Think Japan 現代に生きる日本の色 -藍-

日本の住宅を豊かにするためにDNPができること。日本の伝統技術を調べて応用し、日本の生活空間の未来を考え「DNPだから出来ること」を、世界へそして次世代へ提案する「Think Japan」。
今回は藍染をテーマに、日本の伝統的な染色技法の植物染で伝統色を表現する「染司よしおか」の6代目当主、染色家の吉岡更紗氏をお迎えしてお話を伺いました。
※この記事は2021年7月に開催したプライベートセミナーの内容を一部抜粋して掲載しています。

2021年6月 インタビュー:DNP生活空間事業部 永井

吉岡 更紗(よしおか さらさ) プロフィール

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染司よしおか六代目 / 染織家
アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県西予市野村町シルク博物館にて染織にまつわる技術を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」に戻り、製作を行っている。
「染司よしおか」は京都で江戸時代より200年以上続く染屋で、絹、麻、木綿など天然の素材を、紫根、紅花、茜、刈安、団栗など、すべて自然界に存在するもので染めを行っている。奈良東大寺二月堂修二会、薬師寺花会式、石清水八幡宮石清水祭など、古社寺の行事に関わり、国宝の復元なども手掛ける。

植物染めについて

ー植物染めと言いますと、ナチュラルで淡い色を想像しておりましたが、実際の工房では鮮やかな色が印象的でした。
このような色を出すことは容易ではないと思いますが。


私どもは自然界に存在する植物を中心に一部動物性のものも使うのですが、そういうもので染色をしております。
あとは、藍ですね。今日のテーマとなる色かと思いますが、この蓼藍という葉っぱにちょっと枯れると青い色が残っているのがわかると思いますが、そちらを発酵させたもの、これを蒅(すくも)と言います。こちらで藍の色を出しています。

藍染の原料

ーこの植物がきれいな藍染になるのはなかなか想像がつきません。

私どもでは染色するところからという形になるのですが、色々やり方がある中の一つとして、私どもで仕込むということもします。今回見ていただく蒅(すくも)というものは徳島の方で作られています。

こちらの葉っぱは、普通の葉っぱだと茶色く、黄色く枯れると思うのですが、この藍に関しては藍の色素が残っているので、青く枯れるんです。この色素を利用するのですが、乾燥させたものにお水をかけて莚(むしろ)で包んで発酵させて、さまざまな工程を繰り返しながらこの蒅が徳島で作られています。

それを藍の甕に入れて、灰汁を使って甕の中で混ぜると徐々に発酵していき藍染ができる状態になります。
大体その工程で1~2週間はかかるのですが、その中に染める布を入れると、その時は発酵物なので藍の色は見えないんですが、布から出したときに空気に触れることで、徐々に藍に染まり変わっていき染色が可能になります。

ーあの鮮やかな色はいくつもの工程を経て生み出されるのですね。

藍の甕を混ぜる様子

藍の甕から取り出した織物

日本の伝統的な技法・色使いへの注目

ー植物染めの研究と発信にも大変ご尽力されていた先代の吉岡幸雄先生は、2018年にイギリスの博物館で70点の植物染めのシルクを展示し大変好評を博したとのことです。海外で日本の色への関心が非常に高いことがうかがえます。

もともと日本だけが植物染めをしているわけではなく、化学染料が始まるまでは世界中どこでも同じように植物染めをしていました。逆に化学染料を発明したヨーロッパで、止めてしまった植物染めを展示するというのは非常に貴重な経験だったと思いますし、世の中が近代的になって来たけれども、自然志向に徐々に戻ってきている中で、こんな色をヨーロッパの方もかつては出していたと思います。そういったことが今も日本に残っているのを興味を持って見ていただいていた、そういうことが印象に残っております。

Victoria&Albert博物館での展示の様子

海外のカラーコーディネイトとの違い

ーもう一歩踏み込んで、海外と日本の色の関係。例えば、十二単の色使いのような、日本らしさを感じる色の組み合わせのバリエーションと、西洋のカラーコーディネイトとの違いとは何でしょうか?

日本自体が非常に四季がはっきりしている、季節の移り変わりが豊かな自然環境にあります。季節の移ろい、色が変わっていくとか春夏秋冬それぞれ咲く花があるとか、空の色が変わるとか自然環境の豊かさが日本人の色使いや色彩感覚に大きな影響があって、特にヨーロッパの環境とは違うところがあります。西洋の方とか日本やアジアの方々それぞれに色彩感覚があると思いますが、ここが大きな違いだと思います。

鴨川の風景

ーDNPでは現代の日本に暮らす私たちの視点から、日本の色と住まいの関係の研究・発信を考えております。
吉岡更紗さんは、ザ・ホテル青龍 京都清水を始め、今年広島県尾道市に開業しました旅館 アズミセトダなど、話題の建築にも作品を収めらていらっしゃいますね。


私どもが新しくできる建物の仕事をさせていただくとき、よくいただく内容、求められるのは、海外の方がたくさんいらっしゃることを前提にされているかと思います。そういった方々がいかに「日本の色がこんなに豊富でたくさんあるか」を見ていただけるような空間であったり、京都は京都の四季の美しさを表現する空間で、アズミの場合は海でフェリーに乗っていらっしゃって、暖簾をくぐると海の美しさとか空の美しさを感じるように、それをイメージしました。。建物と日本の自然環境が融合しているような空間の中に、日本の自然をあらわすような色があるというすごく美しい調和をしているような中で、私どもは染織品を収めることに関して、美しさが伝わるように、それでまた自然を思い起こしていただけるようになるといいなと思っています。

ザ・ホテル青龍 京都二条の写真

ザ ・ホテル青龍 京都清水

植物染めや藍染をインテリアに取り入れるには

ーサスティナブルへの関心や消費社会の中で、身近に自然のものを置きたい欲求に対して、私たちの身近で藍染や植物染めをインテリアに取り入れていくにはどうしたら良いでしょうか?

やはりですね、季節が暑くなってくると藍染のものであったり緑系のものの需要が増えるのですが、それって人間のすごく単純な感情だと思うんですよね。寒いときは暖色系が気になるんですけども、季節が変わっていく中で暑いときは少しさわやかなものを家の中のインテリアに取り入れるという方が特にこのコロナ禍に多いという印象を受けたんです。

ーコロナ禍というところで、テレワークのスペースなど従来の空間にもう1部屋スペース・余白を設けるというインテリアも増えております。そういった空間にこそ、今お話しいただきました植物染めというようなエッセンスが求められる機会も増えてくるかと思います。

植物染めで美しく染められた織物

今回の取り組みについて

ーDNPは先代の吉岡幸雄先生にお世話になっておりましたが、残念なことに2019年にお亡くなりになられてからは、吉岡更紗さんにご教示を賜ってまいりました。
はじめは2019年京都の祇園祭をご案内いただきまして、非常に面白かったです。由緒正しいお家の屏風や巻物などの、いわゆるお宝を一般の方に見せていただく機会もあり、知的好奇心が満たされるお祭りでもあると感じました。


祇園祭自体は京都の街中、普段歩いているところが急に華やかになって、鉾が建てられたり、それぞれ町内の方が持っていらっしゃるものを公開されるんです。その中でも鯉山はご覧になりましたか?そこではベルギーの藍染されたタペストリーが公開されていたんですけど、ヨーロッパの藍の色と日本の藍の色の違いというのも、皆さんに見ていただけたのではないかと思います。

祇園祭の様子

ー海外の要素も取り入れた、でも日本の祭りということですね。

そうですね、その当時の方はいろいろな舶来品をそれぞれ町内で手に入れて、それを鉾とか山を飾るということをされているんです。それだけ自分たちの町内がいいものを持っていて、「どやっ」という感じなんですね。でもその空間の中で実は昔の美しい色が見られる、とても貴重な機会だなと私も思っています。

祇園祭での展示物

祇園祭での展示物2

ー翌日研修として実際に工房にお伺いさせていただき、植物染めの体験をさせていただきました。
実際に体験してみて想像していた以上の鮮やかな色が出ることに驚きます。一方で染める難しさというのも経験しました。
その後は徳島の藍染の工房も見学させていただきました。まず初めに蒅を作られている新居さんという方のところに、その後、古庄藍染工場さんのところで絞り染めの体験をさせていただきました。
私たちは「藍」の植物があるような言い方をしてしまうのですが、実際は藍の染料となる植物がいろいろあって、それを蒅に一つずつしていくということなんだと実感しました。

新居製藍所

古庄染色工場

ー今回の経験を通じてDNP自体のモノづくりの在り方を見直すきっかけになりました。自然物と工業製品の関係というのは今後のDNPにおいても、非常に大きなテーマの一つになっていくかと思っています。
まずその第一歩として今回、藍染の布植物染めの麻布をご提供いただき、その良さを最大限尊重しながらデザインに取り入れ、自然素材の質感をリアルに再現した家具・建具用シートやフローリング用シートの
プロトタイプを作成しました。

今回採用いただいたものは麻の素材になります。麻の繊維の中でも原始的な方法で、こちらは作られた布になります。麻の植物自体は割と背が高くなるように育てられているんですけど、茎を割いて糸状にするんですね。それを縒り合せることで、一本の糸にしていく。現在の糸は「紡績」、紡ぐものが多いんですけど、これは繊維自体を割いた状態のものが一本の糸になっていてあまり縒り合わされていないというのが特徴になります。それによって、表情も少し豊かな雰囲気になっていると思いますし、それがそちらのものにも反映されていると思います。

ーDNPでもインテリアの空間、床や建具などに、グラデーションや空間の広い濃淡を意識して変化が出るよう、デザインに取り入れさせていただきました。
版の重ね方やインキの調合も従来より工夫して、風合いを近づけるべく試作を重ねています。

藍染された様々な種類の織物

麻の葉

プロトタイプ品は、当社ショールーム にてご覧いただけます。ご希望のお客様はお近くの生活空間事業部 営業拠点 までご連絡ください。

ショールームで展示中のプロトタイプ

最後に

ー今後の活動について何かお考えはありますでしょうか。

染織の技法であったり、使う染料であったり生み出す色に関して言うと、今まで祖父の代、父の代続いてきた植物染めの技法を間違いなく踏襲するというところが一番です。
ですがここ数年で、今までですと染色と言うと衣服であったり身に着ける方のお仕事が多かったのが、建物であったり立体的なものを彩るという仕事が増えてきています。どちらかと言うと平面の方が得意でイメージがわいていたのを、立体化させていくことで色の重なりがまた違って見えてきました。そういったお仕事きっかけに色々見えてくるものもあったので、技術自体は変えることはないんですけど、表現方法を突き詰めていきたいと思います。

ーDNPでも自然物と工業製品の関係というのは今後も大きなテーマになってまいりますので、インテリアと日本の色の関係について、今後もぜひ一緒に可能性を探っていけたらと思っています。   
本日はどうもありがとうございました。

吉岡更紗氏の染色工程

吉岡更紗氏の染色工程

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