[AIコラム]
なぜDNPがAIを? ー前半ー
~背景にあったのは、意外性よりも「必然性」~

2018年に経済産業省が『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』を発表して以来、ビジネスや社会において重要なキーワードとなった「DX」。DNPにおいても、先端IT技術の研究開発および事業化が進められています。 その中で特に力を入れている分野の一つが、AIを活用したサービスの開発です。他ではなくDNPだからこそ実現できるAI技術とは、一体どういったものなのか。情報イノベーション事業部 DX基盤開発部 部長の和田 剛が、AI開発に込めた深い想いを語ります。

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AI開発の中心を担う「AI技術推進グループ」とは

—DNPのAI開発は、どういった背景で始まったのでしょうか。

DNPでは今、従来からの受注型ビジネスを大事にしながら、その実績やノウハウを活かして「新たな価値を“自ら”創り出す」ことをめざしています。それをどうやって実現させていくかと考えたとき、3つのキーワードがあがりました。

まず、方法論としての「アジャイル」。実験的に開発したものをいち早く世の中に提供し、実際に使っていただいた反応をもとに改良を重ねていく開発の手法です。そして、利便性の高いツールとしての「クラウド」。最後に、進化が著しい技術としての「AI」です。つまり、「クラウドを使ってアジャイルにAIのサービスを届けていこう」ということですね。

それで、もともとあった先端技術をリサーチするR&D部門の中に、AIを専門的に扱うグループができました。現在10名のメンバーがいて、半分が技術開発職のメンバー。残りの半分は、データサイエンスの知見を持つメンバーで構成されています。

—AI開発では、データサイエンスの知見も大きなポイントになるのですね。

データというのは、そのままでは単なる数字や文字、あるいは画像でしかありません。それをいかに読み解き、価値のある“情報”へと加工するか。AI技術とは、その分析と変換の手段です。ですからこのグループも、データをどのように活用するかを考えるメンバーと、そのデータを分析・変換するための技術を開発するメンバーに分かれているのです。

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印刷がデジタルに置き換わっても、本質は変わらない

—世間ではDNP=印刷会社というイメージが強いので、
 AIやデータサイエンスに取り組むのは意外に思われるかもしれません。

そうですね。でも実は、先ほどお話した「データを価値ある情報に変える」というのは、我々DNPがずっとやってきたことです。例えばクライアントから商品に関するデータをお預かりし、それをカタログや本という情報に加工し、生活者に届ける。その本質は、まさに「データを価値ある情報に変える」ことです。

デジタル以前の社会では、それが印刷物というアウトプットになることが主流でした。今は世の中のデジタル化が進み、コミュニケーション手段が広がって、取得できるデータも膨大で多様になっています。そこにAIの力を活用し、さまざまなコミュニケーション手段にあわせて情報を加工していくのは、DNPとしてごく自然な流れです。

DNPのソリューションの本質

—膨大なデータを扱う際にAIは不可欠ですが、その他にもAIを活用するメリットとは?

やはり、人にはできない新しい価値の発見でしょう。そこには二つの側面があって、一つはマイナスをゼロにするという価値です。分かりやすいのが、事故の防止ですね。ベテランの校正者ほど見逃しが起こりやすいとはよく言われる話ですが、人の仕事にはどうしてもミスが起こります。でも、審査や校閲のように正解が決まっている業務であれば、何が正解かをAIに学習させることで間違いをゼロにし、事故防止や品質向上につなげられます。

もう一つは、人には気づけない相関や関係性の発見です。人々の行動や購買データから、例えば「おむつを買う人はビールを一緒に買う傾向がある」「この商品の写真をSNSにアップする人は何色の服を好む」といったパターンや法則を見つけ出せば、新たな販促やサービス開発につなげることができます。そこにAIを使うことで、人の頭では考えつかなかった意外性のある関係性が見つかるかもしれません。

日本語を扱い続けてきた企業だからできること

—AI開発に取り組む企業やスタートアップが世界中で急増する中、
 DNPならではの強みはどこにありますか?

今、AI技術の世界では、大手プラットフォーマーが圧倒的な力を持っています。それらと勝負をしても、残念ながら勝ち目はないでしょう。ただ、そうした海外の技術を日本の市場やユーザーに向けてそのまま取り入れても、実はうまくいかない場合があります。代表的なのが、日本語の問題です。

例えばペットボトルのお茶のパッケージを見たとき、日本語を日常的に使っている方なら、背景のデザインと文字を問題なく識別し、縦書きの商品名と横書きの説明文が混在していても正しく読むことができます。でも、海外のAIエンジンはそうした複雑な日本語の文字認識がどうしても苦手です。文字だけでなく音声でも同じですね。それらに対応できるのがDNPのAI技術の強みです。

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複雑な日本語の文字認識は、DNPのAI技術の得意分野。

情報は、必要な人に届いて初めて価値が生まれる

—これまで培ってきた知見を活かすことで、AI開発における差別化が図れるのですね。

はい。その点から言えば、多様な「伝える手段」を持っているということも大きな強みです。
データを価値ある情報に変えたところで、それをしかるべき相手に伝えなければ意味がありませんよね。例えばAIのデータ分析によって「次はこの本が売れる」と予測できたとします。では、その情報を生活者にどう届けるか。実はAI技術だけで勝負している企業の多くは、そこに苦戦しているのです。

でもDNPであれば、街のサイネージで流そうか、LINEのプッシュ通知で知らせようか、あるいは3次元で表現したほうが伝わるコンテンツであればVRで届けようかなど、コンテンツにあわせ、自社で開発したさまざまなメディアで最適化してご提案することができます。

DNPなら一気通貫した提案が可能

—データを情報に変換し、その後の「届ける」にまで対応できると・・・。

技術だけの競争だと、結局価格の安さや精度の高さだけで生き残りが決まってしまいますが、届ける段階までセットで考えられることで差別化が図れます。同じ情報でも届け方によって印象や価値が大きく変わるので、「どう届けるか」はとても重要な視点なのです。私たちがUIやUXに力を入れるのもそのためです。



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 和田 剛

 大日本印刷株式会社
 情報イノベーション事業部 ICTセンター
 システムプラットフォーム開発本部
 DX基盤開発部 部長



事業の本質と強みを引き継ぎ、新たな価値創出をめざすDNPのAI開発。
では、具体的にどういったソリューションが、どのように生み出されているのでしょう?

ー後半ー に続きます。


2022年5月時点の情報です。


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