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アートピクニック ON THE WEB 5 秋山さやか

.. ――さて、それではでかけましょうか?
アート・イン・レジデンスとしてフランスの田舎、モンフランカンに滞在しているそうですが、どんなところなんでしょうか? 到着したときの最初の印象と1カ月ぐらいたった今では少し感じが違いますか? 毎日、どんな風に過ごしているんでしょうか? 1日のできごとをちょっと教えて下さい。

とても、のどかで穏やかです。いい意味で、ひなびているところ。空がとても高くって、大地が白い。日ざしは、金色です。
人々は皆、とてもあったかい……。なんだか、子供の頃、夏休みによく遊びにいった、祖母の田舎のようです。ささやかな懐かしさを感じれる、……そんな場所です。
ここは、中世の要塞都市がそのまんま残っている村です。今、丁度「Middle Ages Festival」(中世のお祭り)が開催されていて、皆、中世のコスチュームを身に纏い、中世の音楽が一日中流れています。
私も、着ました。コスチューム。ブルーがとってもきれいな服でした。コバルトブルーみたいな、深い青です。モンフランカンの色って、こういう青のイメージがあります。
初めの印象と、今とでは違います。よりここが好きになりました。それが、すごく強まったのは、先月末、南仏への旅に行き、それがトラブルだらけで……疲れ果てて、そして、ここに辿り着いたとき、とてもやさしい場所だとしみじみ感じたときからだと思います。


――旅というのは発見が多いんですね。行った先での発見ばかりではなく、むしろ、故郷や家庭など自分が戻る場所への想いというのが、強まるのかもしれません。私も以前にエディンバラという中世の町に住んでいたのですが、寒い時期でトラブル続きでとても大変な体験だったのだけど、スコットランド人の美術館の館長が祖国をホントに愛していて、私が週末に2、3日だけ町を離れて戻ったときに「ウェルカム・ユア・ホーム」(おかえりなさい)って言ってくれて。すっごくうれしかった。そして、おもちゃのように可愛らしい町並みをマジマジと見直すことができた。 あの時の再発見というのは、いまでも強烈な印象です。

「ウェルカム・ユア・ホーム」……いい言葉ですね。私も、ここに帰ってきた時、そんな感じがしました。地元の人たちとのコミュニケーションは、フランス語が喋れない私と、英語が喋れる人がごくわずかなここですので(しかも、私の英語もカタコト)、なかなか細やかなところまで……とはゆきませんが、すこしずつできるようになりつつあります。子供や犬や猫とは、仲良くなれてるんですけれどね(笑)。
丁度、今、お祭りなので、いろいろなひとと接する機会ができてきてます。にわか雨が降った日があって、アトリエの前でお店を開いてたひとたちが雨宿りしに来たんですけど、そのお礼にと、女のひと(とても美人でした)が、手作りの革細工の小物入れをくれたんです。私もお返しに、手漉きの紙をあげました(彼女、紙にすごく興味を示してたので)。言葉が通じなくっても、お互い喜んで、にこにこしあって……。こういう場面って、いいなぁと思いました。
それから、中世コスチュームを着て村をあるいていたら、皆珍しがって(日本人がそんな格好をしているので)、写真を撮られたり、話しかけられたりしましたよ。この扮装は、お城に仕えるひとの格好なんですって。日本で言えば、「腰元」ってかんじなのかな?(置き換えてしまうと、なんだか、ハズかしいですねぇ……笑。)でも、これがキッカケで(?)、また一歩、ここのひとたちと仲良くできるようになりました。
このレジデンスのディレクター、DenisさんとPatrickさんには、いろいろほんとお世話になってます。すごくいいお友達になれました。ドニ(フランス読みで呼んでます)の子供達ともすっかり仲良しになりました。カワイ〜〜んですよ、すっごく!! こないだは、ドニのおうちで、日本食を作りました。大好評でした。
毎日のんびりと過ごしてます。まさに、このひとことに尽きます。美味しいものを食べて、ぼんやりと景色を眺め、それから、制作をして……。
今は紙を漉いています。ワインやこちらの土や、その他、ここでしか手に入らないものを使って、ここの色を創りたいと思ってます。初めはここの色は、よくわからなかったけど、南仏から帰ってからこの村がより好きになると同時に、ここの「色」というものが、すこしずつ見えてきました。。


――昨年、フィリップモリス賞を受賞してから、ずいぶんと生活が変わったんじゃないのかな? かなり、海外での活動が増えましたよね。二ューヨーク、ストックホルム、フランスと、いままで行ったなかでどこが印象的な場所でしたか?

根本的には、あまり変わってないように思うのですが、でも、変わったのかな??
ちょうど1年前が、ストックホルムでした。昨秋、ストックホルムのリドマールホテルという所を会場に、「J-Way」というイヴェントが、日本人作家を招待して行なわれ、そこに参加することになったのでした。作家には、ひとり1部屋が与えられ、そこを自由に展示空間として使うことができました。私は、ほかの作家さんたちよりも3週間早くストックホルムに入り、その行動を作品にしました。これが私にとって、初の海外制作、発表でした。しかし、すごいエキセントリックというのか「イカれてる」展覧会だったと思います(笑)。 作家も観衆も皆コワれてました。でもここから、なんかアートって、先ず楽しくなければ始まらないのかも、って思った。実際、とっても楽しかったし、いろんなひとたちや作家さんたちとお友達になれてよかった。今でも、仲良く遊んでるひとたちも多くて、すごいうれしいことです。これって。
でも、最後の最後で、マグロのステーキに食アタリした経験も有り。しかし、この「まぐろアタック」はまるでこの展覧会ようです。今までに経験したことのないくらいの、不思議で強烈な感覚……。症状のまわる早さと同じように、津波のように押し寄せた、一種の興奮状態……。そして、この症状が、ものすごく早く引いたのも同じだった。あの不思議な感覚は、帰国後、スッと治まってしまいました。でも、あの「まぐろアタック」を、今でも“皮膚感覚”で記憶している。同様に展覧会のことも、こころと体で記憶しつづけるのだと思います。初めての海外での展示が、このような特殊なものであったことは、本当に面白かったです。
そして、次が、ニューヨークでのお仕事です。一番寒い時期、今年の1〜2月に滞在しました。これはフィリップモリス社の主催している、「フィリップモリスアートアワード」という公募展がありまして、7人の受賞者が選ばれ、ニューヨーク大学のグレイ・アートギャラリーでグループ展を開催するというものでした(「The First Steps 」―Emerging Artists From Japan― 展)
その時も、ほかの作家さんたちより1カ月早くNYに入り、生活しつつそこでの行動を作品にしました。そしてそれを、日本の相模大野(居住地)をモチーフとした作品と共に展示しました。
私は海外制作において、ベースとなる素材はもちろん、絵の具、鉛筆、糸、針にいたるまで、すべて、現地調達します。それは、その国のその街の色や質感というものを、できるだけ表現したいからであって、海外での私の制作は、この糸や素材探しから始まります。例えば、買い物袋をそのままベースに使ったりしているものもあれば、現地で買い求めた布を使っていたり……。
スウェーデンのストックホルムと、アメリカのNYは、どちらも初めて訪れる国でしたが、ストックホルムの色は銀色を感じました。初めて金、銀色の糸を使いました。NYの色は茶色っぽくなりました。糸の色はオレンジが強く出たように思います。
この海外制作を通して感じたことは、「皮膚感覚でその土地を自分の
なかに浸透させた」ということです。当初、異国の都市を対象とすることは非常に楽しみであったのですが、しかし、いざそのなかに飛び込んでみると、風土も異なり、言葉も通じず、食べ物も違う、予想だにしないアクシデントの連続……、大変な思いをすることになりました。しかし、一番困惑したことは「地図が読めない!」ということでした。横文字が読めない、とかそういう問題ではないんです。道の「読み方」が分からないのです。今、自分が何処をあるいているのかすら、わからない始末でした。そんななかを、看板や風景といった「目で記憶したもの」を頼りにあるきました。けど、1週間も生活するうち、道がすこしずつ「見えて」きたのです。それは不思議な瞬間でした。五感でその土地を理解していった、とでもいうのか……。そして、もうひとつわかったことは、制作が自分ひとりでは成りたたないということでした。右も左もわからない海外での制作において、例えば道を聞いたりなどの、ひととの出会いのなかから生じるコミュニケーションが、私にとって大切な意味をもちだした気がします。
そして、現在、フランス南西部のモンフランカンというところに9月までいます。これは、「ダイムラー・クライスラーグループ アート・スコープ」というスカラシップを受賞致しまして、それを受けてのアーティスト・イン・レジデンスなのです。
前回のNYは、広大で複雑な大都市でしたが、反対にその道は碁盤の目になっていて、整理されて、均一なものでした。季節は一番寒い時期で、あるく足も制作する手も震えました。そのつぎに、正反対とも言える、この村で、作品をつくってます。信号すらありませんが、それがとっても面白い。
モンフランカンの色は何色なのか、私のあるいた所はどんな形になるのか……?
東京の個展で、秋山の変化を、是非確かめて下さいね。


↑↑← 中世コスチュームで。
↑↑→ 縫ってます。
↑← 顔料、藁、野菜等で作った、紙の原料。
↑→ できあがり。
↓← 《ストックホルムをあるく》2000
シーツにシルクスクリーン、ステッチ/200×300 cm
↓→ 《あるく――私の基本生活形(相模大野)》1999
シルクスクリーン、ステッチ、ペン、綿布/172×225 cm プロット添付/90×130 cm
(フィリップモリスアートアワード 受賞作)

 
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