ペルチェ素子の原理と使い方

ウェアラブルなエアコンで注目のペルチェ素子、ベイパーチャンバーが用途を広げる

関連する18分野を見る

関連する記事を見る

首や肩に装着して、皮膚と接触する金属面で冷涼感を得られる、“ウェアラブルなエアコン”が、ここ数年ちょっとした話題になっています。これらは、モータでファンを回すようなものではなく、電気を通すことで直接温度を下げる機能を持った半導体である「ペルチェ素子」を利用したものです。電気によって温度を下げる手段としては、冷蔵庫やエアコンのように冷媒とコンプレッサーを使う方法がよく使われます。しかし、それは原理的に小型軽量にするのは非常に困難で、コンプレッサーを動かすモータに大きな電力が必要となります。そこで小型の冷却機器向けにペルチェ素子が注目されているのです。

目次

ペルチェ素子とはどんなものか

1821年にドイツ人物理学者トーマス・ゼーベックが、2つの異なる金属を接合し接合部に温度差を設けると接点間に電流が流れることを発見しました。これを「ゼーベック効果」と呼びます。1834年、フランス人物理学者ジャン=シャルル・ペルティエは、2つの異なる金属を接合したものに電流を流すと、片方の接点の温度が下がり反対側の接点の温度が上がる(=熱の移動が起こる)ことを発見しました。こちらは「ペルチェ効果(ペルティエ効果)」と呼びます。ゼーベック効果とペルチェ効果は互いに逆の関係にあり、またこれらの効果は金属だけでなく半導体でも発生します。ペルチェ効果を冷却/加熱する部品に仕立てたものがペルチェ素子です。

200年も前に発見された物理現象ですが、100年ほど後にロシア(当時はソビエト連邦)科学アカデミーで、ペルチェ素子の研究が行われ、実用的なペルチェ素子が開発されました。多数の小さなペルチェ素子を直列に接続してヒートスプレッダーで挟んだような構造をしており、直流を流すと片面は加熱され、もう片面は冷却されます。直流の向きを逆にすると、加熱面と冷却面が逆になります。

ペルチェ素子の原理と仕組み

現在一般的なペルチェ素子は、ビスマス(Bi)とアンチモン(Sb)とテルル(Te)の化合物を元にP型とN型の半導体を作り、それを金属電極に接合したものを、冷却側と加熱側をそろえて多数直列に接続し、冷却部と加熱部を、支持体を兼ねたヒートスプレッダーで挟んだ構造となっています。

ペルチェ素子の原理と仕組み

ペルチェ素子は、可動部がまったくないので、非常に小型、軽量、電流を制御することで温度を細かくかつ素早く制御できる、動作中も無音、長寿命といった長所があります。一方、衝撃に対して弱い点、電力に対する冷却効率はあまり高くないため、ある程度(クーラーボックスサイズ)以上の冷却(加熱)をしたい場合には、冷媒とコンプレッサーによるものの方が高効率という点が弱点です。

ペルチェ素子の応用製品

ペルチェ素子は小型(薄型)で温度の制御が容易、静かといった特長があるため、民生用途や産業用途に広く使われるようになっています。

ペルチェ素子の応用例
・パソコンのCPU/GPUの冷却
・ウェアラブルなエアコン
・ワイン専用小型冷蔵庫
・ホテルの部屋などの小型冷蔵庫
・温度の細かい管理が必要な医療機器
・計測機器などに使われるセンサーやレーザー発信器の冷却
・工場設備の制御盤の冷却
・水槽の温度管理
・小型恒温槽

ペルチェ素子の効率を上げるベイパーチャンバー

ペルチェ素子は、電流を流し続ければ、冷却/加熱し続けるというものではなく、冷却部と加熱部の温度差が一定(70K程度)に達すると、それ以上冷却できなくなる特性があります。この状態になると電力は熱に変わるため、素子全体の熱がどんどん上がり、放置するとペルチェ素子自体が壊れてしまいます。そこで、ペルチェ素子を冷却用途で使用する場合には、加熱部の熱を十分に逃がす(放熱する)必要があるのです。複数のペルチェ素子をスタック(積み重ね)して、ペルチェ素子の加熱部を別のペルチェ素子で冷却するというシステムも可能ですが、システム全体としての冷却効率は下がってしまいます。

ペルチェ素子が持つ、薄型、軽量、静音という特長を生かしながら、加熱部の熱を早く効率よく逃がすことができる放熱部品は何かと考えると、同様に薄型、軽量という似た特徴を持つベイパーチャンバーが最適です。ペルチェ素子の加熱部にベイパーチャンバーを密着させれば、熱を高速に面的に広げたり、熱を十分な大きさのヒートシンクまで伝えたりできます。

ベイパーチャンバーは、熱伝導率が高い金属で作った薄いシート状の放熱部品で、動作原理はヒートパイプと同じです。一般的な、メッシュを用いたベイパーチャンバーは、内部に微細に形成された毛細管構造(ウィック)があり、純水などの作動液が封入されています。
DNPのベイパーチャンバーは、内部の毛細管構造をエッチングによって極めて微細かつ精密に形成していることが特徴です。ベイパーチャンバーの一端を熱源に密着させると、作動液が蒸発することで潜熱として吸収し、低温部に移動して、熱を放出して液体に戻ります。作動液は毛細管現象によってウィックを伝って熱源部分に戻ります。この動きは非常に短時間かつ連続的に起こり、外部動力は必要ありません。

DNPのベイパーチャンバー

DNPは、これまで培ってきた超微細精密金属加工技術を使って、厚みが0.20mmという熱伝導シート並みのベイパーチャンバーを開発しました。ある程度の柔軟性もあり、曲面や段差のある部分にも適用できます。
※2022年2月時点の情報です

DNPのベイパーチャンバー

その他のコラム

関連する18分野を見る

関連する記事を見る