2020/5/26
ネット炎上に強い会社をつくるには<後編>
ネット炎上に強い会社をつくるには~組織が知っておくべき、ネット炎上対策とは?~
ネット炎上と企業の関わり方についての後編です。前編では、企業側の意図に反してネット炎上となってしまった事例と、国際的に注目を集めるイベント開催時などに注意すべきポイントについて解説しました。後編では、ネット炎上に強い会社を作るために必要な組織体制や従業員リテラシー強化の方法について紹介します。
※本コンテンツは、ネット炎上などのデジタルリスクの対策専門会社である、株式会社エルテス(以下 エルテス社)に監修いただきました。
目次:
ネット炎上対策: 企業の約4割近くが「特に何もしていない」
企業が被るネット炎上のリスクには、「企業や商品ブランド力の低下」「売上の低下」「取引の停止、新規取引の減少」「採用希望者の減少」などが挙げられます。どれが起きても、企業にとってマイナスでしかありません。しかし、ネット炎上対策を実施出来ている企業はそれほど多くありません。日経BPコンサルティングが2014年に実施した調査によると、約4割の企業が公式SNSに関するリスク対策を実施していないことが分かりました(※1)。最も実施されている対策項目は「運用ガイドラインが存在」していることでしたが、それでも3割程度の企業しか実施していません。担当者への運用における研修やトラブルが起きた際の対応マニュアルが整備されている企業はさらに少ないようです。
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企業公式アカウントの対策状況
ネット炎上に強い会社に必要な要素
これからネット炎上対策を実施したい場合、どのようなことを実施すればよいのでしょうか。
大まかに企業が講じる対策として必要な要素は以下の4つです。
1.ソーシャルメディアに対するポリシー・ガイドラインが定まっており、社員がそれを理解していること。
2.炎上のリスクを正しく評価しておくこと。
3.エスカレーションフロー(対応マニュアル)を整備しておくこと。
4.炎上となり得る投稿をいち早く発見できる体制を整備しておくこと。
それぞれ順番に見ていきましょう。
1.ポリシー・ガイドラインの策定
まず初めに、自社のソーシャルメディアの取り扱いに関するポリシーを持つことが必要です。これは、一般的にソーシャルメディアポリシーと呼ばれるもので、会社がソーシャルメディアを「何のために」「どのように」利用し、生活者に対して「何を」届けたいのかを表明することが目的です。公式SNSの基本方針やユーザーへの対応方針などを予め公表しておくことでトラブルを未然に防ぎます。
また、従業員に向けては、会社が掲げるソーシャルメディアガイドラインが必要です。会社の一員である自覚を持った情報発信を心掛けることや、公式SNSであればユーザーとのコミュニケーションの取り方などを明記するなどします。
ソーシャルメディアポリシーは会社のHPに掲載するなどして、生活者に対して広く認知されるよう心掛けるとともに、社内の従業員に対してはソーシャルメディアガイドラインの内容を正しく浸透させるための研修が必要です。
また、公式SNSの担当者が投稿内容やユーザーからの具体的な対応に困らぬよう、運用規定やマニュアルを運用開始前に作成しておくと良いでしょう。
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ソーシャルメディアポリシーは一般公開されています。他社のポリシーを参考に作成するのも良いでしょう。
上記は弊社が対外的に出しているソーシャルメディアポリシーです。(※2)
2.炎上のリスクを正しく把握する
会社として情報発信するメディアを決める際には、メディアごとにリスク分析をすることが重要です。企業が良く利用するソーシャルメディアとしてはYouTubeやブログ、SNSとしてはTwitter、Facebook、Instagramなどがありますが、それぞれのネット炎上リスクと影響度は同値ではありません。
匿名性であり、オープンな環境であり、拡散しやすいリツイート機能を持つTwitterは拡散能力が非常に高く、反対に実名性であり比較的クローズで機能面でも拡散させにくい環境であるFacebookは拡散性が低めです(※)。また、文字よりも画像や動画の方が一見した時のインパクトが強く、情報量も多いため、ブログよりもYouTubeなどのメディアの方が拡散されやすい傾向にあります。これらの判断を基に、会社が選択すべきメディアや対応人員に重み付けをしていきます。
※ただし、Facebookの投稿内容がTwitterに転記されて拡散される事例も過去にあるため注意が必要です。
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各SNSの特徴(※3)
その他、以下のことを把握しておくことも重要です。知っておくことで回避できるリスクもありますので、ぜひ参考にしてみてください。
●コメント機能の違い
Facebookには「コメントの非表示」機能があります。コメントの受付可否を選択できる点はリスク回避策としても効果的です。一方、Twitterにはコメントの非表示がなく、リプライ機能も無制限に可能です。コメント欄に書き込まれた誹謗中傷から炎上に発展した事例もありますので注意が必要です。
●投稿内容の影響度
以下のような話題に触れる際は気を付けましょう。
・ジェンダー論:立場によっては差別的な表現になる可能性があり、一部過激なユーザーもいるため極力避けたほうが良いでしょう。
・政治:意見が二極化する可能性が高く、また、反対意見の声の方が大きくなりやすく注目を浴びるため、極力避けたほうが良いでしょう。
・他社:当然ですが、他社の批判的な投稿をしてはいけません。他社との比較なども、過去に炎上した事例がありますので注意が必要です。
●投稿者の影響度
公式SNS自体の影響度は勿論のこと、公式SNSの投稿を受けてリアクションしている投稿者の中にいわゆる”インフルエンサー(※)”がいる場合は影響力・拡散力が高まるので注意が必要です。
※インフルエンサーとは、世間に与える影響力が大きい行動を行う人物のことを指します。
勿論、投稿に関する炎上対策案だけでなく、アカウントの利用に関するルール(登録・削除)やパスワード発行の手順や管理ルールなど、運用に関わる様々なリスクを評価していきましょう。
3.エスカレーションフローの構築
公式SNSアカウントを運用する上で、監視業務を設定しましょう。投稿担当者(いわゆる中の人)が担当するか、それとも専属の監視役を立てるか、監視時間をどうするかなど決めるべきことは多々ありますが、投稿内容に問題があった場合に迅速に対応するためには常に動向を把握しておく事が不可欠です。
また、監視中に炎上リスクの可能性がある投稿を発見した際の「対応方針」と「条件」を決めておきましょう。
リスクのある投稿を見つけた際は速やかにエスカレーションし、投稿がどの条件に当てはまるかを協議し、対応方針に基づき行動します。条件の一例としては、例えば以下などです。
【条件の例】
●批判、否定的なコメントが一定時間にN件以上投稿された場合
●緊急性の求められる内容(プライバシーの侵害、名誉棄損などの誹謗中傷、著作権侵害、個人情報の漏えい、利用者からの被害報告など)が投稿された場合
対応方針として基本的な行動は、「静観」「コメント返信」「元投稿の削除」「新たな投稿」などでしょう。
対応方針と想定ケースをまとめると以下の様になります。
対応方針 | 想定ケース |
---|---|
静観 | 批判、否定的なコメントが散見される 関係者や従業員と思われる投稿がされている |
コメント返信 | 内容に関する質問 ※SNS上で返信する以外にも、本社問い合わせ窓口に誘導する対応方法もある |
元投稿の削除 | 特定/不特定の社員に対する批判的なコメントが散見される 差別用語や誹謗中傷などのコメントがされている 個人情報が投稿に含まれている |
新たな投稿 (説明・謝罪) |
明らかな事実誤認や説明不足による誤認拡大の可能性がある場合 商材・サービス利用者からの被害報告がされている |
さらに、どうするかだけでなく、「誰がやるか」まで決めておくことも重要です。条件に該当した場合や想定ケースに該当した投稿が見られた場合も、担当者の独断で判断してはいけません。例えば、対応方針の一つにある「元投稿の削除」は、逆に「公式が非を認めた」や「公式が証拠を隠した」などのように炎上を拡大させる可能性もあります。正しい判断と迅速な対応をするためにも、ネット炎上の対策は組織として対策すべきです。対策組織を結成する際には、部門横断型で組むことをお勧めします。
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繰り返しとなりますが、これらの運用で重要なことは、決して担当者だけで判断しないようにすることです。ネット炎上はマニュアル通りの対応だけで解決しないこともあります。そのため常にチームで行動することが重要です。とは言え、毎回異なる対応をすることもリスクとなりえます。「あの時は返信してくれたのに、なぜ今回は返信をしないのか。何かやましいことがあるのか」などように逆効果となることがありますので、基本的な対応方針は運用マニュアルをもとに一貫性を持たせることが重要です。
より炎上に強い会社となるために: 火種を早期発見できる体制を構築
上記3項目を保有することで、ネット炎上の発生リスクを低減し、発生時に適切な対応を取れるようになります。しかし、どのような対応を取るにしても情報を早く検知し初動対応を進めることが重要です。火種を早期に発見することで、拡散を防止でき、対策方針を判断する時間を生むことができます。
監視方法としては、大きく3つあります。
A) 担当者が定期的にSNS内検索やリアルタイム検索などで定期的にチェックする
B) 監視ツールを導入し、アラート情報を担当者が確認する
C) 監視業務を専門会社にアウトソーシングする
最も手軽にできるのはAです。コストはかかりませんし、自社固有の情報を把握しているためチェックしやすいのがメリットです。しかし、社員が対応できない夜間や土日祝日の対応、網羅的にネットを監視できないなど、監視の時間や範囲が担当者に依存して制限されるという課題があります。Bの場合は、適切にツールを使いこなせる担当者がいれば非常に有効です。監視はツールが実施するため、Aのような時間や範囲にほとんど制限がありません。一方で監視するキーワードやアラートを出す条件を適切に設定できないと”誤検知”や”すり抜け”などの原因となり得るため、いかに精度を高めるかが重要となります。Cの場合はAとBに比べて費用はかかりますが、担当者の運用負担を低減できることと、専門知識を活かした監視精度の高さと担当者不在時間でも対応可能な即時性を持っています。
3パターンそれぞれにメリット・デメリットがありますので、自社のリソースと経験を元にリスク分析を行い、採用手段を決めると良いでしょう。
より炎上に強い会社となるために: 取り組みは企業・組織の経営課題として考える
ここまでネット炎上に強い会社の作り方を説明してきました。ここまでの説明でお気づきの方もいるかもしれませんが、ネット炎上対策に必要な考え方と情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の体制構築に必要な考え方は非常に似ています。セキュリティポリシーの策定から始まり、リスク分析、リスク対策の策定、インシデントの定常監視など、会社がセキュリティ対策を実施するようにネット炎上についても同様に考えることが必要です。
そのように考えると、現在の企業においてセキュリティ対策が経営課題であるように、ネット炎上対策も経営課題であることが分かると思います。ポリシーの構築・運用では、組織的な統制のためにトップダウンの体制が求められます。
経営のトップがソーシャルメディアのリスクを理解し、対策の方向性を示し、社員に対して意識を浸透させる必要があります。また、中間的な管理職は経営トップが示したポリシーに準じ、ネット炎上のリスクと事業活動とのバランスを考えたソーシャルメディアの利活用ができなくてはなりません。一般従業員及び公式SNSの担当者においても、ソーシャルメディアポリシーとガイドラインの内容を理解し、社会規範に従った投稿を心がける必要があります。
このようにネット炎上の対策とは、会社に属する人の役割と意識、行動に依存します。つまり、社員をいかに教育していくかで、ネット炎上に強い、ソーシャルメディアを有効に活用できる会社に変わってくるのです。
近年では、新入社員配属時や管理職に向けてSNSに関する研修を実施する企業も増えてきました。セキュリティ教育は継続的かつ全社的に実施することが望ましいですが、全員が一度に参加することは難しい場合もあります。その場合は各自のスケジュールで実施出来る「eラーニング」を活かした研修も非常に効果的です。弊社ではSNSリスク対策教育を目的としたeラーニングコンテンツをエルテス社と共同制作しております。
DNP情報セキュリティeラーニングコンテンツ「SNS利用時に気を付けること」参考イメージ |
最後に
今回はネット炎上に強い会社を作るために必要な組織体制や、従業員リテラシー強化の方法について紹介しました。最後に繰り返しとなりますが、ネット炎上対策で最も重要なことは、この課題について会社全体で取り組む必要があるということです。SNS運用担当者だけが問題を起こさぬよう注意するのではなく、会社経営層がソーシャルメディアにおけるリスクを正しく把握すること、そして、ソーシャルメディアと会社がどう関わるのかを従業員に周知・浸透させることが重要です。
今回の内容が、皆様の企業におけるソーシャルメディアリスクへの対策を構築する、或いは見直すきっかけになれば幸いです。
エルテス社について
本コラムを監修いただいたエルテス社は、テクノロジーの発展により新たに生まれた「デジタルリスク」に対して、ビッグデータ解析によるリスクの早期発見と最適な対処法によって企業を守る取り組みをしている会社です。ネット炎上対策においては、ネット上の様々な情報を24時間365日監視。炎上の火種となる情報を早期検知した上で適切なリスク評価とコンサルティングを実施しています(Webリスクモニタリングサービス)。
また、専門性を活かしてソーシャルメディアポリシー・ガイドラインの策定や運用体制の構築なども支援しています。
大日本印刷はエルテス社の代理店となっており、上記サービスを含め、会社全体のリスクアセスメント等、トータル的なリスク低減を支援しております。
エルテス社の「Webリスクモニタリングサービス」概要
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参考
※1
出典:日経BP社「ネット炎上対策の強化書」
本書の p.73で紹介されている「企業公式アカウントの対策状況」をもとに、大日本印刷株式会社が作成したグラフ
調査対象は、ソーシャルメディアガイドラインの制定などに関与する人事・経営企画・情報システム部門所属者947人、うち337人が「自社で何かしら公式アカウントを開設している」と回答
※2
出典:大日本印刷株式会社「DNPグループソーシャルメディアポリシー」
※3
出典(利用者数の部分のみ):ソーシャルメディアラボ「2020年3月更新! 12のソーシャルメディア最新動向データまとめ」
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