アパレル業界調査<後編>
消費者は、ECサイトの「即日発送」「在庫数表示」も重視していた。「サイトのユーザビリティ」「商品情報」も含むCX全体の設計がポイントに

アパレル業界のマーケティング戦略でSNS施策やDX(デジタルトランスフォーメーション)に注力する傾向がある今、実際のところ、消費者にそれらの施策は届いているのでしょうか。そこで、アパレル業界に従事するマーケティング担当者95名と、ECサイトや店舗で購入している20~50代の消費者各100名、計400名を対象とし、「企業の注力施策」と「消費者の商品認知から購入までの一連の体験」について調査しました。

双方のギャップから浮き彫りになった「今後のアパレル業界におけるマーケティングの課題」を前後編にわたってレポートします。今回は、ECサイトのCX(カスタマーエクスペリエンス)設計についての分析を紹介していきます。

前編はこちら:アパレル業界調査<前編> 消費者の7割は、EC購入の前に実店舗を訪問していた!?
進む消費者のオムニチャネル化、マーケティング担当者は統合的な購買体験の実現が迫られる

マーケティング担当者が「商品情報」「ユーザビリティ」に注力する一方、消費者は「即日発送」「在庫数表示」なども重視し、総合的にCXを評価している

「マーケティング担当者の注力施策」と「消費者の購入促進要因」(上位抜粋)
担当者設問:ECサイトに訪れたお客様(新規・リピーター問わず)に対して、商品購入の決め手として効果的な施策は何ですか?(MA)
消費者設問:あなたがアパレル商品をインターネットで購入する際に、決め手になるのはどんなことですか?(MA)

企業のマーケティング担当者がECサイトの購買促進で注力している施策は、「わかりやすい商品説明」がトップで全体の7割を占めていました。また、「サイトのユーザビリティ」「コーディネイト提案」にも5割前後が注力していることがわかりました。

一方、ECサイトを利用する消費者の購入促進要因では、「サイトのユーザビリティ」がトップで、全体の7割超の回答となっています。また、「わかりやすい商品説明」については、全体の6割近くが重視していますが、「即日発送」「在庫数表示」についても同率の回答となっており、マーケティング担当者の意識とはズレがあることがわかりました。

多くのマーケティング担当者は「わかりやすい商品説明」をEC購買促進の注力施策としていますが、消費者のリアルな購買行動においては、「即日発送」「在庫数表示」も同等に重視しています。「サイトのユーザビリティ」が最も重視されている点も含めると、消費者は、「購買プロセス」全体を見渡しているといえるでしょう。

20代消費者は、マーケティング担当者が想定している以上に「ネットの評判」「商品購入者のレビュー」を重視。一方、40代消費者はどちらも重視しない傾向にある

消費者の購買促進要因を世代別に見ると、マーケティング担当者とのギャップが最も大きかったのは、20代消費者の「ネットの評判を意識する」でした。消費者の回答が5割超となっている一方、マーケティング担当者で注力しているのは1割超のみとなっています。さらに、「ネットの評判を意識する」と同率で、「同一商品購入者のレビュー」も重視しており、こちらもマーケティング担当者の意識とギャップがあるようです。一方、40代消費者は、「同一商品購入者のレビュー表示」「ネットの評判を意識すること」の回答は2割程度にとどまっていました。

リピート要因にもギャップ。20代消費者は「会員特典の案内(ポイント、クーポン等)」より、「ユーザビリティ」「即日発送」「在庫数表示」を含めたECスキーム全体の体験

「マーケティング担当者のリピート施策」と「消費者のリピート要因」(上位抜粋)
担当者設問:ECサイトに訪れたお客様(新規・リピーター問わず)に対して、商品購入の決め手として効果的な施策は何ですか?(MA)
消費者設問:あなたがアパレル商品をインターネットで購入して、次回も利用したいと思う理由になるものは何ですか?(MA)

消費者全体のECサイトのリピート要因では、「サイトのユーザビリティ」がトップとなっており、6割超を占めていました。次いで、「即日発送」「コーディネイト提案」が5割前後となっています。一方、マーケティング担当者のリピート促進注力施策では、「わかりやすい商品説明」がトップで6割超、次いで、「会員特典(ポイント・クーポン等)の案内」「サイトのユーザビリティ」が、それぞれ5割超となっています。

マーケティング担当者がリピート促進で注力する施策と、消費者のリピート要因を比較した結果、「会員特典の案内」は、マーケティング担当者が注力する施策の第2位であるにもかかわらず、消費者にとっては6位となっています。

また、マーケティング担当者は「わかりやすい商品説明」をリピート促進施策のトップに挙げていますが、消費者の回答では4位にとどまっており、むしろ「コーディネイト提案」の回答率が若干高い傾向にありました。リピーターは、そのブランドにおけるサイズ感や品質などをすでに理解している可能性が高く、「商品説明」より、「コーディネイト提案」を求める傾向にあるといえるでしょう。

さらに、消費者がリピート要因の第2位に挙げた「即日発送」については、マーケティング担当者の回答では第6位(「コーディネイト提案」と同率)となっています。リピーターにおいても、「すぐに手に入るかどうか」はECサイトにおける購買決定を大きく左右するといえそうです。

40代消費者のリピート要因では、「コーディネイト提案」が第2位である一方、「同一商品購入者のレビュー」は求めていない傾向に

消費者のリピート要因を世代別に見ると、20代消費者では「サイトのユーザビリティ」がトップで6割超、次いで「即日発送」が6割弱、「わかりやすい商品説明」が5割超となっています。

また、双方のギャップについては、マーケティング担当者が「会員特典(ポイント・クーポン等)の案内」「セール、キャンペーンの案内」注力していることに対し、20代消費者は求めていない傾向が高いといえそうです。逆に、マーケティング担当者の注力施策で第8位となっている「同一商品購入者のレビュー表示」については、20代消費者の5割超が求めていることもわかりました。

また、40代消費者においても、「サイトのユーザビリティ」が6割弱を占め、リピート要因のトップとなっています。第2位の「コーディネイト提案」も6割弱、さらに「会員特典の案内」「即日発送」がそれぞれ5割超で同率3位となっています。また、40代消費者のリピーターは、20代消費者とは異なり、「コーディネイト提案」を求める一方、「同一商品購入者のレビュー表示」は求めていない傾向にありました。

ここで、消費者のEC利用のリピートにおけるポジティブ・ネガティブ要因として、フリーコメントの一例を紹介します。

フリーコメント紹介

ポジティブ要因

・商品検索が使いやすくて分かりやすいとき。 ブランド、サイズ、色、形、価格帯など複数条件で検索できると探しやすい(20代女性)
・到着した商品の中に、手書きのメッセージが入っていた。手書きという心遣いがすごく嬉しかった。(40代女性)
・注文後のレスポンスが速く、配送も速かったら好感を持ち、また買おうと思う。(40代男性)

ネガティブ要因

・生地の原材料、サイズ、さまざまな角度の写真などの詳細情報がないと、実物のイメージが湧かず、購入しにくい。(20代女性)
・サイトの画像や説明ではよさそうな商品だったのに、実物はまったく違った。(40代女性)
・「どこに何があるのかわかりにくい」など、サイトが使いづらいのは困る。スマートフォンに対応していない場合も利用しない。(20代男性)
・商品の画像や説明が間違っていることは問題。「やらせ」のようなレビューがある場合も信用できない。(40代男性)

フリーコメント全般においては、大前提として、画像を含めた詳細な商品説明、在庫の有無などの判りやすさ、サイトのユーザビリティが重視されていました。このようなポイントが重視されていないと、商品検討や購買のための直接的なアクションを通じて発生したさまざまなストレスが不満に直結し、購入離脱につながってしまうといえるでしょう。

また、リピートに大きく影響する要因は、「在庫管理」「ピッキング」「配送」等におけるトラブルが多く、届いた商品が「商品説明のイメージとは異なる」ことにも不満を感じている消費者も少なくはありませんでした。これらのトラブルは消費者にネガティブな印象として記憶されますので、体験した消費者がECサイト利用から離脱する可能性はもちろん、口コミ投稿などによって、「ECサイトに対する信用」そのものに大きく影響する可能性もあるでしょう。

これまでの調査結果をふまえた結果、以下のようなことが見えてきました。

消費者は購買体験の「プロセス全体」をシビアに見る傾向が。マーケティング担当者は「商品訴求」を施策のコアとするのではなく、CX全体の設計を俯瞰で捉えることがポイントに

今回の調査の結果、ECサイトにおける商品購買促進や、リピート促進の施策では、マーケティング担当者は「商品説明の充実」「クーポンの配布」「セールの実施」に注力する傾向が高いことがわかりました。しかし、消費者の購入決定やリピートの要因では、「サイトのユーザビリティ」「即日発送」「在庫数表示」などが重視される傾向にあることが見えてきました。

現在、消費者たちは、その購買体験における全プロセスにおいて、ポジティブな体験ができるかどうかを購入・リピートの基準としているといえるでしょう。マーケティング担当者は、商品そのものの魅力や金銭的なメリットのみを施策のコアとしがちですが、消費者は「購買経験を通じたCXそのもの」を俯瞰的に評価していることを忘れないことが大事です。

消費者調査概要

調査タイトル:買い物についてのアンケート
調査方法:インターネットリサーチ
調査期間:2020年1月20日〜1月23日
調査対象:アパレル商品(洋服、帽子、靴など)5000~20000円未満の商品を、店舗で2~3カ月に1回以上購入、かつインターネットで2~3カ月に1回以上購入している20~59歳男女
有効回答:各性別年代50サンプルずつ、計400サンプル

担当者調査概要

調査タイトル:買い物についてのアンケート
調査方法:インターネットリサーチ
調査期間:2020年1月20日〜1月31日
調査対象:アパレル関連企業でデジタルマーケティングを担当している20~59歳男女
有効回答:95サンプル

※2020年4月時点の情報です。

未来のあたりまえをつくる。®