激変する購買行動を予測する「予測AI」とは?
現代のマーケティングでは「顧客」を「個客」としてとらえ、よりパーソナライズされたデータをもとに、個客の購買行動をいち早く察知し、新たな体験価値を提供することが重要です。
そのためには、膨大なデータから何らかの「特徴」を読み取り、個客に届くマーケティング施策の立案につなげなくてはなりません。
しかし、日々膨張を続けるデータを的確に分析・活用するための環境構築や、施策の実行は進んでいるでしょうか。
ここでは、コロナ禍を境に、急速に変化している顧客行動を、よりスピーディかつ精緻に察知するため、データ活用により需要や購買行動などを予測する「予測AI」と、それを活用する際の課題やメリットについてご紹介します。
1. コロナ禍で激変する生活様式
新型コロナウィルスによる世界的なパンデミックの影響から、人々はそれまでの生活を変える必要に迫られました。特に食品・娯楽・労働・教育など、生活に密着した分野で、顧客行動が激しく変化しています。
まさに「ニューノーマル(新常態)」が現実化している今、何が売れ、何が売れなくなるのか、誰しもが予測しづらい状況になっています。
従来のようなビジネスのカンと経験を頼りにしたマーケティングだけでは、データ活用を軸にしたビジネス社会において取り残されてしまう危険性があります。
一方、冒頭でも述べたような「個客志向」の流れは、未だ健在です。マーケティング担当者は激変する顧客行動をデータ軸で分析・考察しつつ、パーソナライズされたマーケティング施策の実行に向き合う必要に迫られるでしょう。
また、変化に乗り遅れないためにも、市場・需要予測をできるだけスピーディかつ精緻に行わなくてはなりません。
こうした現状をふまえ、マーケティングトレンドが先行する欧米ではマーケティング活動の意思決定から施策実行の最適化まで幅広いオペレーションでの「予測AI」の可能性が期待されています。
2. 「予測AI」とは何か?求められる理由
「予測AI」とは、AIが持つ3つのミッション(識別する、予測する、実行する)のうち、「予測する」に特化した機能を提供するAIです。
一般的に機械学習をベースとしたAIは、次の3つの用法が考えられます。
- 識別するAI:検索、画像認識、音声認識、異常検知 など
- 予測するAI:数値予測、ニーズ予測、顧客の購買行動予測 など
- 実行するAI:デザイン・表現の自動生成、クリエイティブ最適化、作業自動化 など
予測AIは、予測に特化することにより、環境変化をふまえた市場・需要・顧客行動を予測し、マーケティング施策の立案や経営判断を伴う意思決定をサポートします。
なぜ予測AIが求められるのか?
予測AIが注目される背景には、主に2つの要因があります。
1つ目は、前述したとおり「個客志向を背景とした顧客行動の深い理解とパーソナライゼーションへの対応」です。変化の激しい環境で、膨大なデータを分析しながら個別の顧客と行動をスピーディかつ精緻にキャッチするためのITツールとして期待されています。
また、2つ目の要因としては、「AIの民主化」が挙げられるでしょう。
AIの民主化とは?
これまでのAIは、機械学習エンジニアやデータサイエンティストなど「AI・機械学習に関する専門知識、またはそれに準ずる素養」を持つ人材のみが活用できる技術でした。
そのため、特定の部門でしか予測ができない、スピーディーにビジネス現場での活用を推進することができない、という課題がありました。
しかし、近年は、マーケティング部門や営業部門の人材が、コーディングやデータ準備に過剰な手間をかけることなくAIを活用できるソリューションが登場しています。
つまり、「AIの開発」ではなく、ビジネス部門のユーザー自らが「AIの活用」を実業務にスピーディーに組み込む環境が出来上がりつつあるのです。
これが「AIの民主化」です。
こうした2つの要因から、さまざまな分野で予測AIが活用されています。
ビジネス部門でも活用が進む予測AIのサービスベンダー
Obviously AI(米国、カリフォルニア州)
プログラミング知識がなくとも、学習データをアップロードし予測値を決めればAIが自動で最適化なアルゴリズムやパラメーターを選択してくれるAI予測プラットフォームを提供している。
自然言語処理や簡単な操作画面デザインによって専門知識がなくても使い易いインターフェイスも特徴で、「AIの民主化」を牽引するサービスベンダーであると考えられている。
EPICA(米国、フロリダ州)
企業やエージェンシーのマーケティング担当者が利用する統合型のマーケティングプラットフォームを提供するスタートアップ企業。
CDP機能に加えて、独自AIエンジン「Sophia」を用いて、在庫管理や需要予測、顧客生涯価値や解約の他、コンテンツの興味関心などさまざまなマーケティング活動の予測分析が可能となるPaaS (Prediction as a Service)と呼ぶデータ分析と意思決定支援のサービスを提供している。
予測AIが活用されている分野・業務
現時点では、リテール・サービス、マーケティング、金融・保険といった分野で、次のような業務に活用されています。
リテール・サービス
- 需要予測(購買金額予測)
- 在庫・仕入れ数の予測
- 商品価格予測(ダイナミックプライシングや価格最適化)
- 返品予測
など
マーケティング(業界全般)
- 解約予測
- NPS予測
- クロスセル、アップセル予測
- 購買行動予測
- 購入につながりやすい会員属性の予測
など
金融
- 貸し倒れ率の予測
- 不正行動(マネーロンダリング、クレジットカード不正取引など)の予測
- 金融商品の需要予測、解約予測
- DM反応率予測
など
保険
- 商品購入率予測によるダイナミックプライシング
- 解約予測
- 保険金請求額の予測
- 見込み個客の契約能性予測
など
いずれも市場・需要・顧客行動の予測に関する重要な業務であることがわかります。
ただし、こうした予測の精度を高めるためには、いくつかの課題解決が必要になるでしょう。
3. 予測AI活用におけるフローと課題
以下のフロー図は、予測AI活用に必要なフェーズを整理したものです。
一般的には③、④、⑤が予測AI活用のメインフェーズと考えられるでしょう。
しかし、AI活用の現場では、②の「前処理」や⑥の「予測モデルの評価」の人的負荷が大きくなりがち、という実情があります。
こうした実情をふまえると、予測AI活用における課題は次のように整理できます。
- さまざまなデータをスピーディーに統合
- データから予測するための教師データを容易に作成(データ整備)
- 予測のためのアルゴリズムを自動で選定
- 予測モデルを自動で作成
- 予測
- 予測結果をもとに評価・改善
- 自動的にモデルを更新し、予測精度を高める
- 施策と連携しやすい
予測AI活用フローから見える課題
活用したいデータがすぐに使えない
予測AIの精度を高めるためには、適切なデータ収集が必須です。
しかし、データ形式がバラバラであったり、連携仕様が統一されていなかったりすると、データを統合するためのシステム環境構築を優先する必要があり、投資額が大きくなります。
データ仮想化プラットフォームなどを活用し、フォーマットの異なる各種データを、スピーディーに予測AIに連携するための仕組みを採用すべきでしょう。
AIの前処理に人的負荷がかかる
データサイエンティストが分析作業に投入するコストのうち、約5割から8割が「前処理」に費やされているという調査結果があります。
つまり、データの欠損値や表記ゆれ等のクレンジング、特徴量の集計などを自動化できれば、前処理にかかる人的負荷は劇的に低減するでしょう。
データプレパレーションの活用により、前処理の人的負荷の削減に取り組むと良いでしょう。
予測アルゴリズムやモデル作成の自動化ができていない
マーケティング部門や営業部門で予測AIを施策に活用していくためには、専門知識を要する予測アルゴリズムやモデル作成を自動化する必要があります。
また、予測結果の評価がしやすく、データの更新やモデルのチューニングなどにより予測精度を自動的に改善するサービスが望ましいでしょう。
4. まとめ
本稿では、予測AIの概要やAIの民主化、活用時の課題などについてご紹介してきました。
同時に、スピーディーにデータ活用が行える基盤、データ加工の前処理の人的負荷の削減、アルゴリズム選定・モデル作成の自動化など、予測AIの選定ポイントも解説してきました。
しかし、予測AIの精度向上のためには、AIそのものの機能よりも、スピーディーかつシームレスにデータ活用ができる環境構築が大前提となります。
その上で、予測AIを活用することによって、コロナ禍における顧客行動等を予測することができるようになります。
ビジネス部門でも活用しやすい予測AIのサービス活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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