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『Art Garden(アートガーデン)』オープン企画
「高原洋一 −イメージの時空− 2002」
柳沢秀行[大原美術館]
 
福島/木戸英行
東京/南 雄介
倉敷/柳沢秀行
高松/毛利義嗣

 岡山市にまた新たなアートスペースが誕生した。
名前は『Art Garden(アートガーデン)』。場所は岡山市の西口から徒歩で10分ほどになるが、活気あふれる商店街を抜けた先の静かな住宅街の中に、すっぽりとおさまりよくたたずんでいる。
 竹中工務店が設計、施工したと建物はシンプルなコ字型。
 ギャラリースペースを中心にして、その両脇は、一方にグッズ販売もあるカフェ、もう一方は各種造型教室やミーティングに使えるフリースペースとなっている。
 ギャラリーは、いわゆるホワイトキューブだが、心地よく取り入れられた外光や、2階へ通じる階段の形状がアクセントになって、無機質な印象はない。また照明設備も整い、さらに天井には各400kgまで対応できるフックがあるので、音楽やパフォーミングアートにも十分対応できる気配りの効いた施設となっている。
 おそらくこれは、小規模な美術館といってもよい十分な機能を備えているだろう。
 逆に言えば、ハードの機能面だけを見るなら小規模な公設施設と変わらないわけだが、オーナーの長尾邦加氏は、アートをより日常と地続きなものとしたいと願い、また当然経営面も考慮して、常に利用者の視点を意識している。
 そのことが、おそらくできたばかりのこのスペースに、すでにあたたかな人の温もりをあたえているのだろう。
たとえば、自主企画が主体となるギャラリーこそ貸出料6日15万円と相場並みの設定をしているが、その他の各種教室として貸し出すスペースは、20人ほどがゆったり活動できる10坪の広さで2時間2500円と極めて廉価に設定されている。それにオーナーが公民館の不自由さを意識したとのことだが、使用時間も朝10時から夜10時までというのも、がんばりものだ。
 実際、オープンして間もないのに、講座受講生を主にして人の出入りも多く、そうした人たちが、オーナーが発信したい現代作家を取り上げたギャラリーをのぞいてゆくという動きができつつある。
こうした施設が、個人の手により、それも周囲に大量集客する施設があるわけでもなく、また画廊など美術に関心のある人が回遊する場所があるわけでもない地域に、別に超然と孤立するでもなく存在する。
 これこそが岡山の豊かさである。
 このギャラリーの柿落としとして実施されたのが、「高原洋一 −イメージの時空− 2002」展。
 高原は、主としてシルクスクリーン版画を手がける岡山在住のベテラン実力派。
 遺跡の発掘現場に、自身が手がけた備前焼のオブジェが配されるなど、シュルレアリズム的な異質なイメージの出会いによるフィクショナルなトーンが基調となるが、過去と現代の時間の対比、火の刻印をまとった備前焼のオブジェが水の中に浮かぶといったように土、火、水などの自然の諸要素の対比、そしてその各々の図像達が体現する自然と人工のせめぎあいなどが、抜群のグラフィカルなセンスで作品としてまとめあげられる。
 さらに高原の場合、個別の作品もさることながら、これらの作品により空間全体を構成する能力もきわめて高い。
 私が岡山県立美術館で担当した「アートラビリンスII 時の記憶」にも出品していただいたが、その時も石の床への映り込みまで計算にいれた素晴らしい空間を作り上げ、岡山県美でも歴代有数の美しい展示空間を現出させた。
 今回の展示では、ほとんど新作が用意され、作家のモチベーションの高さをうかがわせ、まさにこの新たなアートスペースの冒頭を飾るにふさわしい、実にすばらしい展示空間となっていたのは言うまでもない。
 このように箱、運営ソフト、アーティストと資源はそろっている。それもこの『Art Garden (アートガーデン)』では行政などが何も手を出さずとも、これだけのパフォーマンスがなされたわけである。
 今後、こうしたスペースこそを大切に育んでゆきたいし、むやみに仕組みばかりいじりたがって、低いパフォーマンスにとどまるような愚行は避けるように自戒しておこう。

Art Garden 建物外観 Art Garden 入口
Art Garden 展示風景1 Art Garden 展示風景2
Art Garden 展示風景3 展覧会案内
『Art Garden (アートガーデン)』
〒700−0031 岡山市富町1−8−6
tel&fax 086-254-5559
URL http://www.art-garden.com/

学芸員レポート

 この4月から11年勤めた岡山県立美術館を離れ、倉敷市の大原美術館http://www.ohara.or.jp/で「プログラムコーディネーター・学芸員」の肩書きで働き始めた。
 博物館法のうたう学芸員の職務は主として「収集、保存、展示、研究」。それに博物館は社会教育施設であるから、そこに働く数少ないプロパーである学芸員がおのずと「教育」も視野に入れた活動をしなくてはならない。
 ただ、よく自嘲気味に雑芸員などというが(私は絶対にこの言葉を自分にはかぶせない)、実態としてはそれ以外にもミュージアムマネジメント全般に関わる諸活動をしなくてはならないのが学芸員である。
 このたび大原美術館に迎えられるにあたっては、お客様により良質なサービスを提供し、また美術館が発信するメッセージをより明確にし、そしてそれと抱き合わせで入館料収入だけで運営する美術館として集客増も目指すために必要な活動全般について仕事をする役割をいただいた。それゆえ、いっそその実態にあう肩書きはと考えて、上記のようなことになった。
さて私などの移籍などささいなこと。
 この4月から大原美術館は、高階秀爾新館長を迎え、1月に就任した岡部あおみ芸術顧問と共に大きな一歩を踏み出し始めた。
 より具体的には、展示場環境など目につきづらい部分での整備を着実に進めつつも、この夏以降次々と新たに攻めのプログラム提供を始めることになるだろう。
 引き続きこのアートスケープでも、お知らせをさせていただくことにもなるが、ぜひ大原美術館の今後にご期待いただきたい。

[やなぎさわ ひでゆき]

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