グラファイトシートの特性とメリット/デメリット
薄くて軽く柔軟性があり熱伝導性に優れるグラファイトシート
基板に実装された電子部品の放熱対策として、熱伝導性が高く狭い場所でも適用できる放熱部品のグラファイトシートがあります。グラファイトを使わない熱伝導(放熱)シートも含め、放熱の仕組みや放熱部品としての使い方などを紹介します。
グラファイトシートとはどんな放熱部品か
グラファイトシートは、薄いシート(フィルム)状の放熱部品である「熱伝導シート」の1種です。シート状のため軽くて柔軟性があり、基板上に実装された電子部品の高さが少々異なっていても、それぞれの部品に密着させることができ、部品が発する熱を周辺(面方向)に逃がすことができます。放熱部品のなかには空間(高さ)を必要とするものも少なくありませんが、グラファイトシートは薄い(1mm以下)ので、狭いところでも適用しやすい放熱部品です。
グラファイトシートは素材であるグラファイト(黒鉛、炭素の結晶)の薄い膜を、PETやポリイミドなど絶縁体で挟んでラミネート加工した構造となっています。グラファイトの薄い膜を製造する方法はいくつかありますが、現在は有機フィルムを高温で熱分解する製法が多いようです。
形状を別にして、グラファイトシートが放熱部品として優れているのは、熱伝導率の高さです。グラファイトシートの熱伝導率は、グラファイト膜の製法によっても異なりますが200~1800 W/(m・K)程度で、ヒートスプレッダやヒートシンクによく使われる金属であるアルミニウムの3~5倍、銅と比べても2~3倍もあります。このように高い熱伝導率を示すのはグラファイトシートの面方向で、シートに対して垂直な方向ではそれほど高くありません。
グラファイトシートのもう一つの特性として、グラファイトが導電体なので、グラファイトシートは電磁波を遮蔽する性質があります。このため、電磁波シールドとしても機能します。なお、製品に適用する上では、導電性のあるグラファイトの微粉末が基板上に落ちて、電子回路を短絡させてしまう可能性には注意が必要です。
グラファイトシートを熱伝導率で上回るベイパーチャンバー
薄くて軽く、高い熱伝導率を持つグラファイトシートですが、それに近い薄さと軽さを持ちながら、さらに数倍以上の高い熱伝導率という特長を持つのがベイパーチャンバーです。ベイパーチャンバーは、熱伝導率が高い金属で作った薄いベルト状の放熱部品で、その内部に極めて精密に形成された溝と毛細管構造(ウィック)があり、純水などの作動液が封入されています。
特にDNPのベイパーチャンバーでは、内部の毛細管構造をエッチングによって極めて微細かつ精密に形成していることが特徴です。ベイパーチャンバーの一端を熱源に密着させると、作動液が蒸発することで潜熱として吸収し、低温部に移動して、熱を放出して液体に戻ります。作動液は毛細管現象によってウィックを伝って熱源部分に戻ります。この動きは非常に短時間かつ連続的に起こり、外部動力は必要ありません。(※2022年2月時点の情報です)
ベイパーチャンバー、グラファイトシート、水、純銅、アルミ合金の熱伝導率の比較表 |
DNPのベイパーチャンバー
DNPは、これまで培ってきた超微細精密金属加工技術を使って、厚みが0.20mmという熱伝導シート並みのベイパーチャンバーを開発しました。ある程度の柔軟性もあり、曲面や段差のある部分にも適用できます。(※2022年2月時点の情報です)
DNPのベイパーチャンバー |
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