Bluetoothだけじゃない。進化し続けるBeaconに見る課題と価値。

2013年、AppleがiOSに標準搭載した「iBeacon」を発表して以来、「Beacon(ビーコン)」という言葉が一般的に聞かれるようになりました。スマートフォンが普及し、Beaconの信号を受け取ることができる端末が増えたことで、「生活者の位置情報を把握し、より効率的に情報を届けたい」という企業のニーズと合致し、その活用が期待されてきました。
しかし、実際にBeaconが世の中で活用され、広く普及しているかというと、疑問が残ります。

本記事では、Beacon活用における価値や課題を整理しながら、さまざまなテクノロジーの組合せで課題を解決していく新たなBeaconについてもご紹介します。

目次

1.そもそもBeaconとは
2.従来のBeaconの課題
 2-1.Beaconが生活者に利用されてこなかった理由
 2-2.Beaconが企業に導入されてこなかった理由
3.新たなBeaconの登場
4.まとめ

1.そもそもBeaconとは

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「Beacon」とは、狼煙、灯台、無線標識といった意味を持つ単語で、地上にある固定された無線局などから発信される無線信号を、移動体に搭載された機器に送受信することで、位置情報などを捉える仕組みの総称です。
例えば、高速道路などに設置されているBeaconは、電波を発信し、渋滞や交通規制などの道路交通情報を、リアルタイムにカーナビゲーションなどの車載器に送信しています。

Beaconが広く認知されるきっかけとなったAppleが発表した「iBeacon」や、2015年7月にGoogleが発表したAndroidにも正式対応した規格「Eddystone」などは、「BLE Beacon」と呼ばれ、Bluetooth Low Energy(BLE)という無線技術を使い、その信号を受信できるスマートフォンなどの端末に対して情報発信ができる仕組みのことです。

Beacon端末を特定の場所に設置することで、近くを通る人のスマートフォンアプリに対してプッシュ通知などの情報発信が可能になります。出力の調整により数cm~数十mの範囲での配信が可能なため、ピンポイントでの情報発信や、生活者の行動履歴を把握することも可能です。

Beaconを活用することで、送り手(企業)は、自店舗の近くを通った生活者にクーポンを配信して集客につなげたり、ある特定の場所を利用した生活者に情報を配信することで、効率的に特定商品の購買促進につなげたりすることができます。
また、入店したログや店内のどこを通ったかなどのログを収集することで、ユーザーの細かな行動履歴、回遊情報を把握することも可能となります。それらの情報をもとに、店舗の設計や棚割りなどに活かすこともできるでしょう。

受け手(生活者)にとっては、外出時に近くの店舗のクーポン情報がタイミングよく届くことで、お得に買い物ができたり、 自身の属性にセグメントされた有益な情報を得られたりします。自ら時間を使って検索などを行うことなく、日々携帯しているスマートフォンのBluetooth機能をONにしておくだけで、タイミングよく有益な情報を得ることができます。

2.従来のBeaconの課題

企業と生活者の双方にメリットがあると期待されたBeaconは、さまざまなサービス・ソリューションに活用されています。
しかし、冒頭に述べた通り、実際にBeaconの普及が進んでいる実感はありません。

その理由を生活者、企業のそれぞれの視点から考察してみましょう。

2-1.Beaconが生活者に利用されてこなかった理由

従来のBeaconを利用するためには、スマートフォンにアプリをインストールしてもらう必要があります。ところが、このアプリのインストールが生活者にBeaconを利用してもらう大きなハードルのひとつです。
自分にとってメリットがある、魅力があると明確に感じなければ、インストールする手間や、限られたスマートフォンの容量を使ってまで、生活者は新たなアプリをインストールするに至らないでしょう。

また、BLE Beaconを利用するためには、スマートフォンのBluetooth機能をオンにしている必要があります。しかし、実際には日常的にBluetooth機能をオンにしている生活者はまだまだ多くありません。日経デジタルマーケティングが実施した「スマートフォン活用に関するアンケート調査(※1)」では、Bluetoothをほぼ日常的にオンにしている生活者の割合は19.7%にとどまり、オフにしている理由として、「特にオンにする理由がない」と回答しています。多くの生活者が、Bluetoothをオンにする必要性や、それによりもたらされるメリットを知らない、感じていないことがうかがえます。

2-2.Beaconが企業に導入されてこなかった理由

次に、サービスを提供する企業側の課題です。
提供する企業にとっては、Beaconを使ったサービスを導入・運用するための手間とコストの問題があります。

Beaconは「ピンポイントでの情報発信」を行えることに価値があります。有益なサービスを展開するためには、「特定の場所」に端末を設置することや、広い範囲に数多くの端末を設置することなどが考えられます。Beacon端末を使用するには電源が必要ですが、必ずしも電源がすでにある場所に設置できるとは限りません。導入にあたって、新たに電源を確保するための工事が必要になったり、電源ではなく電池式にしなければならないということもあります。

導入時に電源工事が必要となればそのコストはもちろんですが、電池式の場合にも、電池残量の確認や電池交換などのメンテナンスが必要になります。Beaconを使ったサービスを運用するには、導入費用だけでなく、このようなメンテナンスの手間とコストがかかります。メンテナンスにかかる人件費などのコストは安価とはいえないでしょう。
企業にとっては、当然ながら費用対効果が求められます。いかにこのコストを下げ費用対効果を高めるかは重要な課題です。

3.新たな「Beacon」の登場

「生活者に利用されない」という課題に対しては、「生活者が利用したくなる、利用しやすくなる」という解決策が必要です。
同様に、「企業(店舗)に導入されない」という課題に対しては、「運用コストを下げ費用対効果を高める」という解決策が必要です。現在、こうした課題を解決する新たなBeaconが登場しています。

生活者に利用してもらうハードルのひとつにアプリのインストールがありました。この課題の解決策として、新たなアプリを提供するのではなく、「すでに多くの生活者が利用しているアプリに対してBeacon機能を追加する」という方法があります。
例えば、すでに多くの方が利用しているコミュニケーションアプリ「LINE」です。LINEにはLINE Beaconという機能が追加されています。LINEのようにすでに普及しているアプリであれば、追加されたBeacon機能とそのメリットの周知という課題はありますが、生活者にとってのアプリインストールのハードルが大幅に下がり、利用促進が期待されます。
すでに、LINE Beaconの活用事例として、アパレルブランドの「ユニクロ」が一部店舗で、クーポン情報やチラシ情報の発信を行っています。

同様に、生活者に利用してもらうハードルのひとつにBluetoothをオンにしていないという課題がありました。この課題を解決する新たなBeaconのひとつが株式会社アドインテが提供する「AIBeacon」です。
「AIBeacon」はBluetoothだけでなくWi-Fiにも対応しています。もちろんiOS、Android両方に対応しており、通常のBeaconと同じようにアプリをインストールしているスマートフォンであれば、プッシュ通知が可能です。

株式会社ICT総研による「2017年公衆無線LANサービス利用者動向調査(※2)」によると、公衆無線LANサービスを利用している生活者は年々増加し、2017年は前年比17%増の5,046万人にのぼり、2020年には約6,500万人に伸びるとされています。東京オリンピックや訪日観光客対策として、Wi-Fiスポットの増設は今後も進み、その利便性はますます高まるでしょう。つまり、Bluetoothに比べ、Wi-Fiを日常的に利用している生活者は多く、Wi-Fiに対応することで、利用促進が期待されることになります。

また、従来のBeaconではアプリがインストールされているスマートフォンしか検知できませんが、「AIBeacon」は独自のデータマイニング技術により、アプリがインストールされていないスマートフォンであったとしても電波接触を検知することが可能です。この改善により、圧倒的に生活者の検知率が上がるため、Beaconの活用範囲が広がると期待されています。

最後に、運用の手間とコストを下げ、費用対効果を高めるための解決策として、大日本印刷株式会社が提供する「DNPソーラー電池式Bluetooth®ビーコン」というソーラー電池式のBeaconなどがあります。この「DNPソーラー電池式Bluetooth®ビーコン」は、屋内照明でも発電できるソーラー電池を搭載しています。それにより太陽光がさす屋外に限らず、屋内においても電池の交換が不要となるため、メンテナンスの手間とコストを削減することができます。
ソーラー型Beaconは、特に多くのBeaconの設置ニーズのある大規模な商業ビルにおいては効果を発揮するでしょう。

4.まとめ

Beaconを活用したサービス・ソリューションにはまだまだ課題もありますが、すでに成功している例もあります。例えば、観光案内や美術館・博物館の音声ガイドや、大規模な展示会などのイベントでの活用です。それまでの音声ガイドは、来場者の歩くペースや好みに関係なく、はじめから終わりまで自動再生されていました。Beaconを活用することで、自分が展示品を鑑賞するタイミングで、説明を聞きはじめることができるようになったのです。

Beaconの普及率と検知率が上がってくると、顧客の行動を正しく知ることが可能になり、コンテクストを正しく把握できるようになります。顧客のコンテクストを正しく理解できれば、最適なタイミングで最適な情報提供ができるようになります。
例えば、ある無人店舗を考えてみます。
いま、一人の生活者が来店しました。この生活者がお店に来るまでに寄ってきたお店などは、彼のアプリが知っています。
なぜなら彼のアプリは、BeaconやWi-Fiをキャッチしながら歩いてきたためです。その情報によって、この無人店舗では彼が何を探しているのか、推測することが可能となります。
そして、入店と同時に売り場までの経路情報まで送信するといった、ライトタイム&パーソナルなコミュニケーションで購買へと誘導することができるのです。
無人店舗化が進めばBeaconのニーズも高まり、Beaconの普及と共有化が進めば、近い将来、このような生活者にとって本当に価値のある情報提供も可能になるでしょう。

Beaconの活用によって、企業が生活者にとって本当に価値のある情報を提供できるようになり、情報を受け取るために生活者も喜んで自分のデータを企業と共有する。Beaconが発展すれば、デジタルマーケティングの理想、すなわち企業と生活者の個人データ活用におけるWin-Winが実現する日も近いのではないでしょうか。

参照元
※1:日経デジタルマーケティング「スマートフォン活用に関するアンケート調査」より
※2:株式会社ICT総研「2017年公衆無線LANサービス利用者動向調査」より

※2018年7月時点の情報です。

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