放熱素材と放熱部品の種類と特徴
冷却システムに使用される放熱素材や放熱部品の特徴や注意点を解説
関連する18分野を見る
高密度に実装された基板に高い熱を発するSoCなどの電子部品が実装されている場合、その熱によって性能を発揮できなかったり、故障したりしないよう放熱対策をとらなければなりません。部品の放熱を助ける放熱部品や素材にはさまざまな種類があり、それぞれに特徴を備えています。放熱部品・放熱素材の種類とその長所と短所を紹介します。
目次
放熱部品に使われる素材
電子部品の放熱対策は、熱を速く広いスペースに分散させるということが基本です。分散させた熱は最後には空気に伝えて逃がしますが、空気は熱を伝えにくい(熱伝導率が低い)ため、いかに熱源の熱を速く広範囲に伝えられるかが重要です。放熱部品としては、板(プレート)状のもの、剣山状または蛇腹状のもの(ヒートシンク)、シート(フィルム)状のもの、パイプ状のものなどいくつかの形に分かれますが、それら部品の素材としてよく使われるのが、金属、セラミックス、グラファイトです。
金属
ヒートスプレッダと呼ばれる板状の放熱部品やヒートシンクによく使われるのが金属です。金属の種類によって熱伝導率は異なりますが、その中でもよく使われているのが、銅とアルミニウムです。特に銅は全金属中で銀に次ぐ高い熱伝導率を持ち、加工性がよく入手しやすい長所があります。ヒートパイプやベイパーチャンバーの素材としても銅が使われます。アルミニウムは、銅ほど熱伝導率は高くありませんが、加工性、入手のしやすさでは遜色ない上、軽い、さびにくいといった長所があります。銅とアルミニウムの短所としては、導体であることです。電子回路や部品のリードが接触して短絡しないよう配慮が必要です。
セラミックス
金属と同様に、板状放熱部品やヒートシンクに使われるのがセラミックスです。セラミックスは原料によって大きく熱伝導率が異なりますが、窒化アルミニウムを原料として作られるセラミックスは、アルミニウムより低いものの(金属)シリコンや炭素に匹敵する熱伝導率があります。絶縁性の高さ、熱膨張性の低さも長所といえます。金属ほどには薄くできないことや衝撃に弱い(もろい)点は短所です。
グラファイト
グラファイトは規則的に配列させた炭素原子を層状にした物質です。熱伝導率はアルミニウムや銅の数倍以上と高く、アルミニウムよりも軽い、柔軟性が高いという長所があります。層が広がっている方向(水平方向)の熱伝導率が高い一方、層が重なる上下方向(垂直方向)の熱伝導率が低いという特性があり、放熱部品としてはシート(フィルム)状に加工し、グラファイトシートとして利用されます。良導体であるため、電子機器に使う際には金属同様、短絡させないよう注意が必要です。
放熱部品
放熱部品には、ヒートシンクやグラファイトシートなど、上で紹介した放熱素材が持つ長所である熱伝導率の高さをそのまま利用した部品と、ヒートパイプやベイパーチャンバーのように、さらに放熱の効率を上げる構造(機能)を持たせた部品があります。
ヒートシンク
ヒートシンクは、熱源に接する面が平らに、その反対側の熱を熱伝達によって空気に逃がす部分は何枚もの薄い板(フィン)が連なる蛇腹状や、棒がたくさん並ぶ剣山状になっています。多くはアルミニウムや銅、またはセラミックスが使われます。表面積が大きければ(より多くの空気と触れるので)放熱性能が高くなるので、ある程度の空間は必要です。空気を強制的に流すためのファンを装着する場合もあります。
ヒートシンクの装着例
|
グラファイトシート
グラファイトシートは熱源に柔軟性のあるシートを密着させ、熱伝達によって水平方向に熱を拡散させる放熱部品です。熱伝導率の高いグラファイトを樹脂フィルムで挟んだような構造をしています。薄いので狭い場所でも熱を逃がすことができます。
ヒートパイプ
ヒートパイプは金属(一般的には銅)で作られたパイプ状の放熱部品で、パイプの中に少量の作動液(純水など)を密封し、熱源に接した部分の作動液が気化して熱を奪い、低温の部分に移動して液体に戻ることで熱を放出する仕組みです。液体に戻った作動液は、パイプの内側に作られたウィックと呼ぶ構造によって毛細管現象の原理で熱源部分に帰り、また気化するというサイクルを繰り返します。作動液の循環(サイクル)は素早く連続的に起こり、ヒートシンクやグラファイトシートに比べ、ずっと高い放熱性能があります。
ヒートパイプとヒートシンクを組み合わせた使用例
|
ベイパーチャンバー
ベイパーチャンバーは、基本的な動作原理や構造、放熱性能はヒートパイプとほぼ同じですが、パイプではなく金属(多くは銅)でできたベルトのような外形をした放熱部品です。この金属の板(ベルト)の中に、作動液が封入された溝やウィックが多数形成されています。ヒートパイプは薄く(扁平に)したり深く曲げたりすると放熱性能に影響が出るので、取り付け場所や形がある程度制限されますが、ベイパーチャンバーは厚みが0.25~0.20mmと非常に薄いものもあり、狭い場所でも効果的に放熱させることができます。
TIM(Thermal Interface Material、熱界面材料)
ヒートシンクやヒートパイプ、ベイパーチャンバーといった放熱部品と、電子部品などの熱源との隙間を埋めることで、放熱部品と熱源間の熱の伝導を高める部材がTIMです。空気は熱伝導率が低いので、ほんのわずかな空隙であっても放熱性能が低下してしまいます。先に紹介したグラファイトシートは、それ自体が部品に密着するのでTIMは不要ですが、ヒートシンクやヒートパイプ、ベイパーチャンバーの性能を発揮するためにはTIMも重要です。
熱伝導グリース(サーマルグリース)
熱伝導グリースは、粘性のある液状の樹脂に熱伝導性が高い金属やセラミックスの微細粉末(フィラー)を混ぜたTIMです。取り扱いは容易で、電子回路の熱源となるICにヒートシンクを取り付ける場合によく使われます。ただし長期間の使用には、隙間から流れ出したり成分が揮発したりすることによって性能が落ちる場合があります。似たTIMに、より粘度が高く、たれ落ちにくい熱伝導パテというものもあります。
熱伝導グリースの使用例
|
熱伝導接着剤
熱伝導接着剤は、接着剤の中に金属やセラミックスの微細粉末(フィラー)を混ぜ込んだTIMです。放熱性能を上げると同時に放熱部品の固定ができる長所がありますが、後で外すことが困難という短所もあります。
PCM(Phase Change Material)
PCMは、熱伝導グリースと同じような使われ方をしますが、常温では固体、高温になると液体に(柔らかく)なって密着性が向上する特長を持ったTIMです。
高い放熱性能を備え、限られた空間でも使えるベイパーチャンバー
DNPは、小型で高性能の電子デバイスの放熱問題に対応するため、自社が持つ10ミクロン単位の超微細精密加工技術を応用して、薄い銅板に作動液が通る微細な流路と毛細管構造を作り、厚みが0.20mmと薄いベイパーチャンバーを開発しています。非常に高い熱伝導率、薄型、軽量というベイパーチャンバーの一般的な特長に加えて、柔軟性があり、曲面や段差のある部分にも適用できるので、他の放熱部品が使いづらい条件でも対応できます。
DNPのベイパーチャンバー
|
その他のコラム
-
ペルチェ素子の原理と使い方
- 精密機器部品・部材
ウェアラブルなエアコンで注目のペルチェ素子、ベイパーチャンバーが用途を広げる
-
半導体の発熱をコントロールする熱設計とは
- 精密機器部品・部材
電子機器の小型化で重要度が増す設計時の発熱対策
-
LEDに必要な熱対策とは
- 精密機器部品・部材
LEDの性能や寿命に影響を及ぼす熱の対策方法について解説
-
ヒートシンクの種類と使い方
- 精密機器部品・部材
電子部品の放熱対策の定番であるヒートシンクを詳しく解説
-
熱シミュレーションによる電子機器開発
- 精密機器部品・部材
シミュレーションツールによる熱解析の概要やできることなどについて紹介
-
熱を瞬時に伝えるヒートパイプ、その歴史と仕組み
- 精密機器部品・部材
ヒートパイプの歴史、構造、動作原理、特徴の詳細について紹介
-
CPU、GPU、SSDの熱対策、設計時にどう考える
- 精密機器部品・部材
ノートパソコン内部の限られたスペースで効率よく放熱するための熱対策とは
-
熱対策の基礎知識
- 精密機器部品・部材
熱とは何か、電子機器の性能を十分に発揮するための熱対策について解説
-
放熱設計と電子機器
- 精密機器部品・部材
冷却システムに使用される放熱素材や放熱部品の特徴や注意点を解説
-
グラファイトシートの特性とメリット/デメリット
- 精密機器部品・部材
薄くて軽く柔軟性があり熱伝導性に優れるグラファイトシート
-
放熱対策の決め手は放熱部品にあり
- 精密機器部品・部材
放熱性能の高さと省スペース性を持つ放熱部品が、最新電子デバイスの小型化・高性能化に貢献
関連する18分野を見る