2019/9/27
物理セキュリティ新時代 (4) 社員食堂は変わる - 時代の変化に応える -
DNPでは、オフィス・工場セキュリティと併せて、オフィスや工場の社員食堂や売店向けキャッシュレス精算システムなどをご提案しています。その中で、ここ20年程度の間に社員食堂のイメージが大きく変化していることを実感してきました。そこで今回は、社員食堂の在り方について考えてみたいと思います。社員食堂の運営・管理を手掛ける企業、食堂運営に関連するシステムの開発に携わる企業の皆さまに、社員食堂が変わってきた理由や今後どう変わっていくのかなど、お話を伺いました。
本コラムでは、商業施設内のレストランやカフェテリア・社員食堂などの運営・管理を手掛ける、西洋フード・コンパスグループ株式会社様(以下、西洋フード・コンパスグループ)と、社員食堂の変化や今後について対談した内容をご紹介します。
西洋フード・コンパスグループは、世界45カ国でフードビジネスを展開するコンパスグループの一員で、コンパスグループの情報データベース活用やIoTによる食品ロス対策など、現在だけでなく将来を見据えた需要にも応えるべく、既にさまざまな試みを実践されています。
DNP市谷加賀町ビル(2015年竣工)/ DNP市谷加賀町第2ビル(2013年竣工)の 社員食堂・レストラン |
社員食堂は変わる - 時代の変化に応える -
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大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部 C&Iセンター
セキュリティソリューション本部
システム企画開発部 第2グループ
リーダー
田中 文昭
Fumiaki Tanaka
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西洋フード・コンパスグループ株式会社
グループ営業開発部門
デザインエンジニアリング部
マネージャー
川村 祐二 様
Yuji Kawamura
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西洋フード・コンパスグループ株式会社
CIO / 情報システム部ディレクター
石井 一志 様
Hitoshi Ishii
*所属・肩書などは、2019年6月取材時のものです。
食べるだけの場所から多様な要望に応える場所へ
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田中: 社員食堂といえば、かつては、ビルの地下などにあって薄暗く、混んでいて、メニューも少なく、値段は安いが作り置き。急いで食べてすぐに仕事へ戻るだけの場所というイメージでした。これが近年は大きく変わってきていますね。
川村: 2000年頃から、社員食堂が、明るくて眺めのよいビルの最上階に設置されたり、席を広く取ったり、メニューを充実させるなどの傾向が出てきました。その流れは現在も続いていると思います。
弊社はもともと、商業施設内のレストランのような「レストランビジネス」からスタートしましたが、この頃から、企業や病院などから委託されて食堂を運営する「コントラクトフードサービス」へ拡大していきました。新築の場合は弊社が設計から提案することもありますし、既存施設の改装のご要望も多くいただきます。
田中: 弊社も自社ビルを新築するにあたって、御社に手掛けていただいた社員食堂がいくつかあります。2006年に竣工した五反田ビルの食堂は、雑誌にとりあげられるほどインパクトがありました。そもそも明るく広い社員食堂というトレンドや要望は、どこから生まれてきたのでしょうか。
川村: 弊社からご提案する場合と、クライアント企業からご要望をいただく場合、半々くらいの割合です。労働組合はメニューや環境の改善を、経営者の方々は社員に対する福利厚生の向上を重視されます。近年は、新入社員の採用を目的にあげられることが増えました。
田中: 人手不足が深刻になる中で、社員食堂やコーヒーショップの魅力で就職先に選んでもらおうということですね。
川村: そうです。社員食堂やカフェテリアの委託というと、普通は不動産関連の部署と打ち合わせをするのですが、人事部の方も参加されていて驚いたことがあります。社員食堂を単なる食事の場所ではなく、従業員が集まる場所、快適な空間にしたいという思いが強い企業だったと思います。
田中: たしかに社員食堂というのは、食事をする場所であると同時に、従業員が集まる場所でもありますね。
川村: 外部の人とコラボレーションできるスペースを実験的に設けていらっしゃる企業もあります。
田中: 社員食堂なのに、他社の人が自由に入れるのですか。
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川村: もはや社員食堂という概念がないのです。まず人が集まれるスペースがあって、そこで食事もできる、コーヒーを飲みながら休憩もできる、新しいビジネスも生み出せる、という発想です。クライアント企業としては、食事の間しか使わないのはもったいない、スペースをもっと有効活用したいという意向もあるようで、弊社もさまざまな対応を始めています。たとえば、営業時間が終わったらパーティションで区切って厨房を隠すと、防音もできるので落ち着いて打ち合わせができますし、衛生対策にも役立ちます。
すべての社員食堂がそうではありませんが、もはや、席を詰め込んで、食事を大量に提供し、昼休みの間に利用者を何回転させるかという、旧来型の形態だけでは勝負にならないのです。
食堂の課題を解決するための試み
田中: 食事を提供する上での課題は何でしょうか。
川村: まずは食品衛生です。ノロウイルスのような感染症の対策はもちろんですが、今日的な課題としては地球環境対策。具体的には、食品ロスや食べ残しの低減があります。45カ国で活動するコンパスグループでは、世界同時開催で、『食品ロス低減』と『食べ残しをなくそう』という啓蒙イベント、「STOP FOOD WASTE DAY」を毎年行っています。弊社では、4月をこの取り組みの強化月間とし、329事業所において、捨てる量を減らすだけでなく、食材を使い切る量を増やすことをコンセプトに、「お客さまへの食べ残しゼロの呼びかけ」など、食品ロス削減につながる取り組みを行っています。
石井: 食品ロスに関してはIoTが大きな役割を果たすと思います。個人的にですが、私は「ゴミ箱IoT」というものを提唱しているんです。いまでも食べ残しの量は店舗ごとに把握していますが、何が捨てられているのかは分かっていません。とはいえ、利用者に何を捨てたのか記録してもらうのも無理でしょう。
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しかし、ゴミ箱をIoT化、具体的には残り物を捨てるとき、ゴミ箱に取り付けたカメラを通すとAIの画像認識技術によって、お客さまが残してしまったものの内訳を把握できるようにする。そうすれば、このメニューのお肉はもっと減らしていいんじゃないかとか、サラダは増やしてもよさそうだとか、そういうことにまで役立てられます。どの程度まで細かく調べるかは難しいところですが、理想としてはそういうものです。
実はコンパスグループでは、イギリスやドイツですでに同じような試みをしています。ゴミ箱にカメラを付けて、クラウドに上がったデータを各店舗に報告します。機材の費用もそれほど高くありません。ただ、たしかにデータは蓄積されるのですが、効果を数値化してPDCAを回していくのはまだ難しいので、このシステムを全員の利益につなげていくことが今後の課題です。
田中: 利用者の要望をデジタル化、可視化して魅力あるメニューを作ることで、食品ロスの軽減につなげることができそうですね。
石井: マーケティングの領域も含めたメニューづくりや、サービス内容と顧客満足度の向上を追求するためにはITが欠かせないのですが、実は、コントラクトフードサービスはそれが大変難しいのです。まず、メニューが毎日変わります。それに、クライアント企業に場所を提供していただいて運営するので、自前の機材を持ち込んだり、POSデータを弊社のネットワークに繋ぐのが難しいという事情があります。
もちろん新しい試みはあります。まもなく始める実証実験では、レジにビデオカメラを設置して利用者を撮影し、AIを使った画像認識で性別や年代を判定して、何時頃に来て、何を食べたのか、その日の天気はどうだったのか、そういうデータをリアルタイムで取ろうとしています。プライバシーの問題があるので個人は特定しません。こういったデータを蓄積すれば、メニューづくりだけでなく、時間帯によってディスカウントするなどの施策によって、食品ロス対策にも活かせると考えています。さらには、利用者の健康を分析したり、食事内容を提案したりできますので、利用者の満足度も上げられると思います。
田中: 社員の健康に役立てば、経営側にとっては健康保険組合が負担する医療費が減りますし、社員側には就職先を選ぶ動機にもなるかもしれません。
「健康」といえば、最近、健康維持やダイエットを支援するモバイルアプリもありますよね。
石井: 技術側から発想すると、たいていはモバイルアプリをつくろうという企画になります。しかし、これは実際にはかなり難しい。たとえば、食事を撮影するとカロリーや炭水化物の量を計算してくれるアプリをつくったとします。たしかに利用者は健康を気にされているのですが、モバイル端末にアプリを入れてもらって、それを毎日の食事ごとに使ってもらうのはなかなか大変です。手順がもっと簡単だとか、何かをするとクーポンがもらえるとか魅力的にするための工夫が必要になります。
市場が縮小しても時代の変化に応えるために
田中: 今後の社員食堂はどうなっていくのでしょうか。労働人口が減少し、テレワークがさらに普及し、働き方の多様化が進むといった状況を考えますと、会社で食べる人が減り、すでにある社員食堂もやめようという動きになるかもしれません。
川村: テレワークを推進するある企業での20年近いデータを見ると、利用者数や食堂やカフェの数、席数はたしかに減っています。とはいえ、社員食堂がなくなることはないでしょう。使い方が変わっていくという例をご紹介しましたが、時代の流れは、大量に食事を出すという要望から、利用者ごとに精度を上げていく方向にあるのだと思います。
田中: 食堂を運営する立場からしても、人手不足は重要な問題ですよね。
石井: 決済の無人化は多くの業種で始まっています。いまはまだ導入のコストがかかりますが、意外と早く、社員食堂などのコントラクトフードサービス業界にも入ってくるかもしれません。
川村: 売店では、すでに某メーカー等で無人化の導入実験を始めています。利用者の顔を認識して社員データと照合し、好きなものを取ってもらい、そのまま出て行く。代金は給与からの天引きやクレジットカードで払うというシステムです。食堂は売店とは違い完全無人化は難しいと思いますが、同じようなことができるといいですね。
田中: 人手不足によって、今後、外国人雇用が増えると言われています。職場で自分の国のメニューが食べられると、より働きやすいのではと思います。
石井: コンパスグループ各社のレシピをデータベースとして共有すれば、ある国のメニューを別の国の店舗で提供することが可能です。これはいま、10カ国でシステムを共通化するところから始めています。
いまや食堂の運営には、ITやIoT、認証技術などの活用は欠かせません。時代の変化に対応するためには、弊社も食事を提供するだけの「サービスプロバイダー」から、多様性に応える「ソリューションプロバイダー」へ転換する必要があります。同時に、弊社だけで業務を受託するのではなく、クライアント企業や必要な技術をもつ他社とのパートナーシップもさらに重要になってくるはずです。そういったことを踏まえて体制を整えています。
田中: 時代の変化に対応しつつ、将来への布石をすでにいくつも打たれているのですね。今日はどうもありがとうございました。
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西洋フード・コンパスグループが手掛けるオフィス・工場などの食堂運営:
https://www.seiyofood.co.jp/service/contract/office/index
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