2019/3/27

働き方改革と情報セキュリティ(1)「風土改革」に向けた取り組み

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企業の働き方改革担当部門や情報セキュリティ担当部門の責任者、企業改革に向けたコンサルティングファームの方々に、「働き方改革と情報セキュリティ」をテーマにお話を伺いました。

本コラムでは、大日本印刷株式会社(以下 DNP)と日本ユニシス株式会社(以下 日本ユニシス)の対談で、日本ユニシスの働き方改革の取り組みについてお伝えします。

日本ユニシス、および他4社へのインタビューは、本ページ下部よりダウンロードいただけます。

働き方改革は、「風土改革」に向けた取り組みの一つ



大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部
価値創造推進本部
働き方の変革推進第1事務局
リーダー
鈴木 茂雄 Shigeo Suzuki


日本ユニシス株式会社
組織開発部 組織イノベーション室 室長
国家資格2級キャリアデザイン
秋山 美枝 Mie Akiyama


日本ユニシス株式会社
プロセスアウトソーシング本部
セキュリティサービス部 部長
真田 大志 Hiroshi Sanada

  • 所属・肩書などは、2018年11月取材時のものです


これまでのビジネスモデルだけでは、目指すところにいけない

鈴木 DNPは、御社と業務提携を結んで以来、ビジネス以外でもさまざまな取組みでご一緒させていただいていますが、今日は、御社の働き方改革で進めていらっしゃる施策などについてお話を伺いたいと思います。まず、秋山さんが室長を務めていらっしゃる、組織開発部 組織イノベーション室の具体的なミッションは、どういったものなのでしょうか。

秋山 弊社の中期経営計画の重点戦略の1つに風土改革があります。この風土改革を推進する責任部署として設置されたのが、組織開発部です。弊社では、働き方改革と組織・人財改革を「Workstyle Foresight」と呼んでいますが、このほかに、ダイバーシティ推進「Diversity Foresight」と、業務プロセス・制度改革「Management Foresight」も当部が推進しています。多角的に、ソフト面もハード面も責任を持って推進するというのが組織開発部のミッションです。その中で組織イノベーション室は、組織改革と働き方改革を担当しています。

日本ユニシスの「風土改革」の概念: 中期経営企画(2018-2020)の重点戦略の一つ


鈴木 そもそも、風土改革をやらなければ、となったのはなぜですか。

秋山 クラウドサービスの利用が盛んになるなど、企業のIT環境が大きく変化するなか、システムインテグレータとして長くやってきたビジネスモデルだけでは、会社として成り立たなくなってしまうという危機感がありました。会社として目指すところを真剣に考えたとき、今のままの働き方、社員の意識、スキルでは、そこに到達することができない。だから、チャレンジ、変革が必要でした。風土を変えなければ会社として先細るという危機感から始まった風土改革ですが、現在は、チャレンジやイノベーションを、何かわくわくする取組みとして進めていけるようにやっています。

鈴木 次のステップに入ったということでしょうか。

秋山 そうですね。風土改革に取り組み始めて4年目になるのですが、最近になってようやく、社員の多くが、自発的、自律的に、変えていかなければならないという姿勢になってきたように感じます。

鈴木 弊社が働き方改革に取り組み始めたのは2009年ですが、社員が本格的に意識し始めたのは、事業部単位で働き方の変革推進事務局ができた2013年からです。当初は、長時間労働の抑制や、年次有給休暇取得促進への取組みにフォーカスが当たりがちでした。そして、働き方改革によって新しい価値を創出していかなければならないという、次のステップに入ってきたと思っています。


生産性向上とイノべーション創出を喚起する風土を醸成する

秋山 弊社が、意識的に働き方改革に取り組み始めたのは2015年で、中期経営計画に「Workstyle Foresight」を盛り込んだところからです。働き方改革は生産性向上とイノベーションを創出する風土の醸成を目的としています。

鈴木 モバイルワークもサテライトオフィスも、生産性向上とイノベーション創出を喚起する風土を醸成するために必要なツールの1つということですね。

真田 働き方を変えるとなると、守らなければならないところと、変えようとするところのせめぎあいがあります。単純に、働き方を改革しようということであれば、変えやすいのかもしれません。ただ、やっぱりそれだけではいけません。守らなければならないところ、すなわちセキュリティを無視するわけにはいかないのです。人の意識を変革する必要もあります。

鈴木 デジタル化、IT化が進めば進むほど、人の意識の上でのセキュリティと、仕組みとしてのセキュリティが大切だなと感じています。

秋山 ITで制御できることもありますが、それだけでは足りません。昨年度からテレワークを全社員に拡大したのですが、社員のセキュリティ意識が課題だという議論がありました。活用する人の意識の改革と定着を併行してやらなければならないということになりました。

真田 社員の意識の平均値を上げるのではなくて、社員の意識の底上げが必要です。少数であっても意識の低い人がいると、その人たちが事故を起こすかもしれないからです。何度も何度もしつこく言うことで、全体に伝えていくのは、地味ながら効果がある重要な取組みなんじゃないかなと思います。

鈴木 働き方改革として、具体的に御社でやっていらっしゃる施策について、教えていただけますか。

秋山 施策は、環境、価値観・スタイル、プロセス、システムという4つのカテゴリに分けて考えています。主なもので言いますと、環境変革という切り口では、サテライトオフィスと本社ビル内のフリーアドレスが挙げられます。フリーアドレスについては、本社の営業部門フロアとSE部門フロアを対象としています。価値観・スタイル変革という切り口では、テレワークと残業に対する考え方を変える施策などが挙げられます。残業は、削減というよりも、メリハリをつけて働きましょうという意識改革を行っています。


外出先から帰社しなくても安全な環境で仕事ができる

鈴木 御社の新宿のサテライトオフィスを昨年見せていただいたのですが、駅に近くて、使いやすそうだなと思っていました。

秋山 サテライトオフィスは新宿、大手町、丸の内の3ヶ所に開設し、2016年よりグループの全社員が利用できるようにしています。開設当初は、なかなか利用されない状況が続きましたが、今では、サテライトオフィスを使いたいのに席がないとアンケートに書かれるくらいになりました。

鈴木 そこまで活用が進んだのはなぜですか。

秋山 フリーアドレスによって、自席で仕事をすることが当たり前ではなくなりました。このことで、会社以外の場所で仕事をしてもいいんだという意識が芽生えたのだと思います。フリーアドレスにしてから、だんだん、サテライトオフィスの利用者が増えたことが、それを裏付けていると思います。

日本ユニシスのサテライトオフィス
きれいに使ってほしいので、できるだけシンプルな構成を心掛けました(秋山)

鈴木 自席に対する考え方を変えるというのは大変だと思うのですが、フリーアドレスは抵抗なく受け入れられましたか。

秋山 最初は反対意見が多かったので、改善しながら段階的に進めました。試行錯誤する中で、だんだんコツがわかってきました。たとえばオフィスのレイアウトですが、そこを使う予定の社員に検討段階から入ってもらって、壁の色も什器も自由に選んでもらいました。そうすると、壁一面ホワイトボードにしてほしいとか、ここにモニタを吊ってほしいとか、いろいろ出てきます。
他人が決めたものを押しつけられるのではなく、現場の方々も検討段階から入って一緒に決めたんだ、そういう意識があるのとないのとでは、全然違います。

鈴木 弊社も、自席以外で自由に業務ができるスペースや、社外の人とコラボレーションして新しい発想をつくりだすための開放的なスペースを設けています。開放的な空間だと、集中力が増したり、新たな発想が生まれたりすると好評で、利用者が増えています。
 

日本ユニシスのフリーアドレス

DNPのオフィス内に設けられた開放的なスペース

真田 ISMS準拠のコンサルティング等をしていると、書類が多くて机の下にも置いているなんて話がよく出てきます。多くの企業が同じような状況だと思います。弊社は大量の紙やメディアを処分してフリーアドレス化したわけですが、フリーアドレスになって、紙を出さない努力をするようになりました。私たちは、それぞれ、小さいロッカーが1つあるだけなのですが、紙がたまってしまうこともありません。もらっても置き場所がないので、みんな電子化してファイルサーバーに入れてしまう。今はこれが当たり前になっています。
情報漏洩の原因で一番多いのは、紙の持ち出しや紛失です。紙が減ると情報漏洩リスクも減る。フリーアドレス化が情報漏洩の防止にもつながっていると言えるかもしれません。

鈴木 なるほど。フリーアドレスによってペーパーレスが進んで、情報漏洩の防止になる。すばらしいですね。


人間関係が希薄にならないように必要なケア

鈴木 では次に、価値観・スタイル変革の施策であるテレワークについて聞かせてください。さきほど、全社員が利用できるとおっしゃっていましたね。

秋山 弊社は2008年から在宅勤務を導入しています。介護や育児に限らず、誰でも利用できる制度ではあったのですが、在宅でできる業務に限定されていました。昨年度から全社員がテレワークを利用できるようにしました。上司の承認があれば、外出後、そのまま帰宅して残務処理をするとか、台風で通勤に支障がありそうな日は、事前に申請して出社せず、自宅で仕事をするなど、業務内容に関係なく、全社員が社外でも仕事をすることができます。
2017年から参加しているテレワーク・デイズ では、2018年は、5日間で豊洲本社社員の64%がテレワークをすることができました。

鈴木 テレワークやモバイルワークが進むと、上司と部下が何日も顔を合わせないとか、本当に仕事をしているか上司が分からないとか、そういうコミュニケーションの問題はありませんか。

真田 1人で仕事をすることが増えると、組織に対する帰属意識が下がる恐れがあります。これは大きな問題です。顔を合わせる機会が少ない分、それに代わる対応が必要です。当部では、上司とメンバーの個別打ち合わせを、必ず1週間に1回行うようにしています。1対1で話すと、課題や不満を聞きやすいので、大きな問題になる前に対処することができます。チーム内のつながりも重要ですから、1カ月に1回程度は、全員で集まる機会もつくるようにしています。
本当に仕事をしているのかどうかは、リアルタイムでモニタリングできるツールもありますが、そこまでしなくていいね、となっています。

鈴木 ある意味ドライな働き方だからこそ、ウェットなマネジメントが必要だということですね。

秋山 テレワークを全社員に拡げてから1年間の利用状況をみると、テレワークをするのは、1人あたり月に平均2-3回なんです。テレワークでさぼる人がいるんじゃないか、と心配する上司には、会社にいるからといってちゃんと仕事しているとは限りませんよね、と言うようにしています。
テレワークのほかにもう1つ、価値観・スタイル変革の主な施策として、働き方にメリハリをつけるというものがあり、12カ月のうち1カ月は残業ゼロの月をつくるという指標を設けています。今年度はCSRマテリアリティに達成率100%を掲げ取り組んでいます。

鈴木 ゼロっていうのはすごいですね。

秋山 12カ月のうち、どこかの1カ月くらいは残業しない月を作れるのではないか。意識の問題で、一度でも頑張って残業時間ゼロを達成して、こんな働き方もいいなと気づき意識が高まることを期待しています。

鈴木 時間外の会議は禁止にしないといけませんね。

真田 そうです。誰も指示したわけではないのですが、残業ゼロの取組みが始まってから、終業時刻にかかる会議がなくなりました。

  • 総務省など関係省庁主導の下、2020年 東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を中心に、全国の企業や団体がテレワークを実施するイベント

 

モバイルワークにおける情報漏洩対策

鈴木 情報漏洩対策について教えていただきたいのですが、ノートPCやスマートフォンなどの置き忘れや紛失への対処はどうされてますか。

真田 データはローカルのハードディスクには保存せずに、ファイルサーバか会社が指定したインターネットストレージに保存するというのが全社ルールです。最近のインターネットストレージはモバイル回線の速度が上がったこともあって、ほとんどローカルのファイルを開くのと変わりがありません。

鈴木 自社でコントロールができないインターネットストレージにデータを置くことに、不安はありませんか。

真田 無料だったり、安価なサービスでは、目的が限定されているとはいえサービスを提供する側に二次利用されたり、データが壊れて利用できなくなっても責任はないという規約になっていたりしますね。
インターネットストレージを利用するにあたっては、当然ですが、信頼できるベンダーを選定した上で、さらに規約をしっかり確認したり、実施しているセキュリティ体制を確認したりという必要があります。

鈴木 新しい仕組みを取り入れると、従来とは違うリスクが生じますね。そうした新しいリスクについて話し合うようなプロセスはあったのでしょうか。

秋山 テレワークを全社に展開したらセキュリティ事故が起きたというわけにはいきませんので、社内のセキュリティポリシーを主管する部署に相談、確認しながら、意識してルールをつくっています。

鈴木 業務用PCを家に持ち帰って仕事をする場合、どうやってサーバーにアクセスしているのですか。

真田 VPNで社内LANへ接続します。家の中のネットワークとは切り離されて、社内LANにしかアクセスできなくなりますから、自宅がサテライトオフィスのような扱いになるわけです。このような外へ持ち出す業務用PCについては、実施しなければならないセキュリティ対策が決まっていて、持ち出し管理の手続きも行っています。また、災害発生時など急にテレワークが必要になった場合のみ自宅のパソコンでも一部の業務は行なえます。
もちろん、その際にも、ローカルにファイルが残らないセキュリティを考慮した仕組みをとっています。

鈴木 御社の働き方改革の目的は、生産性向上とイノベーションを喚起する風土の醸成でしたが、効果は実感されていますか。

秋山 すべての施策にKPIを設けてモニタリングしており、それなりに成果は実感しています。営業利益を従業員数で割った数値を生産性と定義し、2015年度から2017年度の3年間で30%アップを目標に掲げ、達成しました。働き方改革における人財変革を率いるリーダーを3年間で300人つくるという施策では、目標を超える社員がリーダー育成プログラムを卒業して、いろんなビジネスや新しいプログラムを引っ張る役割を担っています。


まとめ

鈴木 風土改革という目的のために、働き方改革や人財改革が必要で、それを推進するために必要な施策を具体的に立てて、目標を掲げて取り組み、成果を確認するという流れが確立されているんですね。
では最後に、「Workstyle Foresight」の到達点のイメージを教えてください。

秋山 私の組織には東京以外に関西と中部にもメンバーがいるのですが、2人とも、東京の仕事をしています。東京の仕事を遠隔で進めるようなケースが、今後も増えると思っています。また、RPA等の活用を含めた業務プロセス効率化の取組みを進め、長時間残業をなくしていくことを目指しています。場所に縛られない、長時間労働をしない働き方が当たり前になることで、多様な人財が活躍している。そんなイメージでしょうか。

真田 私は、テレビ会議より対面で話し合う方が好きなんです。なぜかと言うと、相手から得られる情報がテレビ会議よりも圧倒的に多いのです。これは、ITのレベルがまだ低いからなんですよね。映像の解像度が粗かったり、音声が聴き取りにくかったり。声を張って話さなければだめということになると、本来話したいこと以外のことに労力を割かなければならなくなるわけです。
ITの技術がもっと上がって、こういったことが解消されれば、対面であろうとテレビ会議であろうと関係なくなります。私の「Workstyle Foresight」に対する到達点のイメージも、秋山さんと同じで、居場所は関係ないという働き方ができる環境が整って、意識せずにセキュリティが保たれているというのが、あるべき姿、最終形ではないかと思います。
私たちの役割は、そういったことを実現できるシステムをお客さまに提供していくということになりますね。

鈴木 なるほど。ITがすごく進展したように見えていますけれども、場所やセキュリティを意識しないで働けるようにするためには、まだ技術が発展途上ということですね。今日はどうもありがとうございました。

日本ユニシスの働き方改革ソリューション
https://www.unisys.co.jp/solution/biz/connectedwork/index.html

次の記事
働き方改革と情報セキュリティ(2) クラウドサービスの安全性



本ページに掲載している対談の他、以下の企業の方々に、働き方改革の進め方や、実践されている施策、考え方、テレワーク、また、モバイルワークに不可欠なクラウド技術の最新動向などについてお話を伺い、冊子にまとめました。


TALK! about SECURITY
働き方改革と情報セキュリティ

セキュリティ対談
大日本印刷株式会社 × 日本ユニシス株式会社
日本ユニシスの働き方改革は、「風土改革」に向けた取り組みの一つ

セキュリティインタビュー
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「完全クラウド化」のための技術的体制は、すでに整っている

株式会社ジェーエムエーシステムズ
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