[AIコラム]
使いながら育てていく、
AIで変わる新しい校正のかたち

DNPが2021年にリリースした『DNP AI審査サービス(校正・回覧業務)』は、企業が発行する印刷物の校正・校閲や契約書等の審査にAIを活用し、ミスの低減と業務の省力化をサポートするサービスです。ビジネスにおけるDXが企業の課題となる今、DNPが提供できる新たな価値とは? サービスの開発と事業立ち上げを担当する情報イノベーション事業部PFサービスセンターデジタルトラストプラットフォーム本部 部長の箕浦 克彦が、詳しくお話します。



既存サービスの延長線上に新たな価値を

—『DNP AI審査サービス』は、どういった経緯で開発されたのでしょうか。

かねてからDNPでは、デジタルワークフローを活用した印刷物の制作管理や校正業務をサポートする『PROMAX NEO』などのソリューションを展開しています。そのサービスをさらに進化させ、新しい価値を提供できないかと模索する中で、4年ほど前からAIを活用したサービスの検討がスタートしました。

校正や審査業務にまつわるお客様からのニーズには大きく2つあって、まず重要なのは法改正・改定への対応です。法改正・改定があるたびにレギュレーションチェックや文言のチェックが必要なため、各担当者には多大な業務負荷がかかっています。製品パッケージひとつとっても、業界ごとに遵守すべきさまざまなルールがありますし、ひとつの事故による損失が数千万円、ときには数億円規模に上る可能性もあります。このようにひとつのミスが大きな事故につながるリスクがあるため、校正精度を高めることでリスクを減らしたいというのは、どの業界にも常在するニーズです。

加えて、この数年は、働き方改革の視点からも課題が出ていました。人の読み合わせによる校正は1回に時間がかかるうえ、複数名で何度も行うことがほとんどです。効率化することで働き方改善につなげようという声が増え始めたところで、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりリモートワークが急増。オンラインシステムによる校正対応へのニーズが、ますます高まったというわけです。

—AIの力を借りて、業務改善を図るということですね。

人が行う作業なのでどうしてもミスが発生する。これをAIの活用により業務支援することで、ミスを低減し、全体の業務省力化や本来業務に注力したいという声は、本当に多くの取引先からあがっていました。そうしたご要望と、DNPの既存サービスの強みをマッチさせた延長線上に生まれたのが、今回のAI審査サービスです。

動画:DNP AI審査サービス(校正・回覧業務)のご紹介動画(2分56秒)

事例提供など、36社のご協力によって「独自処理」を開発し精度をup

—技術面ではどういった特長があるのでしょうか。

『AI審査サービス』は「画像文字認識」と「自然言語処理」の2つのAIを搭載していて、まず画像文字認識AIで文章や画像を正しく抽出し、それをもとに言語処理AIが原稿比較やレギュレーション審査を自動で行います。

最初の画像文字認識においては、異なる特徴がある2つのAIエンジンを用途に応じて使い分けるハイブリッドな仕組みですが、既存のエンジンをただ使うだけでなく「前処理」と「後処理」を加えているのが大きな特長です。

—「前処理」「後処理」とは?

例えば背景のデザイン要素と文字が識別しづらかったり、立体のパッケージだと歪みが生じてしまったりと、AIで正しく文字を認識するのは意外と簡単ではありません。そこで、まず画像処理をかけて認識しやすくする。これが「前処理」です。アレルギー成分表やバーコード、各種ロゴマークなども適切に検出できるようにします。

文字を読み取ったあとは、さらに文字認識結果の補正をするなどの「後処理」を加えます。こうして初めて校正用の文字が適切に抽出され、日本語のチェックやレギュレーションとの突合ができる状態になるのです。この独自の処理を加えることで、文字認識精度が約20%UPします。

AI審査サービスの作業工程解説



—20%も! 適切な処理を加えられるのは、校正の現場を知っているDNPならではですね。

そうですね。この前処理・後処理の検討と実装が、今回の開発で一番苦労した点かもしれません。36社もの取引先から校正業務におけるご要望やさまざまなサンプルをお借りし、2年ほどかけてテストを繰り返しながら必要な処理を探っていきました。これだけの協力をいただけたのは、過去に積み上げたお取引実績やネットワークのおかげだと思います。

ワークフローも一元管理! 仕事を助け、働きやすく

—導入後の使い方についても教えてください。

まず事前準備として、企業ごとの遵守すべき表現ルールや必須記載事項、ロゴなどのデザイン要素とその使用規定をシステムに設定します。いわば、企業ごとに独自の“辞書”をつくり上げるイメージですね。そうすることで、各社に最適化した校正やレギュレーションチェックができるようになります。

ユーザーはオンラインでAI審査サービスにアクセスし、画面上で校正結果を確認します。結果を判定するだけでなく、同じ画面上で赤字の追記もでき、一人が確認したら保存して次の人へ。複数回にわたる確認が効率的になり、承認までのスムーズなワークフローを実現できます。

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確認画面のサンプル。UIにもこだわり、見やすい画面構成になっている。

—そのワークフロー管理が業務の効率化につながるのですね。

最初にお伝えした通り、企業の多くは校正・審査の精度向上とワークフロー改善をセットで求めていらっしゃいます。各社、制作から校正まで一連の業務におけるDXという課題を抱える中、既存のサービスと組み合わせてより付加価値の高いサービスを提供していけたらと思っています。

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クラウド上で一括管理するため、在宅ワークでも効率的な対応が可能に。

企業と一緒に育てながら、好循環を回していきたい

—2021年からサービスの提供を開始しましたが、
 どういった業界から引き合いがありますか?

現在運用が始まっているのは、飲料・食品メーカーや生保などの金融業界などです。また、地方自治体や銀行、学習塾からもお声がけいただいていますね。食品業界はアレルゲンなど健康に関わる重要情報の校正、生損保や自治体・銀行は募集文書のレギュレーションチェックや契約書類の審査、教育分野では試験の出題文の校正業務などがあり、それぞれの業界に個別のニーズがあります。

これらのさまざまな業界課題を解決し、AI審査サービスが業界標準になるよう成長させていきたいと思っています。

—学べば学ぶほど精度が高まるのは、AIを活用したサービスの最大の魅力ですね。

その点についてはお客様のご理解も深く、どの取引先も「一緒にシステムをつくっていこう、育てていこう」という意識を持ってくださっています。精度と使いやすさの向上により、本サービスの展開領域をより広げていく。幅広い領域のデータをAIが学習し続けることで、業界ごとの辞書が都度、蓄積・更新され、さらに審査精度が向上していく。この好循環をこれからしっかり回していけば、幅広い課題解決につながるサービスへ進化できると思っています。



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箕浦 克彦

大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部
PFサービスセンター
デジタルトラストプラットフォーム本部
企画開発第3部 部長





2022年6月時点の情報です。


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