2020/4/20
ネット炎上に強い会社をつくるには<前編>
ネット炎上の最新事例と傾向~B2B企業にも起こりうる脅威とは?~
企業の公式SNSの利用率は、総務省の調査では全体の約4割とされています。SNSを活用したプロモーションは、既存の顧客だけでなく一般生活者を巻き込み一気に注目を集める効果が期待できます。しかしその一方で、行き過ぎたプロモーションや誤解を生む表現等は、ネガティブな反応を生み、ネット炎上の火種となりかねません。今回のWebコラムでは、前編と後編を通して、企業とSNSとの関わり方について考えてみたいと思います。
前編では、2019年のネット炎上事件の振り返りと、国際的なイベントの開催などで、日本が世界から注目されている時期に、企業が注意すべきことをご紹介します。
※本コンテンツは、ネット炎上などのデジタルリスクの対策専門会社である、株式会社エルテス(以下 エルテス社)に監修いただきました。
目次:
ソーシャルメディアを活用したマーケティングにおけるリスク
現在多くの企業が公式SNSを含むソーシャルメディアを活用しており、2018年の総務省調査では全体の約4割と、前年よりも7.8ポイント上昇しました(※1)。
活用目的としては、「商品や催物の紹介・宣伝」、「定期的な情報の提供」、「会社案内・人材募集」などが上位にランキングされています。
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最近の企業の公式SNS等では一般の生活者に分かりやすい言葉で自社の製品・サービスを伝えることに努め、一般の生活者が普段目にする機会のない、職場や業務風景、社員によるブログなどを発信することで反響を呼び、親近感を与えることに成功して、認知向上やイメージアップにつなげるケースも多くみられます。
また、人気アニメとタイアップした大手食品会社のCMはアニメキャラクターの別の一面が引き出された面白さが話題となり、そのCM動画を流した公式ツイートは、20万回以上リツイートされました。
「攻めたPR」は諸刃の剣?!
今や企業にとって、ネット上で話題になることが、業績やブランドイメージの向上のための重要な要素のひとつとなってきました。そのため、企業はそれぞれ、人々の目に留まるような、趣向を凝らしたプロモーションを実施するようになってきています。
しかし、話題を集めようと内容を”攻めすぎた”結果、ネット上で批判的な意見が多くなってしまうことも十分に起こり得ることです。
一度ネット炎上に繋がってしまった場合、炎上に至った経緯などは忘れ去られてしまい、単に「炎上した企業」という不名誉な事実だけが残り続けることになります。そしてその事実は培ってきた企業のブランドイメージを大きく損なうだけでなく、ユーザー離れなどの原因ともなり得ます。
下のグラフはネット炎上発生の推移を表しています。上で話したように、企業でもソーシャルメディアや公式SNSの活用が増えたことにより、ネット炎上は個人だけの話ではなく、企業も対象となりえます。
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2019年のネット炎上の振り返り
ネット炎上というと、皆様の多くはいわゆる「バイトテロ」を想像するのではないでしょうか。確かに、「バイトテロ」は2013年頃に一般でも認知されるようになってから、たびたび繰り返されています。それでは、2019年はどのような傾向だったのでしょうか?
エルテス社の分析によると、2019年で特徴的だったのは「働き方改革や自然災害時における企業の対応・考え方」に関するネット上でのトラブルです。
印象的な事例として2つの炎上を上げたいと思います。
1. 従業員の家族から、企業の労働環境に関する内部告発
ある企業に勤める従業員の人事異動について、その家族がSNSで告発した事例がありました。投稿は瞬く間に拡散され、これに気が付いた会社は、すぐさま公式な見解を出しました。しかし、その見解内容やその後の対応などで様々な意見や噂が飛び交い、ネット上では論調が目まぐるしく変化する事態となりました。
この事例では、企業の対応の仕方一つで、会社が「働き方改革」として進めてきた「柔軟で働きやすい環境」というブランドイメージに大きなダメージを与える可能性を示しています。
また、本事例が話題となったタイミングで、別の企業に勤務するユーザーから「同様の被害を受けた」という投稿が確認されており、問題が連鎖反応的に大きくなったことも注目したいポイントです。本来、当事者でなかった企業でも、いつの間にかネット上で槍玉にあげられていたかと思うと、非常に恐ろしい事例だったかと思います。
2. 自然災害時などの企業の対応が他社と比較されてしまう
10月には“地球史上最大規模”とも言われた台風19号に関わる炎上が多く、上陸の際には、「#台風なのに出社させた会社」というハッシュタグがTwitterのトレンド入りし、近くの外食店が営業をしているかを確認しに行き、SNSに実態を投稿しているようなケースも見られました。
普段であれば何気ない投稿・情報発信でも、日本全体が自粛ムードの中で発信してしまうと被害者の心情を無下にしていると批判が集まりやすくなります。災害時は投稿する内容にも企業は十分な注意が必要です。
2020年も継続が予想される炎上トレンド
改めて、炎上の事例を振り返ると、「労働環境」や「企業と従業員の関わり」に関する世の中の認識の変化に企業が対応を迫られていた一年であったようです。
2019年4月から順次施行された「働き方改革関連法」は労働環境を今まで以上に厳格化し従業員を守れるようにしたものの、実際の企業体制とのギャップから、様々なしわ寄せが生まれました。また、ここ最近は「ワークライフバランス」の重要性について叫ばれるようになり、企業側も様々な制度を用意しています。しかし、まだまだ実際の現場では制度はあっても取得できない従業員も多く、その差に悩む従業員の嘆きがSNS上で発信されているのではないでしょうか。
企業が対応すべき社会の変化は、今年も続きそうです。
続いて、国際的な会議やイベント等が開催される等、日本が世界から注目されている時期に、企業が気をつけなくてはならないことについてお話します。
日本が注目されている時期に企業が対策しなくてはならない理由とは
日本が注目されている時期には、SNSでの情報発信は通常と比較にならないスピードで拡散され、人の目につきやすくなると予想されます。
こうした時期に、他社との差別化を図ろうと「攻めた」プロモーションが企画された場合、そのプロモーションが成功となればよいのですが、例えばそれが日本人にとっては違和感のないものでも、海外の人からすると異なる感想を持つ場合、その違和感が発信され、瞬く間に拡散していきます。結果的に炎上リスクを増やしてしまうかもしれません。
企業は通常時よりも「リスクを有するPRをしやすい」ということと「普段は対象とならない顧客にも気を配る」ことを十分に意識しないといけません。
その他、企業が気を付けなくてはならないことをいくつか挙げてみたいと思います。
①企業の対応不備:オペレーションの対応不足で顧客に不満を与える結果に
近年、インバウンドの増加により、多くの外国人が、日本国内の小売店や飲食店を訪れるようになりました。こうしたケースでは、オペレーションの遅さや対応の不備がSNS上で拡散されると企業への批判や信頼の低下に繋がる可能性があります。提供する商品だけでなく、オペレーションする人員(言語対応できるとなお良い)も十分に確保する必要があります。また、各店舗の様子を本社が細やかに把握し、課題を迅速にエスカレーションできる体制を今のうちから構築しておくことも重要です。
②CMなど企業のプロモーション活動への批判:期間中継続的に流れる情報にウンザリする視聴者も
イベントに合わせたTVCM等も、イベント期間中は多く放映されることでしょう。CM1本毎の批判は無くとも、類似のCMが続くことで視聴者のネガティブな反応に繋がる可能性があることも考慮しておく必要があります。また、プロモーションに起用した選手の想定外の不祥事発覚により、プロモーションに大きな批判が発生することもあります。企業は自社広告内容だけでなく、外部環境や他社の状況も常に把握しておく必要があります。
ネット炎上はBtoC企業だけの問題ではない
これまでネット炎上と言えば、接客業や飲食店のようなBtoC企業のイメージが強かったかもしれません。しかし、これまで紹介したような労働環境にまつわるネット炎上や、テレワークにまつわるネット炎上は業種に関わらず発生するリスクがあります。
また、2018年発表の総務省発表のソーシャルメディアサービスの活用状況によると、今までソーシャルメディアの普及率の低かったBtoB企業(建築業、製造業、運輸・郵便業)でも活用が増えていることがわかります。ネット炎上はどの企業でも起こりうるという意識を持ち、企業全体の課題として対策に取り組む必要があるのです。
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企業はインシデントが発生することを見越した体制構築と対策マニュアルの整備を
国際的な会議やイベントなどで日本が海外から注目を浴びる時期や、自然災害時などは、通常時と異なる状況が非常に多いため、事前に予防していたとしても、何がきっかけで炎上してしまうか予測がつきません。そのため、問題となる投稿がされたとしても迅速に対処するための活動が重要になってきます。そのためには、炎上時のエスカレーションフローをあらかじめ決めておくなどの体制構築と体制マニュアルを整備する必要があります。
ここで課題となる、ネット炎上に強い「体制構築」と「対策方法の整備」はどのように作っていけばよいのでしょうか?
後編では、ネット炎上に強い会社を作るために必要なことを解説していきたいと思います。
参考:
※1,3,5
出典:「平成30年通信利用動向調査の結果」(総務省)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02tsushin02_04000062.html
※2
「通信利用動向調査」(総務省)(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05a.html
)内における各年度ごとの「ソーシャルメディアサービスの活用状況」をもとに大日本印刷株式会社作成
※4
株式会社エルテス公開データをもとに大日本印刷株式会社作成。エルテス社における炎上の定義は「エルテス社が指定するまとめサイトに掲載され、かつ、Twitterのリツイートが50回以上されているもの」である。
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