DNP、「デジタル」と「アナログ」の組み合わせで企業のマーケティング施策を支援

さまざまなデバイスやWebサイトから収集したデータを活用し、顧客獲得を目指すデジタルマーケティング。しかし、デジタルデータを活用するマーケティング施策の大半は、電子メールやWeb広告などのデジタルメディアだけである。そのような状況下、大日本印刷株式会社(以下、DNP)は、「デジタル」と「アナログ」を融合させ、デジタルメディアと同等に、紙のダイレクトメールを生活者一人ひとりに対して自動送付するビジネス用アプリの提供を開始した。「DNPのビジネスモデル自体を変革し、デジタルトランスフォーメーションを推進する取組み」だという同アプリ。その開発意図には、どのような決断があったのだろうか。

DMは強力なデジタルマーケティングツール

「お客様の購買行動は、デジタルとアナログを行ったり来たりする。ですから、コミュニケーションメディアも、デジタルとアナログを適切に使い分ける必要があります。デジタルマーケティングとは、“デジタルメディアだけ”を対象にするのではありません」

こう語るのは、DNP情報イノベーション事業部 C&Iセンター デジタルマーケティング本部 本部長 天本直也だ。

DNPは2019年5月30日より、「パーソナライズド・オファーサービス(以下、DPO:呼称ディーポ)」の提供を開始した。DPOは、生活者にとって最適なタイミングや嗜好を見極めて、ダイレクトメール(DM)を自動的に送付するビジネスアプリである。電子メールやモバイルアプリなどのデジタルツールだけでなく、DMといったアナログツールも、生成から送付までを自動で実行する。こうしたサービスは非常にユニークだ。

現在、デジタルマーケティングの要となっているのが、「マーケティングオートメーションツール(MAツール)」だ。顧客のセグメントを抽出してシナリオを作成し、自動的にマーケティング施策を実施する。しかし、これまで施策となる“出口ツール”は、Webやメールに偏っていた。そのため、せっかく高度なプロファイリングや分析をしても、肝心の顧客体験を変えられる施策が選べないというジレンマを抱えていたのである。実際に2018年11月のニュースリリース以降、多くの問い合わせがあり、市場のニーズ・提供価値を実感できたという。

DNP情報イノベーション事業部 C&Iセンター デジタルマーケティング本部 CDP企画開発部 第2グループ エキスパートの廣井豪は、「メディアの特性でいえば、現在は、電子メールよりもDMの開封率のほうが圧倒的に高い。例えば、旅行会社の重要なお客様は、シニア層です。そうしたお客様にはデジタルメディアではリーチできません」と説明する。

幅広い顧客層にアプローチするためには「デジタル」「アナログ」を問わず、最適なコミュニケーションツールを使い分けることだ。しかし、“紙”というアナログツールを含めることは、技術的な困難が伴う。天本は「マーケティングはデータと技術(ツール)を使いこなさないと勝てない時代になってきました。“紙”をコミュニケーションツールの1つに据えたDPOはDNPだからこそ実現できたと自負しています。これはDNPのデジタルトランスフォーメーション戦略の1つでもあるのです」と語る。

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AppExchangeのクライテリアもあっけなくクリア

DPOは、セールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)が提供するMAツール「Salesforce Marketing Cloud」上で稼働する。顧客の状況に応じて、DMのクリエイティブやクーポンの割引率などを任意に設定できる。DPOを利用するには、セールスフォースのビジネスアプリケーションマーケットプレイスである「AppExchange」からダウンロードし、自社が保有するセールスフォースの顧客管理(CRM)データとDPOを連携させる仕組みだ。

CRMにセールスフォースを選択した理由について天本は、「セールスフォースはCRM市場で圧倒的なシェアがあり、多くの顧客企業がSalesforce Marketing Cloudを導入しています。セールスフォースの顧客は真剣にマーケティングを考えている企業が多く、ビジネス的にも強力なチャネルになるからです。しかし、決定打になった理由は、セールスフォースが掲げる『カスタマーサクセス』という理念に共感したからです」と説明する。

DPOを「AppExchange」で提供するにあたり、DNPがテクニカルパートナーとして選んだのが、クラウド・インテグレーターとして多くの実績を擁し、「モバイル」「クラウド」などの「サード・プラットフォーム」と呼ばれるテクノロジーに精通している株式会社テラスカイ(以下テラスカイ)だ。

「AppExchange」上にアプリを登録するためには、セールスフォースが定めるクライテリア(基準や制約)をクリアしなければならない。ビジネスアプリである以上、特にセキュリティには厳格な規定が求められる。

さらにデータ連携では、クラウドCRMであるセールスフォースと、同じくクラウドで提供するDPOをシームレスに連携させることも必須となる。これを実現するには、クラウドやセールスフォースに関する深い造詣と、さまざまな新技術に精通していなければならない。

天本は「テラスカイはクラウドでのデータ連携に多くの実績があります。実は、AppExchangeのクライテリアのクリアには時間がかかると覚悟していましたが、拍子抜けするほどあっけなくクリアしました。開発スケジュールも、当初の想定よりも1ヵ月半も前倒しでリリースできました。もちろん、データ連携もスムーズです。われわれだけであれば、そうはいかなかったでしょう(笑)」と語る。

DPOの開発でこだわったのは、生活者の行動トリガーでDMを発送できる体制の構築だ。廣井氏は「DPOサービスの最終形は、お客様のオンライン上の行動や実店舗での行動がトリガーになって、DMが自動発送する仕組みです」と語る。

実は、DPOを構築するにあたり、DNPはテラスカイを含めた3社を比較した。決定的なポイントになったのは、「テラスカイの提案力でした」と天本は振り返る。他のベンダーがDPOの具体的な仕様を提案してきたのに対し、テラスカイはDNPのクラウドのビジネス戦略を包含した鳥瞰的な視点で提案をしてきたという。

システムインテグレータに委託し、何千万円も投資をして大規模なシステム開発を行ったとしても、技術進化や顧客ニーズの変化に対応できなくなるケースは多い。現在はクラウド上でブロックを積み上げるようにサービスを構築し、取捨選択をしていくのがトレンドになっている。

天本は、「テラスカイの提案は、DPOだけでなくDNP全体のビジネスに活用できるものでした。テラスカイと一緒に仕事をしたことでDNP自身もクラウドのトレンドやその活用方法を学び、さらに進化することができます。この部分は非常に大きかったです」と語る。そしてその効果は、あらゆる部分で発揮されているという。

ビジネスモデルの変革に備え、生産設備を刷新

DNPには2018年11月のリリース発表以来、非常に多くの問合せと引き合いがあるという。幅広い年齢層のユーザーを持つ顧客企業、特に、旅行業や金融業など、商品の単価が高く、比較検討に時間を要するような商材を持つ企業からの注目は高く、複数のプロジェクトが進行中だ。

DPOを提供するにあたり、DNPでは工場の生産設備も大幅に刷新した。天本は「パーソナライズコミュニケーションによって顧客の体験価値を高める取組は、多くの企業から注目されています。そうなると施策は小ロット多品種化が避けられません。 DPOは、DNPの量産ビジネスモデル自体を変革するチャレンジであり、DNPにとってのデジタルトランスフォーメーションを具現化したものです」と説明する。

パーソナライズされたDM発送をタイムリーに実施するには、小ロットの印刷に対応する必要がある。つまり、「今日は10通、明日は1万通」というオーダーにリアルタイムで対応できる工場設備を整えなくてはならないのだ。これまでの「大量受注で利益を出す」ビジネスとは真逆のアプローチである。

実は、DNPは「紙」にこだわっていない。今回デジタルマーケティングの1つに紙を組み込んだのは、「紙を売りたいから」ではなく、「紙がデジタルマーケティングツールとして価値を提供できるから」だ。

今、紙の印刷市場は縮小していると言われている。しかし、データと情報、そしてデジタルマーケティングと組み合わせることで、提供価値の向上は十分可能だという。例えば、コストをかけてでも訴求力を最大にしたい場合には、複数のコミュニケーションメディアでアプローチする。DNPにかかれば動画でさえもお客の状況に合わせてパーソナライズ・配信が可能だ。逆に、リーチのコストを安くしたいのであれば、配信コストの安いメディアで同じメッセージを出すというような使い分けができるようになる。「施策のポートフォリオ」という発想の基、目的やコストに応じて選択できるコミュニケーションメディアを提供すること。その中にあってパーソナライズドDMは一撃必中の強力なツールなのだ。

「コミュニケーションメディアが多岐に渡ることで、お客様はコストに応じてメディアを選択できます。これこそが、カスタマーサクセスを支援するサービスだと確信しています」(天本氏)

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写真左)大日本印刷 情報イノベーション事業部 C&Iセンター デジタルマーケティング本部 本部長 天本 直也
写真右)大日本印刷 情報イノベーション事業部 C&Iセンター デジタルマーケティング本部 CDP企画開発部 第2グループ エキスパート 廣井 豪

※2020年1月時点の情報です。

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