先行事例に見る、AIがMAにもたらす進化とは?

近年、ビジネス環境や顧客の嗜好の変化はますます加速し、それに伴い企業のマーケティングのあり方も大きく多様化しています。オムニチャネル化で接点が増えた顧客から得られる膨大なデータを、よりスピーディに解析・分析して施策に活かすことが企業成長のカギとなり、MAの導入が一気に進んでいます。
一方で、近年AI(人工知能)技術が飛躍的に進化し、さまざまなビジネスの現場での活用が急速に拡がっています。ニューヨークでは、AIを中枢に据えたMAプラットフォームなども登場。膨大なリアルデータをAIが分析し、高速PDCAによる学習を通じて最適化されたキャンペーン運用を、すべて自動で行うサービスがスタートしています。こうしたサービスは、まもなく時間をおかずして日本市場にも導入されることでしょう。
本記事では、AIでMAはどう変わるのか?AIによりマーケティング業務はどこまで効率化できるのか? 最新の広告プラットフォームを導入した先行企業の事例を紹介しながら考察します。

1. AIを中枢に据えたMAプラットフォームとは

1-1. 全体像

MAにおけるAIの活用において最も期待されるのは、商品データ、分析データ、顧客データ、広告のクリエイティブデータなど、マーケティングに関わるあらゆる情報からAIが自律的に学習し、戦略立案から実践までをワンストップで実行すること。つまり従来は人間の判断や手作業に依存していた部分を、高精度な次元で自動化することにあります。
これを実現しているのが、ニューヨークに拠点を置くA社が開発した「AI搭載型MAプラットフォーム」です。このプラットフォームでは、AIがインプットされる顧客情報や現状の運用スコアなどのさまざまなデータを分析し傾向を把握。それに基づいて戦略を立案し、キャンペーンの運用から、高速PDCAによる分析~最適化の一連の流れを、すべて自動的に行います。インプットされたデータの活用用途は2つ。1つはオウンドメディアを含むノンペイドメディアで、SNS上で「いいね」を集める施策や、Eメール、SMS、Push配信によるデジタルDMなどの送付計画の設計~実行に活用されます。もう1つはペイドメディア。DSPやリスティング広告などのいわゆる「運用型Web広告」を、与えられたデータの分析結果を基に予算配分も含め自ら最適に計画し、運用を実施します。

商品データや分析データ等あらゆるデータをAIに学習させ、メール配信等の施策を実行させている
MA×AIによるプラットフォームの全体概念図

1-2. AIが活きる3つの機能

AIを中枢に据えたMAプラットフォームは、大きく次の3つの価値(機能)を提供します。

  • クリエイティブ生成のセミオートメーション化
  • メディアバイイングの自動化
  • オプティマイゼーション(最適化)~オーディエンスターゲティング(ターゲット拡大)

それぞれの機能についてみていきましょう。

様々なデータをAIに学習させ、クリエイティブ生成、メディアバイイング、最適化とオーディエンスターゲティングまで自動化させている
A×AIプラットフォームの機能概要

1-2-1. クリエイティブ生成のセミオートメーション化

様々なデータをAIに学習させ、クリエイティブ生成を自動で行っている

予めパーツに分けて入稿されたクリエイティブのパターンを、AIがさまざまに組み換えながらテスト出稿を行います。そしてその初期~短期の各指標(CT, CTR, CV, CVR,CPAなど)のスコアを相対的に把握、分析しながら、クライアントのKPIに最も寄与するパターンを絞りこみ、最適なクリエイティブを導き出します。人が介在すれば膨大な工数や時間をかけて行うA/Bテストを、24時間365日休むことなく次々と実践し、大幅なコストカットを実現します。

1-2-2. メディアバイイングの自動化

様々なデータをAIに学習させ、メディアバイイングを自動で行っている

広告枠のバイイング(ビッディング)自体も、AIが自ら行います。現在も広告の自動買い付けシステムは存在しますが、各種条件などの事前設定は、あくまでも経験豊かな運用担当者によって行われるものがほとんどです。A社のAI搭載型MAプラットフォームでは、運用担当者が決めるのは予算とKPIだけ。その後のメディアプランニング、予算配分はすべて、AIがKPIをいかに早く、大きく達成するかから逆算し策定します。もちろん、クロスチャネル、クロスデバイス出稿にも対応します。

1-2-3. 最適化とオーディエンスターゲティング

様々なデータをAIに学習させ、最適化とオーディエンスターゲティングを自動で行っている

AIの長所を一言でいえば、24時間365日休むことなくPDCAを回しながらチューニングを継続できることです。常に最新のスコアをもとに分析を更新し、メディアプランをチューニングすると同時に、CV実績データから親和性の高い顧客層を解析し、オーディエンス拡張を自律的に行います。これは人的に行うのに比べ膨大なコストカットとなるため、今後も各ベンダーによって精度向上の研究、開発がなされていくと考えられます。近い将来、AIが学習によって導き出したデータから、マーケターの仮説とは異なる戦略が見えてくるかもしれません。

1-3. 導入事例

このサービスを導入し、すでに大きな成果を上げている企業があります。

米国の老舗二輪メーカーX社では、マーケット全体が縮小する中、複数のチャネルで積極的な広告展開を実施していましたが、その運用負荷は増す一方で効果は低迷を続けていました。コストを抑えながらコンバージョンを最大化したい・・・。そこで、買い替え検討客からのオンライン申し込みを最大化する目的でA社の「AI搭載型MAプラットフォーム」を導入し、ペイド/ノンペイドメディアを組み合わせた6カ月間のキャンペーンを実施したところ、

  • サイト流入数
  • 新規アクティブユーザー数
  • 問い合わせ電話件数

の各KPIにおいて、従来の数倍~数十倍もの伸びを得ることができました。
このケースでは、これまでの運用実績データをもとにAIが戦略を立案し、従来のマーケティング視点には含まれていなかった下記の3つのアクションを実行しました。

  • サイトを訪問する属性不明のユーザーのデモグラフィックスを特定する
  • 実行中のデジタルキャンペーンの中で最も高いパフォーマンスを発揮しているクリエイティブとテキストのコンビネーションを特定する
  • 常に最新のスコアをもとにデジタルキャンペーンの予算振り分けを見直し、最適化する

これらを着実に遂行する一方で、
分析から見えてきた“正しいターゲット層”へ向けてオウンドメディアでの発信やメールマガジンの発行を適切なタイミングで実行したことで、大きな成果を上げることができたのです。

2. MA×AIがもたらすメリット

事例から見るAIのメリットを整理してみましょう。

  • 実績の向上

    AIは休むことなく、常に運用全体の実績向上のためPDCAを高速で回します。これにより、プロモーション全体の運用コストの改善とKPI向上が図れます。

  • 運用負荷の軽減

    特にクロスチャネル展開の場合など、運用担当者の管理負荷が大幅に軽減されます。これにより、人的リソースの効率化が図れ、より生産性の高い業務に時間資源を充当することができるようになります。

  • 自社マーケティングに関するナレッジの蓄積

    AIの学びは、すなわち企業のマーケティング知識の蓄積です。これらをもとに他の施策への展開が期待できます。

3. まとめ

AIは休むことなく学習を重ねながら、常にデータから考察し得る最適な判断を行い、自動的に施策に落とし込み実行していきます。導入メリットの大きさを考えれば、統合型デジタルマーケティングの基盤として本格的にAIが活用されはじめるまでにそう時間はかからないと言えそうです。チャネルは横断的になり、ゆくゆくはペイドメディアのみならず、すべてのオンラインメディアが自動的に最適化されていくことになるでしょう。
一方で、独特のビジネス文化を持つといわれている日本国内でのマーケティング運用に関しては、AIが導入されたとしても長年培ってきたマーケティングセンスを持つ専門家のスキルを重要視するという意見も依然少なくありません。今後、どのようなすみ分けがなされていくかが注目されます。
MAは顧客体験価値(CX)の最適化を図るためのシステムのひとつです。そしてAIは、企業が目指すゴールへの最短ルートを提示しながら伴走する強力な相棒といえます。自動化できるところはAIを信頼して一任し、人的資源はより上流のKGI策定、戦略立案などに充てることができる。そんな世界がすでにはじまっていることを、マーケターは知っておくべきでしょう。

平尾 顕太郎

大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部
C&Iセンター デジタルマーケティング本部
エコシステム開発部 アライアンスグループ

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