熱伝導シートとグラファイトシートの特性
薄くて軽く柔軟性のある熱伝導シート、なかでも熱伝導性に優れるグラファイトシートとは
基板に実装された電子部品の放熱対策として、熱伝導性が高く狭い場所でも適用できる放熱部品のグラファイトシートがあります。グラファイトを使わない熱伝導(放熱)シートも含め、放熱の仕組みや放熱部品としての使い方などを紹介します。
熱伝導シートとはどんな放熱部品か
熱伝導シートとは
熱伝導シートは、シリコーンやアクリルなどの樹脂を、薄いシート(フィルム)状にした放熱部品です。熱伝導性を高めるために、フィラーと呼ばれる熱を伝えやすい微粒子(セラミックスや金属など)を混ぜた物も多くあります。特徴として、薄くて軽く柔軟性が高いため狭い空間で発生した熱を逃がすために使用できます。また、密着性が高いため、熱源である電子部品と別の放熱部品であるヒートシンクの間に挟むことで熱的に接合する目的でも使用されます。使用目的に応じて、硬度、難燃性、電気絶縁性、耐久性などいろいろな特性を持った製品が開発されています。
熱伝導シートは柔軟性があり折り曲げにも強いので、ある程度の高低差なら一度に各種部品に密着させることができます。例えば、基板に表面実装されたチップ抵抗やチップコンデンサ、ICなど、少しずつ高さが異なっている部品ごとでも問題ありません。一方で、取り付ける際には傷ついたり裂けたりしないよう注意が必要です。
グラファイトシートとは
グラファイトシートは文字通り「グラファイト」(黒鉛、炭素の結晶)を素材に使った熱伝導シートです。一般的に、熱伝導シートの熱伝導率はヒートシンクにも使われるアルミニウムや銅に比べると数分の1程度と低めなのですが、グラファイトシートはアルミニウムや銅の3~5倍以上という高い熱伝導率(面方向)が一番の特長です。熱源の熱を素早く周辺に広げて放熱します。もちろん、熱伝導シートが持つ、薄い、軽い、柔軟性があるといった長所はそのまま備えており、使い勝手の良い放熱部品といえます。
グラファイトシートは素材であるグラファイトの薄い膜を、PETやポリイミドなど絶縁体でラミネート加工した構造となっています。グラファイト自体は導電体なので、グラファイトシートは電磁波を遮蔽する性質があり、電磁波シールドとしても機能します。なお、導電性のあるグラファイトの微粉末が落ちて、電子回路を短絡させてしまう可能性には注意が必要です。
グラファイトシートとベイパーチャンバー
薄くて軽く、高い熱伝導率を持つグラファイトシートですが、それに近い薄さと軽さを持ちながら、さらに数倍以上の高い熱伝導率という特徴を持つのがベイパーチャンバーです。ベイパーチャンバーは、熱伝導率が高い金属で作った薄いベルト状の放熱部品で、その内部に極めて精密に形成された溝と毛細管構造(ウィック)があり、純水などの作動液が封入されています。ベイパーチャンバーの一端を熱源に密着させると、作動液が蒸発することで潜熱として吸収し、低温部に移動して、熱を放出して液体に戻ります。作動液は毛細管現象によってウィックを伝って熱源部分に戻ります。この動きは非常に短時間かつ連続的に起こり、外部動力は必要ありません。
DNPのベイパーチャンバー
DNPは、これまで培ってきた超微細精密金属加工技術を使って、厚みが0.20mmという熱伝導シート並みのベイパーチャンバーを開発しました。ある程度の柔軟性もあり、曲面や段差のある部分にも適用できます。(※2022年2月時点の情報です)
DNPのベイパーチャンバー |
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