データも進捗も、プラットフォームで一元管理。
「MDAM(エムダム)」が出版DXを見据えた基盤に
出版業界のDXが進みにくかった理由のひとつに、編集部や担当者レベルで独自の制作方法が用いられ、ワークフローの標準化が進まなかったことが挙げられます。こうした課題を解決したのが、株式会社集英社が中心となって開発が進められた総合誌面制作プラットフォーム「MDAM(エムダム)」です。2021年7月からDNPがパートナーになり、出版業界各社への導入支援をおこなっています。「MDAM」開発に携わってきた株式会社集英社ブランドビジネス部デジタルデザイン室の松下延樹氏に、「MDAM」開発の背景や、導入によって得られた効果についてお伺いしました。 ※2022年4月公開
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プロフィール
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株式会社集英社
ブランドビジネス部デジタルデザイン室
松下 延樹氏
2001年入社。「Seventeen」などファッション誌の整理編集を担当した後、雑誌デジタル編集室で雑誌の電子版配信に携わる。2016年から「MDAM」の企画に取り組み、以後、開発・運営及び導入を推進。
目次
コンテンツ二次利用の手間を削減し、ワークフローの標準化を図る
——「MDAM」は集英社で開発が進められたそうですね。開発の背景をお聞かせください。
|
松下氏:実際に開発を始めたのは2017年からです。当時から雑誌コンテンツの二次利用が多く、紙の雑誌制作のほかに、Webコンテンツ化やSNS配信、ECサイトへの流用、広告資料への掲載など多岐にわたっていました。そうなるとさまざまな部署が誌面コンテンツのデータを求めるわけですが、その都度編集部や印刷所に問い合わせて、「○号○ページの誌面データがほしい、写真データがほしい」と依頼をしなければいけませんでした。
当然、編集部も印刷所も自分たちの仕事で忙しいですから、なかなかデータ手配に対応ができないケースがあるわけです。手配を依頼する側にしても、今すぐデータがほしいのに待たなければいけない。時間のロスもありますし、双方が煩わしさを感じる状況でした。
こうした状況を改善するために、誌面データを一括で管理し、共有できるプラットフォームが必要だと考えました。
——確かに、二次利用が増えると、データの管理や手配が煩雑になりやすいですよね。
松下氏:もうひとつ課題がありまして、雑誌には「紙の雑誌を作る」「誌面の素材をWebに転用する」という共通した2つの大きなワークフローがありますが、編集部ごとにそのワークフローを個別最適化してしまうと複数の雑誌と仕事をしている外部パートナーは編集部ごとのワークフローやデータ管理方法を把握しなければいけませんし、社員自身も、人事異動で編集部を変わった際に一から新しい方法を覚えなければならない、という懸念がありました。こういった状況は非常に効率が悪いので、ワークフローの標準化が必要だと考えました。
データや進捗の共有と、ワークフローの標準化。この2点が「MDAM」開発の背景にあった課題感です。
プラットフォーム上で制作フローを可視化。必要なデータをすぐにダウンロードも可能
——「MDAM」ではどのようにデータや進捗の管理ができるのでしょうか?
|
松下氏:雑誌ごとに各号すべての誌面データが「MDAM」上に格納されていて、制作途中のものから下版後まで、すべてのデータと進捗を確認することができます。
例えば、台割と誌面のサムネイルが連動しており、プレビュー確認することが可能で、初校が出たページ、入稿済みのページといった進捗がひと目でわかります。また、プラットフォーム上で誌面レイアウトを確認するだけでなく、原稿の作成や修正を直接レイアウト上に入力するようなイメージで作業することも可能です。
アクセスできるデータは権限で分けていますが、社内の部署だけでなく、ライターやデザイナー、校閲者などの外部パートナーの方にも利用していただいています。
共通のプラットフォームで作業できるため、ライターは「MDAM」内で原稿を書いて編集者が確認する、校閲者はその誌面データにアクセスして校正する、ということが「MDAM」を媒介してできるようになりました。
「MDAM」のトップ画面。ブラウザベースでのファイル管理が可能に。 |
——すべての関係者が共通のワークフローで作業できるようになり、制作の効率化が実現したんですね。データの共有をしやすくするという点では、どのような工夫をされたのでしょうか?
松下氏:「MDAM」には登録されているバックナンバーの下版データが格納されているので、データが必要な人はアクセス権限に応じて雑誌タイトル、号数、期間、キーワード、タグなどを指定し、自分で検索してダウンロードすることができます。
「MDAM」で運用している社内の19媒体を横断して、特定のキーワードで検索することも可能です。例えば、特定のブランドで検索すれば、これまでに該当するブランドが登場している誌面がすぐにピックアップされます。トレンドの変化や過去のタイアップ実績などを知りたいときに役立ちます。
また、複数の雑誌で活躍されたモデルさんの名前で検索すれば雑誌を横断して掲載ページがヒットしますから、そうしたページを再録してそのモデルさんの書籍・ムックを作ろう、という場合などの素材収集にも活用できます。
以前だったら、バックナンバー全てに目を通して該当ページをコピーしたり、リストを作成したりという工程が発生していました。データ管理やリサーチにあてていた時間や人件費を削減できるメリットは大きいといえます。
——過去のデータにすぐにアクセスできると、新しい企画を考える際にも役立ちそうですね。
松下氏:そうですね。編集部だけでなく、広告部にとってもクライアント企業への提案がしやすくなったと思います。
データをダウンロードする際はサイズやファイル形式を選択することができるので、「印刷製版会社に頼んでPSDデータファイルを毎回JPGに変換する」というような手間は発生しません。特定の制作環境を必要としないため、誰でも使いやすい設計になっています。
出版業界全体に「MDAM」のノウハウを提供
——「MDAM」導入後、社内や外部パートナーからはどんな反響がありましたか?
|
松下氏:従来の制作フローだとライターと担当編集、担当編集とデザイナー、担当編集と編集長というような1対1のやりとりになりがちでした。
「MDAM」導入後は、関係者すべてで進捗を共有できるようになったので、コミュニケーションの厚みが増したといえます。
ほかにも、例えば、弊社の広告部は媒体資料の作成やクライアントへの提案の際などに誌面データを使うことが多いのですが、以前はその都度編集部や印刷製版会社にデータの手配を依頼していたんですね。それが、「MDAM」からダウンロードできるようになったので、「業務効率が上がった」という声がありました。
デザイナーやライター、校閲者などの外部パートーナーの方からも、ポジティブな感想をいただいております。複数の出版社、複数の媒体を掛け持ちする方も多いので、統一プラットフォーム上で作業できるというメリットを感じていただけているようです。
また、コロナ禍の初期には出社、来社を控える動きがありましたが、「MDAM」があったことで各自が自宅から進捗を共有し、編集作業をすることができました。「MDAM」のような共有のプラットフォームがなければ、もっと混乱が生じていたかもしれません。
——「MDAM」ならではの強みとしては何が挙げられますか?
松下氏:「MDAM」の強みは国内製のプラットフォームという点です。海外の会社が提供するシステムでは、日本にいる我々の改修要望が受け入れられるか不明ですし、細かなアップデートには時間がかかってしまうでしょう。雑誌制作の現場の声を細かく拾い、それを解決するための機能を実装していくためにも、やはり国内での開発が不可欠でした。
今もユーザーの要望を聞きながら毎月アップデートをおこなっています。ワークフローを標準化することが開発の根幹にあるコンセプトなので、基本的には各社個別のカスタマイズはおこなっていませんが、今後も業界全体として必要だと感じられる機能は追加していきます。
——2021年からDNPとパートナーを提携し、出版社向けソリューションとして「MDAM」を展開しています。
松下氏:集英社の中で開発、導入を進めてきたのですが、現在は小学館、講談社、世界文化社グループ、主婦と生活社、光文社など各社で採用されています。また、当社には2017年から「MDAM」を運用してきた中で蓄積してきたノウハウもあります。出版業界全体に「MDAM」を推進することで、雑誌の課題解決に貢献していきたいと考えています。
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