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島根県立美術館「光の狩人 森山大道 1965-2003」
増田玲[東京国立近代美術館]

 
福島/木戸英行
札幌/吉崎元章
東京/増田玲

《犬の町〈何かへの旅〉より》
森山大道《犬の町〈何かへの旅〉より》 1971年 個人蔵
 写真家・森山大道の個展が3月1日から島根県立美術館で始まる。2001年にはドキュメンタリー映画「≒森山大道」が公開され、昨年には600ページという大部の写真集『新宿』(月曜社)が刊行されるなど、ますます存在感を増しつつある写真家の、国内では初の本格的な回顧展である。
 「光の狩人 森山大道 1965-2003」と題された今回の展覧会では、デビューから現在まで、約400点の作品と写真集など多数の資料が展示される。とくに今回重点の置かれた1960年代末から1970年代初頭という時期、森山は「にっぽん劇場」シリーズや『PROVOKE』誌への参加などで写真界の注目を集め、「アレ・ブレ・ボケ」と呼ばれた、破格ともいえる斬新な写真表現で時代をリードした。というようなことはよく知られているが、当時の作品を見たいと思っても、例えばこの時代の写真雑誌をたどっていくとか、当時刊行された写真集を手にするといったことはなかなか大変で、それらを今回まとまって見られるというのは、まちがいなく貴重な機会である。
 この展覧会は島根のあと釧路、川崎にも巡回するので、例えば首都圏在住の人は川崎市市民ミュージアムへの巡回を楽しみに待つのもひとつの手ではあるが、会場規模の関係で島根会場が最も出品点数が多いということなので、ぜひ松江まで出かけたい。いや出品点数の多寡に関わらず、この展覧会にははるばる出かけて行きたい。というのも、今回も出品される予定の「何かへの旅」という1971年にアサヒカメラ誌上に連載されたシリーズのタイトルに象徴されているように、森山大道の作品の多くが、どこかへと旅をすること、その移動のプロセスの中で生まれてきたものだからだ。

――ただもう東京から離れたくて、ここよりも他の場所へ、僕にとってのもうひとつの国へと、あちらこちらほっつき歩いて、いつしかまた東京を思う。僕のすべての生活の軌跡は、このブーメランのような往復運動のうちにある。東京にいては地方を恋い、地方にいては東京に惹かれるという、どっちつかずの相対のなかに僕の生(写真)もあるのだと思う。 (森山大道『写真との対話』青弓社、1995年、p.94)

これは「何かへの旅」の連載の中で記された文章の一節。そもそも「移動」とは写真というメディアにとって本質的な部分に関わる「何か」であり、それは私たちがどこか遠くの土地に行ったときに写真を撮るという行動にも表れているし、歴史的に見ても優れた写真の多くが、その背後に何らかの移動をともなうものであった。とりわけ森山大道の場合には、歩きながら擦れ違いざまのスナップショットというその撮影スタイルをみても、繰り返される国内外さまざまな土地への旅、さらには父親の転勤に従って引越しを繰り返した少年時代や、写真家として出発して以降も住まいや仕事場を比較的頻繁に移してきたといったことを考えても、とにかくいろいろな意味で「移動」のプロセスに身を置いてきた写真家だと言えるのではないか。そんなことを思いながら、東京から松江まで出かけていきたいと考えている。
 冒頭に「国内では初の」と書いたが、この日本を代表する写真家の全体像を見渡そうという展覧会を最初に開催したのはサンフランシスコ近代美術館だった。1999年開催のその展覧会にも、実ははるばる出かけたのだが、初夏のサンフランシスコよりも、まだ寒さの残る山陰への旅のほうが、森山大道の写真に会いに行くにはより気分が出るというもの。というのも東京を拠点としながら旅を重ねるという写真家は多いのだが、大雑把に言って北向きか南向きか、海辺か山奥か、その人ごとに好んで目指す方向性のようなものがあって、森山大道の場合は本人も書いているように、どちらかといえば「北方指向」であるからだ。もちろん東京から見て松江は決して北ではないし、日本海側とはいえ春先の山陰はそれほど寒くもないのだけれど、瀬戸内育ちの身としては個人的にはこれは「北方」への旅なのだ。(ちなみに南方型の代表は東松照明。あんまりこんなことを言っていると、釧路の会場にも行かなければならなくなりますね。)
 ところで60年代末、ジャック・ケルアックの『路上』に触発され、ヒッチハイクをしたり友人の車に便乗したりという路上の旅を重ねたというエピソードもある森山大道は、かなりの読書家であるらしく、また同時に優れた文章家でもある。もしこの紹介文を読んで、展覧会を観に行こうと思われた方のなかで、僕と同じようにはるばる出かけていくということになる方があれば、この際、彼の文章に触れることもお勧めしたい。『犬の記憶』、『犬の記憶 終章』という二冊の彼の著書が文庫本になっているので旅のお供にぜひ。どちらも『路上』と同じく河出文庫から出ている。
 最後に関連情報をひとつ。森山大道が運営メンバーの一人である自主ギャラリー「PLACE M」が、これまでの所在地、四谷三丁目から新宿御苑に移転することになった。こちらもオープンは島根県美の展覧会と同じ3月1日。オープニングの展覧会は、ギャラリーメンバーによるグループ展で、もちろん森山大道も参加。このギャラリーの新展開も注目である。写真家のホームグラウンドである新宿の街中にあるギャラリーもまた、森山大道の作品に出会うのにふさわしい場所である。

会期と内容
●光の狩人 森山大道 1965-2003
会期:3月1日(土)〜4月6日(日)
会場:島根県立美術館 島根県松江市袖師町1-5
休館日:月曜日
開館時間:10:00〜日没後30分(展示室への入場は閉館30分前まで)
観覧料:一般 当日1,000(800)円、常設・企画展セット1,150(920)円、前売(常設・企画セット)900円
    大学・高校生 当日600(450)円、常設・企画展セット700(530)円
    中学生以下 当日300(250)円、常設・企画展セット300(250)円
※()内は、20人以上の団体料金
※中・小学生の学校利用は入場無料です。
※障害者手帳保持者及びその介助者は入場無料です。
主催:島根県立美術館、NHKエデュケーショナル
問い合わせ先:tel.0852-55-4700(代表)
URL:http://www2.pref.shimane.jp/sam/


学芸員レポート
 今回から編集部のお誘いで、この欄に書くことになりました。写真を専門にしている執筆者がいないので、とのお話でしたので、今後この欄で主に写真関連の展覧会について紹介していこうと思います。といっても写真関係の展覧会は、多くがギャラリーで開催されていて会期が1〜2週間程度と短く、実際に展示を観てから記事を書いていると、あまり「お勧め」という趣旨にそぐわないものになりそうですので、今回のようにまだ観ていない展覧会をとりあげることも多くなるかもしれません。
 現在、5月末から開催予定の写真展の準備を進めています。それについてはまた次回にでもこの欄で紹介したいと考えています。

[ますだ れい]

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