクの材料としてよく使われるアルミや銅に比べ2~5倍と高いため、熱を早く周辺に逃がすことができます。また、薄くてしなやかなので狭い隙間でも適用することができます。

<注>熱伝導率:その物質中における熱の伝わりやすさを示す指標

ヒートパイプ

ヒートパイプは、熱伝導率が高い金属などで作ったパイプの中に、少量の液体(純水などの作動液)を密封した放熱部品です。パイプの内側には毛細管構造(ウィック)が作られています。熱源にパイプの一方の端を密着させ熱を得ると、作動液が蒸発して潜熱として吸収し、パイプの低温部に移動します。低温部に移動した作動液は凝縮して液体に戻り、熱を放出します。液体に戻った作動液は、毛細管現象によって元の熱源部分に戻っていくという仕組みです。熱の移動は非常に短時間で、かつ連続的に起こります。動力は必要としません。

ベイパーチャンバー

ベイパーチャンバーは、ヒートパイプとまったく同じ原理で動作しますが、パイプ状ではなく、フィルム状のケーブルや薄い金属のベルトのような見た目をしています。ベイパーチャンバーは、極めて精密に形成された溝と毛細管構造(ウィック)のある薄い金属板を貼り合わせた構造をしています。ヒートパイプは構造上、曲げたり薄くしたりすると放熱効率が落ちますが、ベイパーチャンバーは厚みが0.25~0.2mmと薄いものも作られています。

ベイパーチャンバーの仕組み

ヒートシンク

【長所】
・低価格
・放熱性がある

【短所】
・熱伝導性が低い
・重い・容積が大きい(小型化・薄型化が困難)
・材質が金属の場合、導電性があるために電子回路をショートさせるリスクがある

ヒートパイプ

【長所】
・熱伝導性が非常に高い

【短所】
・構造上ある程度の厚みが必要(薄型化が困難)
・熱源が高い位置にある場合は、熱輸送の効率が落ちる
・棒(パイプ)状のため、単体では広い面積に熱を拡散できない

グラファイトシート

【長所】
・軽量
・大きく薄型化が可能
・柔軟性がある
・電磁波シールドとして機能する

【短所】
・ヒートパイプやベイパーチャンバーと比較すると、熱伝導性が低い。
・運べる熱量が小さい
・導電性があるため、粉末などが電子回路に影響を与えるリスクがある

ベイパーチャンバー

【長所】
・熱伝導性が非常に高い。
・熱輸送量が大きい
・薄型化が可能
・熱源が高い位置にある場合でも熱輸送の効率が落ちにくい(ヒートパイプとの比較において)
・平面状のため広い面積に瞬時に熱を拡散できる。

【短所】
・ほかの放熱部品と比較すると高価

ベイパーチャンバーとグラファイトシートの熱伝導率の比較

DNPが開発した高性能・高機能ベイパーチャンバー

電子デバイスの小型化・高性能化によって放熱が課題となることを見越して、DNPは放熱部品事業に参入。自社が持つケミカルエッチング*による10ミクロン単位の超微細精密加工技術を応用して、薄い銅板に作動液が通る微細な流路と毛細管構造を作り、厚みが0.20mmと薄いベイパーチャンバーを開発しています。非常に高い熱伝導率、薄型、軽量であるだけでなく、曲げることができる柔軟性があり、曲面や段差のある部分にも適用できる特長を持っています。

<注>ケミカルエッチング:金属材料を化学薬品で腐食させることによって任意の形状に加工する技術

DNPのベイパーチャンバー

DNPのベイパーチャンバー

ベイパーチャンバーと銅板の、熱の伝わり方の比較

ベイパーチャンバーと銅板の、熱の伝わり方の比較

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