熱シミュレーションによる電子機器開発

シミュレーションツールによる熱解析の概要やできることなどについて紹介

電子機器設計時の熱シミュレーション

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製品開発において、コンピューターシミュレーションツールを使った構造、流体など各種の数値解析は、開発者の勘と経験に頼っていた試作と実験の繰り返しによる設計開発のやり方を大きく変えました。電子機器における熱の移動や放熱に関するシミュレーション(熱流体解析)も、コンピューターの計算能力の向上とアルゴリズムの改良によって、かつてはスーパーコンピューターでなければできなかったような解析が、パソコン上で可能になりつつあります。シミュレーションツールによる熱解析の概要やできることなどについて紹介します。

目次

熱シミュレーションとは

熱の逃げ方/伝わり方には、「熱伝導」、「熱伝達」(対流)、「放射」(輻射)の3つがあります。この3つの現象はそれぞれ、物理法則をもとにした数理モデルにより異なる基礎方程式(支配方程式ともいう)として表すことができます。例えば熱伝導の伝熱量は、基礎方程式に、パラメーターとして温度勾配(2地点間の温度の変化率・変化量)と熱伝導率を代入することによって導かれます。製品設計開発にこれを活用するには、多地点の温度勾配、部品や材料により異なる熱伝導率、部品のサイズ、時間(経過)、さらには熱伝達や放射についても含めた、多数の基礎方程式を解く必要があります。熱伝導という物理現象の結果(解)を、実験によって得るのではなく、計算(≒模擬的な実験)によって得るのがシミュレーションです。

基礎方程式を1つ解くだけでもそう簡単ではなく、設計開発に必要な多数の方程式を手計算で解くのは時間がかかりすぎてまったく現実的ではありません。また、複雑で大きな対象になればさらに計算時間が増えていきます。そこで計算対象を小さな領域の集まりに分割して、領域と領域のつながりを連立方程式として計算して各領域の温度を出す「熱回路網法」が考え出されました。熱回路網法を使うと計算できる対象が広がるのですが、領域分割や連立方程式を立てるには知識と経験が必要です。

そこでコンピューターに計算させることが昔から考えられてきましたが、計算量が膨大なため、求められる期間の内に解を得るには計算対象を限定した上で、スーパーコンピューターを使う必要がありました。それが、パーソナルコンピューターが搭載するCPU/GPUの演算速度のめざましい向上、メモリーの増加と、ソフトウェアアルゴリズムの進歩によって、パーソナルコンピューターでもシミュレーションできるようになってきました。

電子機器設計時の熱シミュレーション

シミュレーションツールでできること

シミュレーション専用ツールを使うと、基礎方程式を解くだけでなく、計算の前に必要な対象モデル(外形など)を3D CADで入力できたり、計算結果を数値だけでなく視覚的に分かりやすく表示してくれたりします。熱や熱の動きは実際には目には見えないものですが、ツールを使うことで誰にでも理解しやすい形に見せてくれます。例えば、電子回路において発熱部品が発する熱が、定常状態になったときでも一定の温度内に収まっているか、放熱のためのヒートシンクやファンの位置は適切で暖まった空気は効率よく排出されているか、といった設計上の問題点が分かります。

シミュレーションツールは、熱、流体、電磁気、構造などの分野ごとに専用となっていて、設計開発においては、それぞれ解析したい分野のツールを使うのが一般的で、それぞれ必要なデータや操作方法が異なるなど使いこなしに手間がかかりました。最近のシミュレーションツールは、機能を統合する傾向にあり、一度作成した3Dモデルで、熱と電磁気、構造(ひずみ、変形)など相互に関連して起きる現象をまとめて解析できる連成解析ができるものも登場しています。ヒートシンクとファン、ヒートパイプとヒートシンク、ベイパーチャンバーを経由させての筐体での放熱など、小型化、高密度化が進む電子機器の設計開発において、シミュレーションツールは強い味方です。

ツールを動かすためには高い性能を持ったパソコンをシミュレーション専用として準備する必要がありますが、Webブラウザからログインするだけでシミュレーションツールをすぐに使えるクラウドサービスの提供も始まっており、ツールを使うためのハードルは以前よりも格段に下がっていると言えるでしょう。

設計上の制約が少ないベイパーチャンバー

ヒートパイプとベイパーチャンバーは同じ基本原理で動作する放熱部品で、どちらの熱伝導率も非常に高いものですが、ヒートパイプは金属製のパイプで作られていて狭い場所に適用するのはやや難しく、また重いため少しでも軽くしたい電子機器には使いにくい面があります。その点で、ベイパーチャンバーは1mm以下という薄さと軽さにできるという長所があります。

ベイパーチャンバーは、熱伝導率が高い金属で作った薄いシート状の放熱部品で、動作原理はヒートパイプと同じです。一般的な、メッシュを用いたベイパーチャンバーは、内部に微細に形成された毛細管構造(ウィック)があり、純水などの作動液が封入されています。一方DNPのベイパーチャンバーでは、内部の毛細管構造をエッチングによって極めて微細かつ精密に形成していることが特長です。エッチングで形成したDNPの毛細管構造は、メッシュやより線を使った毛細管構造と比較すると、1)流路が微細なため毛細管力が高い、2)指向性を持たせることができる(設計自由度がある)、3)メッシュを使わないのでそれだけ薄くできる、4)断面方向の強度が高い構造のため曲げて使用できる、といった長所があります。

ベイパーチャンバーの一端を熱源に密着させると、作動液が蒸発することで潜熱として吸収し、低温部に移動して、熱を放出して液体に戻ります。作動液は毛細管現象によってウィックを伝って熱源部分に戻ります。この動きは非常に短時間かつ連続的に起こり、外部動力は必要ありません。

DNPのベイパーチャンバー

DNPは、これまで培ってきた超微細精密金属加工技術を使って、厚みが0.20mmという熱伝導シート並みのベイパーチャンバーを開発しました。ある程度の柔軟性もあり、曲面や段差のある部分にも適用できます。
※2022年2月時点の情報です

DNPのベイパーチャンバー

DNPのベイパーチャンバー

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