Oct. 29, 1996 Nov. 26, 1996

Art Watch Index - Nov. 19, 1996


【会田誠《NO FUTURE》展】
 ………………● 椹木野衣


Art Watch Back Number Index



会田誠《NO FUTURE》展
会場:
ミヅマアートギャラリー(表参道)
会期:
1996年
11月5日〜11月19日
問い合わせ:
ミヅマアートギャラリー
Tel.03-3499-0226
e-mail: mag@ba2.so-net.or.jp
「犬」

会田誠「犬」1989






MIZUMA ART GALLERY
http://ux01.so-net.or.jp/
~mag/index-j.html

会田誠《NO FUTURE》展

●椹木野衣



未発表旧作品に表出する作家の「現在」

会田誠は、現在、若い作家の中でも抜きんでた活動を展開しているように思う。もっとも、今回の個展で発表された作品は新作ではない。にもかかわらず、これらはいずれも、彼の現在の活動の一部と考えても遜色のない完成度をみせている。学生時代の作品はまだ手探りで、個展を重ねていくにつれ個性を確立していく作家がほとんどのなかで、この時点ですでに会田は作風を完成させており、すべてが終わった後に活動を開始した作家であることがよくわかる。
  今回の出品作にもあるように、会田は手足を切断された女子の図などを好んで描くことから、(悪?)趣味人的な絵描きだと思われている節があるが、そうした「趣味」に当たる彼の手つきは、明治初期の日本画や抽象表現主義の絵画、さらには戦争画から図工教育のポスターに至るまでを無差別にシミュレートする諸作に共通した形式であって、彼の絵の本質が、自身の言葉にあるとおり、絵画における「様々な意匠」(小林秀雄)の提示にあることを見落としてはならない。

アイロニカルかつ形式的な自己意識

しかし、会田の作品に共通して流れている形式への意志は、小林のそれよりはずっと、保田与重郎の「ロマンティック・アイロニー」のそれに近い。周知のとおり、保田は近代的意識の拘束された日本人のあり方を、その矛盾の極限状態としての破滅への志向として文体に体現させた「戦前期最大(悪?)の」批評家である。もちろん、彼の文章が多くの若者を戦場に駆り立てたとする考えはまったくまとはずれではないにせよ、端的に言って文学の社会性を過大評価しすぎている。保田の文体が、もっとずっとわかりにくい「暗部」に由来するものであるかぎり、そうした俗説は単純にすぎる。
  そして会田の絵もまた、そのような「暗部」を持つ。彼の作品を見ていると、あまりに筆が立つがゆえに、その上手さの極限状態としての滅茶苦茶さ、下手さに、アイロニカルかつ形式的な自己意識を持って対峙していることがよくわかる。この奇妙な自意識は、近代において技術と感情とのあいだに引き裂かれた日本人の絵描きに対する、ロマンティック・アイロニーに由来するように思われるのである。
  会田の作品はこの意味で、「現代美術」という名の下に保証された根拠のない幻想を下敷きに、あたかも「欧米並み」に絵を描き、彫刻をつくりうると考えてきた素朴な「美術家」と、彼らの生み出した単にすぐれているにすぎない作品につきつけられた、刃物のように鈍い光を抱え込んでいる。

[さわらぎ のい/美術評論家]

toBottom toTop



Art Watch Back Number Index

Oct. 29, 1996 Nov. 26, 1996


[home]/[Art Information]/[Column]


Copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 1996
Network Museum & Magazine Project / nmp@nt.cio.dnp.co.jp