Adobe Summit でみた未来のデジタルエクスペリエンス像

2019年3月、米国ラスベガスにてAdobeSummitが開催されました。
今回は、AdobeSummitへDNPスタッフが参加したレポートをお送りいたします。

1. サミット概要とテーマ

MarketoやMagentoの買収なども影響してか、今年は過去最大の約17,000人の参加登録があったそうです。ブレイクアウトセッションなど、全員が一堂に会した際の熱気は凄まじいものがありました。

今年のテーマは「Business Transformation through CXM」。カスタマーエクスペリエンスを中心に据え、今一度ビジネスレベルから改革していこうというコンセプトでした。また、そのテーマに絡めてよく登場したのがDISCOVER/TRY/BUY/USE/RENEWの5つからなるカスタマージャーニー。情報探索をするユーザーに最適なコンテンツを提供するのはもちろん、購入時にはユーザーにストレスのない決済体験を提供し、利用シーンにおいては顧客をいかにサポートしていくか、そして再度購買の時にいかに最適なオファーが出せるか。昨今のトレンドであるLTV最大化にむけ、すべてのCXを統合管理していくことが重要であるということを言及していました。

CXMという言葉自体は目新しいものではないものの、1つ他のベンダーと比べて大きく印象が違う点は、Adobeが掲げるスイートソリューションには「クリエイティブアセットの制作と管理」の領域まで包含していること。今回のSummitでもAdobeはこの部分を強調したセッションが多かったように思います。

次の章からは、その「クリエイティブアセットの制作と管理」にフォーカスしてレポートしていきます。

2. 不足が懸念される「クリエイティブアセット」

昨今、日本でもMAやCDPの導入の検討が先行して進みつつありますが、アウトプットとなるクリエイティブアセットの生産が施策本数に追いつかない、そんな状況が少なくとも米国では起こりはじめています。

NUXEO社の調査※1では、85%のマーケターが「アセットを急ピッチで制作しなければならないことに苦しんでいる」と答えているようです。その一方で71%のマーケターが「数年前に比べて10倍以上のアセットを作らなければならない状況になってきている」と答えているとのこと。

その背景として大きく3つの要因が挙げられると考えられます。

1つ目は、パーソナライゼーションのレベルが高まっていること。個客は従来の画一的なプロモーションにはほとんど振り向いてくれなくなりました。カスタマージャーニーの川上から川下まで、あらゆる文脈に対応するパーソナライズドコンテンツを準備できているかが非常に重要になってきています。

2つ目は、チャネルが非常に増えてきていること。今や個客がコンテンツを消費するチャネルはWebサイトだけではありません。デジタル広告はもちろん、ソーシャルメディア、メール、DMなどの紙メディア、リアルチャネルなどさまざまなシーンで個客はコンテンツに接触してきます。

3つ目は、フォーマットが多種多様になってきていること。Webサイト用のコンテンツを準備しておけばよかった時代から一変し、今や動画の活用が当たり前となりました。将来的にはAR/VRといったコンテンツまで準備しなければならなくなるかもしれません。

3. クリエイティブアセット制作の効率化に向けた取り組み

このような背景をふまえ、米国ではデジタルアセットマネジメント(DAM)の導入と、クリエイティブ制作環境とのシームレスな業務統合が進んでいます。

NBAチームのSacramento Kingsは、Adobe Assetsを利用し、クリエイティブのやりとりの効率化を図りました。1シーズンのOOH制作のために200本ものメールのやりとりが発生していたところを、デジタルアセットマネジメント環境でセキュアかつシームレスにクリエイティブを相互やりとりできるような状態にしています。例えば、他チームのロゴがほしい時にNBAからセキュアな経路でロゴを貰えるようになっているとのこと。さらにAdobe AssetsやCreativeCloudのアカウントを“持たない”ユーザーにコンテンツのレビューをしてもらうための業務フローも仕組み化し、よりスムーズなレビュープロセスを構築したとのことでした。

また、Target社は自社のECコンテンツを3D化する取り組みを始めているようです。これはAdobeDimensionという制作ツールをうまく活用し、今まで1つの商品に100以上のバリエーションの準備が必要であった従来のコンテンツ制作業務から、3Dコンテンツを1つ制作するだけにする、という斬新な業務形態に切り替え、生産性を高める試みを行っているそうです。

4. ここまで来ているAdobeのクリエイティブアセット管理ソリューション

Adobeはさまざまなソリューションを包括的に提供していますが、特に印象に残った点は「クリエイティブ」を中心とした未来のデジタルエクスペリエンス像の実現力、というところに軸足を置いている点です。

例えば、靴の小売業を営むFootLocker社が行なっていたARコンテンツによる棚商品情報のパーソナライズ。

棚に専用アプリをかざすことにより、自分がWebサイトでブックマークしていた商品がどれであったかを簡単に把握できたり、店員にわざわざ聞かずともそのお店にあるサイズのストックがAR画面上で確認できる、というデモでした。また、これを下支えするクリエイティブアセット管理環境としてAdobe Assetsを活用するデモや、AI(Sensei)によるクリエイティブアセットの検索アシスト等が実演されていました。

また、SNEAKSというAdobe社が現在開発中のサービスのお披露目のセッションでは、リアル店舗のある付近を通ると「AR Zone」というプッシュ通知が届き、専用アプリでそのお店をかざすと、そのユーザーが欲しいであろう商品が3Dコンテンツでレコメンド&バーコード表示されるといったデモを行っていました。

ユーザーにとっては、予期せぬ瞬間に目の前に欲しかった(または欲しいことを気づかせてくれた)ものが現れるWOW体験を享受できることや、決済すればすぐに持って帰れるという利便性がある一方で、リアル店舗にとってもホットな顧客の効率的な取り込みが可能となるというメリットがありそうな施策です。

ただし、上記2つのケースのような施策を実行するには、あらゆるコンテンツのAR化をしていかなければなりません。ユーザーがARコンテンツをどこまで受け入れるかにもよりますが、IDCの調査では2022年までにAR/VR市場はグローバル全体で約1223億ドル(うちコンシューマ向けは約242億ドル)となると言われており、近い将来そのような世界が訪れてもおかしくはありません。来るべきときに備えてAR/VRコンテンツの生産についても検討しておいた方がよいと感じさせるセッションでした。

5. データとコンテンツの融合

最適なヒトに・最適なタイミングで・最適なチャネルから・最適なコンテンツを…と言われて久しいですが、昨今だと“NextBestAction?” “NextBestOffer?”といったキーワードをよく見かけるようになりました。

お客さまにとっての“Best”はほんの一瞬で移り変わるものです。極端な表現ではありますが、先ほどまでは温かいお茶が飲みたかったけれど、次の瞬間には冷たいお茶が飲みたくなってしまった…これくらいお客さまの心変わりは激しいものと心得ておかなければならないのだろうなという事を、これらのキーワードは教えてくれているような気がします。

そして、お客さまの心変わりに真摯に対応していくためには、「データ」からお客さま一人ひとりの状況を常に理解し続け、お客さま一人ひとりにとって“Best”な「コンテンツ」を延々と息を切らさずに提供し続けていくことが重要になるでしょう。

Adobe社はコンテンツ領域のみならず、ExperiencePlatformというReal-Time Customer Profile機能を持ったCDPの新リリースや、AttributionAI/CustomerAI/JourneyAIというデータ解析に軸足を置いたAIの提供など、データマネジメント領域にも注力しています。“Best”なCXを提供するためには「データ」と「コンテンツ」の両輪が重要であることを、最も理解しているベンダーと言っても過言ではないのではないでしょうか。

6. まとめ

今回は、AdobeSummit2019で聴講したセッションをふまえ、CXを最良のものにするための「クリエイティブアセット」の制作と管理の重要性について述べさせていただきました。

昨今のトレンドや、Adobe社発表のユースケース等を中心に述べさせていただきましたが、最高のCXを具現化し成果を上げていくためには、ベンダーやユースケースに頼ることなく、どれだけ汗をかいて自社のお客さま一人ひとりと向き合っていくかが重要なのではないでしょうか。お客さまとの信頼関係を構築し、お客さまの生涯のパートナーとなっていくことを目指す。そのためにはお客さまが“感動”するような体験は何か?を真剣に考え実践を繰り返していく。このような考え方が文化として浸透している企業こそが生き残っていくのではないかと思います。

極端な言い方かもしれませんが、全社でCXM環境を整えることに“取り組むという事自体”が、お客さま志向の文化を醸成するという観点で、投資対効果よりも大きな財産となるように思います。そのような大局的な価値も見据えた上で、まずはCXMの実行に不可欠なクリエイティブアセット管理のあるべき姿について社内で議論をされてみてはいかがでしょうか。

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