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光州ビエンナーレ2002・レポート
春木 祐美子

光州ビエンナーレ2002
行ってきました、
光州ビエンナーレ
展示作品ピックアップ
展覧会概要
展示風景snap shot
 Project 1
 Project 3 / Project 4
光州ビエンナーレの<歩き方>


行ってきました、光州ビエンナーレ

はじめに

 韓国の光州という街で、ビエンナーレをやっている、と初めて聞いたのは、もうずいぶん前のことになる。最初の「光州ビエンナーレ」は1995年。その後、1997年、2000年、と行われたのだが、行く機会を逸していた。2002年の今年、4回めのビエンナーレが行われると聞き、今度こそは!と行ってみることにした。したがって、これまでの光州ビエンナーレと比べて今回がどうだったという評価はできないし、すでに当たり前になっていることに、ことさら驚いているようなところがあるかもしれないことは、先にお断りしておく。

街をあげての一大イベント

 2002年、韓国と言えば、「ワールドカップ」。光州も試合が行われる街だ。街中きっと、ワールドカップ一色で、ビエンナーレのことなど吹き飛んでしまっているんだろうな、と思っていた。しかし、光州に着いて驚いた。ワールドカップの宣伝告知はもちろん目につくけれど、ビエンナーレだって負けてない。光州空港のインフォメーション(一般的な観光案内所)では、その日開幕したばかりのビエンナーレのパンフレットが並んでいた。韓国語版、日本語版、英語版、中国語版の4種。国際イベントに手慣れているということか(その割には韓国語しか通じないのは何故?)。

日・中・韓の3か国語のパンフレット
日・中・韓の3か国語のパンフレット

 空港ビルの出口には、シリン・ネシャッドの作品を使った広告。もちろんビエンナーレの宣伝だ。ただ、シリン・ネシャッドは、前回のグランプリ受賞者で、今回は出品していない。この作品が見られるのだと思わせてしまいそうだけど、いいのかな?
 と、疑念を抱きつつ空港ビルを出たとたん、少し離れたビルに大きなビエンナーレのバナーがかかっているのがいやおうなく目に入ってきた。その後、タクシーで会場に近づくにつれ、道路沿いにビエンナーレののぼりが並んでいるのが見えてきた。「ビエンナーレ、熱烈歓迎」という雰囲気作りはバッチリだ。

ビエンナーレ館
メイン会場のビエンナーレ館にも大きなバナー。

5.18自由公園バルーン
ビエンナーレ会場(5.18自由公園)に掲げられていたバルーンと、
この会場の展覧会 "Stay of Execution" のマークの入ったバナー(垂れ幕)

Work in Progress !?

 メイン会場の「ビエンナーレ館」に到着したのは正午近く。ちょうど、オープニングセレモニーが終ったところのようだった。しかし、「何か違う」感じがした。何だかこれまで見てきたビエンナーレの類と、雰囲気が違うのだ。そんな違和感を抱えたまま会場に入ってみると、あちこちで作業中のようだった。作業中のように見せる作品なのか、本当に「作業中」なのか──見極めるのは難しい。
 また、会場内のガイドブックに載っているのに見つからない展示室があり、インフォメーションで聞いてみると、「技術的なトラブルで作品ができていないので展示室は閉めてある」とのこと。そしてさらに、「明日もまだ開けられないと思う」と。
 この日は、プレスオープンではなく、一般公開初日。おいおい、こんな調子で良いのか?

展示作品ピックアップ

目についたもの──オルタナティブ・スペースの展示

 メイン会場を眺めていて目についたのは、オルタナティブ・スペースやアーティスト・グループ(*1)の展示である。アーティストが集まりコミュニティ的なグループを作ったり、オルタナティブ・スペースを作り活動する、という動きが、ここのところ主にアジア各国で活発になっているようだ。例えば、タイ・バンコクの "Project 304" は、最近日本でも紹介され知られつつある。また、今回のビエンナーレには出展していないが、日本国内では"コマンドN" が同様の活動と成り立ちを持つものとして参照できるだろう。こうしたグループの活動は始まって日が浅く、美術界全体から見れば小さな波を立て始めているに過ぎないのかもしれないが、その小さな波が生まれてくる経緯や、その活動が持つ意味は、まさに今日的である。こうした今日的な動向を捉えている点では、今回のビエンナーレは評価されてよい。

Cemeti Art House の屋台 Para-Site ブース
Cemeti Art House (Yogyakarta, Indonesia) の展示 "AN Unseen Scene" の一部。屋台の中のパソコンを使ったり、並べられた資料をみながら、アーティストたちと話をしたりする、アジアスタイルのカフェ!?
Para-Site (HongKong) の展示。2階建てのブースをわざわざ作っている。1階部分の壁は、黒板のようになっていて、パフォーマンスの予定などが書かれている。

 しかしながら、「展覧会」という視点で眺めると、今回の試みについては厳しいことを言わざるを得ない。各グループの展示は、おそらく各々の自主性に任せられたのだと思われる。そのため、与えられた展示スペースをブースとして囲った形の展示が多く、各々が閉鎖的なものに見えてしまったし、それらのブースの間に展示されている他の作品は、とても見づらいものになってしまっていた。
 また、展示作業の遅れが目立ったのも、これらのグループの展示であった。各グループに任されてしまったために、展覧会全体のスケジュールと調和しなかったのか、内輪の作業になり外部の目がなかったために、ずるずると甘くなってしまったのか。
 展覧会をオーガナイズする側、出展したグループの側、どちらに問題があったのか、会期が始まってからの2日間の様子を見ただけでは推定することもできない。いずれにせよ、着眼点としてはよかったと思うだけに、残念でならない。

*1)「アーティスト・グループ」というのは、複数人のアーティストが集まったコミュニティ的なグループのことを示す名称としてここでは使っている。

突き刺さるもの──"9.11" への思い

 2001年9月11日。世界中で多くの人が少なからぬ衝撃を受けた日である。そして、その後の世界情勢は、"9.11" として語り継がれようとしている出来事の衝撃をさらに強めるかのごとくである。

 9.11 以降、何をしたらいいのか、と自問し考え込むアーティストは少なくなかった。その姿を見聞きするにつけ、この事件に触発されて作られた作品がたくさん出てくるのも時間の問題だ、と思っていたが、私にとっては、9.11 以降に作られた作品が発表され、まとまって見られる機会は、今回のビエンナーレが最初のものとなった。案の定、9.11 の事件への反応、とみることができる作品にいくつか出会うこととなった。

 9.11の事件に関わるもの、と言っても、さまざまなタイプの作品があった。
 Jae Whan Joo の爆撃機とビン・ラディン人形の組み合わせた作品は、ユーモアと皮肉に満ちている。爆撃機の絵は素直にカッコいいのに、狭い展示スペースに押し込まれてしまったのが残念だ。
 Yang Jie Chang のプロジェクタを使ったインスタレーションでは、アメリカン航空の航空機が描かれ、ビルが燃えるような映像と組み合わされていた。
 「ニューヨークの街をながめる船の上から、アメリカ国旗を捨てる」という行為を撮影したRoss Birrell の映像作品は、何かとても象徴的に思われ、見入ってしまった。私は、これが 9.11以降に作られたのだと最初から思い込んでいたのだが、そうではなく事件以前に撮られたものだと思われる箇所があるようだ。事件以前の行為なのか、事件の後でやったことなのかで、作品の意味がかなり異なってくるのではないかと私には思えるのだが、確信が持てる情報を入手できず申し訳ない。この作品の詳細をご存じの方、ぜひ教えてください。

Jae-whan Joo  "1/10 Scale Comparison B-52:Bin Laden"
ビン・ラディン人形
足下にある小さなビン・ラディン人形(床のテープは展示準備時のもの。翌日は取り除かれていた)
Jae-whan Joo (Korea)
"1/10 Scale Comparison
B-52:Bin Laden"

Yang Jiechang "I Saw it in the Sky" 左手側にビルが炎上している画像をプロジェクションした壁がある。階段で、この画像に写っている手すりのあるところまで上り、「目撃者」になるのだ。

Yang Jiechang (Germany)
"I Saw it in the Sky"

Ross Birrell "Flag Performance for the Gwangju Biennale" 会場内の白い壁に映写されていた映像作品。アメリカ国旗を船上から放り投げようとしているシーン。

Ross Birrell (Scotland)
"Flag Performance for the Gwangju Biennale"

 9.11 の事件に関する作品は、全体の作品数からすれば、決して多かったとは言えないが、見る側も思いを共有しやすいためか印象に残り、何だかたくさんあったような気がしてしまう。また、戦争一般を扱った作品もあるが、今、戦争について扱うのは、と考えると、9.11 の事件への対処としてアメリカが行った戦闘行為への疑問があるからではないか、と、ついつい見てしまう。 

Joo-kyung Yoon "John and Me"
ビエンナーレ館入口前に設置されたミリタリー風のテント。テント内の映像作品ともに Joo-kyung Yoon の作品。
Joo-kyung Yoon (Korea)
"John and Me"

Pool (Korea) の展示作品のひとつ
Borges Libereria "Canton Mix Express: Continuous Decentralisation of the Power"
ビエンナーレ館の外に無造作に置かれた白い大きなコンテナの中。壁には航空機のドローイング。
Borges Libereria (China)
"Canton Mix Express: Continuous Decentralisation of the Power"

Pool (Korea) の展示スペースにあったグラフィック。
爆撃機が飛んでいる落書き風のイラストレーションが入っている。
U-Kabat "Unobligation" コンテナの外 U-Kabat "Unobligation" 歩伏前進する兵士の人形 U-Kabat "Unobligation" コンテナ内
ビエンナーレ館のある公園内に設置された作品。コンテナの外では歩伏前進する兵士の人形が撃ち合い、コンテナの中には植民地化や戦争を批判するようなメッセージ性の高いインスタレーション。
U-Kabat (Bangkok, Thailand))
" Unobligation"

 実際、このビエンナーレが、光州というアジアの国で開催されているからか、アジアの人々が持つ反米感情が露骨に現れている作品もあった。改めて、アジアの人々のアメリカに対する思いを認識させられたとともに、世界各地からアーティストも観客もやってくる国際展という場で、特定の国をターゲットにした表現がどこまで許されるのか... アートは自由なもの、表現の自由は保証されるべき、ではあるのだけれど、ある作品の中に使われていた1フレーズが、未だに突き刺さったままでいる。
 その作品の中に感じられる、"HATE" と "LOVE" が交錯する思いは、私にもあるし理解できる。しかし、これはないだろう、これを言ったらおしまいだ。私はその言葉の前で立ちすくんだ。

突き刺さっている言葉を、ここに書くことは私にはできない。

混沌の中に埋もれないもの──気負わずしなやかに楽しんで

 会場は混沌としていて、何を見たらいいのか見当もつかず、何を見たかも忘れてしまうほどだったが、そんな中に埋もれてしまわない作品もあったはずだ... と思い起こしてみれば──。

 Surasi Kusolwong は、古いフォルクスワーゲン・ビートルをさかさまに吊るし、揺りかごのような "Relaxing Machine" を作り出した。乗ってみると、思いのほか広く、足を伸ばしてくつろげるほどだった。また、その周囲には人工芝を敷き、クッションを置き、飲み物の自動販売機まで置いて(もちろん普通にお金出して買える)、休憩所のようにしてしまったのだが、これが好評のようだった。ちなみに、この作品で、今回のビエンナーレでの「ユネスコ賞」を受賞したそうだ。

Surasi Kusolwong "Relaxing Machine"

Surasi Kusolwong (Thailand)
"Relaxing Machine"

 オルタナティブ・スペースの中では、台湾の IT Park が、見やすい展示をしていた。実際のギャラリースペースを元にして作られた屋根のない家は、壁で分けられた部屋ごとに1人のアーティストの作品を展示。ビエンナーレ内ビエンナーレ、という感じか。その中でも、Peng Hung-Chih の "Face to Face" は、シンプルゆえに広い層に受け入れられそうだ。ちょっと細みの狛犬のようなフィギュアは、頭の後ろ側にオペラグラスのようなレンズがつけてあり、そこに顔をつけてレンズから映像を見る。そこで見られる映像は、犬の視点で撮られたビデオ。わかりやす過ぎる?

Peng Hung-Chih "Face to Face"

Peng Hung-Chih (Taiwan)
"Face to Face"

ビエンナーレ館の公園側出入口。
気になる右手のハシゴ。観葉植物もアヤシイ。

 見逃してしまいそうな作品に気づいた時の気分というのは独特なものだが、今回もそんな作品があった。私は、ビエンナーレ館には公園側でない方の入口から入ったため(バス・タクシーでビエンナーレ館に来た人はほとんどそうなるはず)、公園側からの入口はよく見ていなかった。が、ビエンナーレ館を出て、ふと振り返ると、高いところから竹と縄で作られたハシゴが吊られているのに気づいたのだった。誰にも昇りようがないほど短いハシゴ、何のため?と思って周囲を見回すと、ビエンナーレ館入口の屋根に向かう階段が! これは何かあるぞ、と昇ってみる。

工事用の足場のような簡易階段を上ると、観葉植物とやわらかい砂の地面と白い台座のようなものがあり、小さな公園かプライベートビーチのよう。Bert Theis の作品だ。白い台座は、座っても寝転んでもいい。私が行った日は天気がよかったので、寝転がってくつろがせてもらった。しあわせな気分で、タイトルを確認すると──。
 "It's a Hard Work to be Idle"
う〜む、なかなかやるね!
Bert Theis (Italia) の作品で思い思いにくつろいで...。
Bert Theis (Italia)
"It's a Hard Work to be Idle"

"GWANGJU BIENNALE" とあるプレート状のものは、建物に元からあったもの。

 それにしても、この後の項で触れる Sislej Xhafa の作品も含め、楽しませてもらった作品は、まるでアートの「癒し系」。これでいいのか? ほんとうは、そろそろガツンと一発くるような作品にも出会いたいところだけれど。

かなしいできごと

 オープンして2日め、出かけてみると、会場は何だか空いていた。アート関係者も早々に引き上げてしまったようだ。その代わりに目についたのが、子どもたち。もちろん、その子供たちを連れてきている大人たちもいるのだが、子どもも大人も、とても楽しそうに見ていたのが印象的だった。ついつい作品を触って怒られている子もいたり、前日まではなかった "Dont't Touch" の看板やロープなども増えていて、たいへんだったのかもしれないが、普通の人がごく当たり前に訪れ、楽しんでいる様子には「豊かさ」を感じた。

 また、人通りの多い路上に設置された、Sislej Xhafa の作品を、少し遠くから眺めていて気づいたのだが、作品の前を通りすがる人たちが、みな一様に、興味深そうに作品を見ていく。日本だったら、一瞥もしないか、敢えて目をそらす人もいるんじゃないかと思うのに。韓国の人々、少なくとも光州の人々は、とても好奇心が旺盛なようだ。

 韓国語しか通じず不便な思いもしたが、ビエンナーレに来ている人々や街の中の人々を見ていて、良い印象を持ちつつあったのだが、残念な話を耳にすることになった。Sislej Xhafa の作品が壊される、ということが起きたのである。Sislej自身の案内で見せてもらったその日、会期初日の夜のことだ。路上に置かれた"Meditation Room"──「瞑想室」の中に設置されていたパンチング・ボールがもぎ取られてしまったのだ。どうしてそんなことをするのだろう。一足先に光州を発った Sislej はどんな思いでいるだろうか。かなしい気持ちを抱え、私は光州を後にすることになった。

おわりに

 ここで紹介した作品はほんの一部で、しかも、個人的に印象に残った作品を挙げているに過ぎない。内容に偏りがある、きちんと批評していない、といった点から、ご批判もあると思うが、一観客としては、見たもの・聞いたものについてしか書けない、ということで、ご容赦願いたい。

 このページで紹介しきれなかった作品は、もちろん、まだまだたくさんある。また、私もすべての作品を見たわけではないし、見てはいるがよくわからなかったものもある。この後の「展示風景 snap shot」では、今回撮影した画像をほぼ全部、並べてみた。気楽に眺めていただいて、少しでも、ビエンナーレの空気を感じていただければ幸いである。<この項、2002年6月19日に追加>

[はるき ゆみこ]

Sislej Xhafa "Meditation Room"
Sislej Xhafa (Kosovo)
"Meditation Room"
設置された場所は、光州市内河南路(Unam-dong)のスーパーマーケット前。すぐ近くにバス停もあり、買物客や路上の物売りなどで終日賑わう通り。
Sislej Xhafa "Meditation Room" 天井のパンチングボール 中に入ると天井にパンチングボール。これをパンチすると、外側につけられた電飾が光る。
これが、もぎ取られてしまったのだ。



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