reviews & critiques
reviews & critiques ||| レヴュー&批評
home
home
award
キリン・コンテンポラリー・アワード '97
フィボナッチエンジン+
山宮隆(最優秀作品賞)「フィボナッチエンジン+」
(演奏)パフォーマンス 山宮隆
原 久子

icon今年のキリン・コンテンポラリー・アワード受賞作品展から印象深い二つの作品を紹介したい。
グランプリ

グランプリを獲得した山宮隆の作品名は、「フィボナッチ・エンジン+」。木製の大きな歯車がカタキシ、カタキシと音をたてながら絡み合って動きはじめると、前方にある2本の矢印が上下に振れて、角度がつくという立体作品。ブラックスーツに蝶ネクタイ姿の山宮自身が裸足でペダルを動かす様子を見ていると、神聖な儀式のようにもみえてくる。本人によるとこれは、人力計算機なのだそうである。矢印の間にできた角度が、計算の結果らしい。
 フィボナッチという数学者であり、魔術師がいたことも、私にとっては、この作品と出会うまで未知の世界のことだった。なんでもフィボナッチによって研究された神秘数列をフィボナッチ数列とよび、この数列は単純な足し算によるものだが、自然の美的な法則を表わすことができるものなのだそうだ。科学と芸術の融合なんて言葉は聞き飽きた感もあるし、肩すかしを食らうことも少なくはないが、そういうお題目を唱えているものとはどこか違うあたりも、この作品の魅力だ。非常に素朴に、身近なさまざまな法則や技術の、原理を探究していくことから生まれてきた山宮の作品。そして、自分がパフォーマーとして関与していくエンターテイメント性も、何食わぬ顔で実はしっかり計算している現代っ子である。神戸アート・アニュアル(会場:神戸アートヴィレッジセンター、会期:1997年10月24日〜11月16日)にも、鐘を鳴らすブランコの作品を出品していたが、この展覧会のカタログに寄せていた彼の文章の最後に『遊びと人間』(ロジェ・カイヨワ)からの引用があった。ブランコが永遠の往復運動を繰り返すこと、それは自然の復活といった観念と結びついている、という意味のことを書いた箇所だ。この作家自身が、これからどんな往復運動をしながら復活を繰り返すのか楽しみである。

優秀賞、OK GIRLS
OK Girls SHOW 「OK Girls SHOW」
by OK GIRLS(優秀賞)
10月7日 キリンプラザ大阪

写真:キリンプラザ大阪
もう一つは、優秀賞のOK GIRLSだ。前の部分に「OK」と大きく書かれた赤いスイムスーツに、ドラッグ・クイーン・メイクという出で立ちの三人の女性が、ストレートにそして痛烈に風刺のきいた「OK声名文」を掲げて登場した。すでに4年前から活動を開始しているが、彼女たちの歩調に社会のほうがまるでついていけていないのが現実だ。さまざまな場所で、彼女たちのパフォーマンスを見るにつけ、私たちを取り巻く社会で起こっている出来事に対して、ひどく鈍感になっていることを思い知らされる。
 表現の方法に境界がなくなってきたとはいえ、結果的にみる側の都合で、何かのカテゴリーにはめてからでなければ、評価することができないというのは、この賞の選考方法についてもいえることかもしれない。しかし、アートの持つ力や作用を、感じることのできた(多分、他の公募ではひっかかりにくいだろう)こういった作品を賞に入れることができるのも、このキリンコンテンポラリー・アワードの幅のもたせ方の妙技だろう。早いもので、この賞も今年で第8回めを迎えた。ジャンルを横断したものや、その狭間にある作品が、選考の対象となるのはヴィデオテープによるエントリーの受付という独自の公募方法の利点でもあるかもしれない。また、どうしても、造形芸術、映像、パフォーミング・アーツの創作者も受容する立場の者も交流が少ないなかでは、この機会は希少なものであろう。
キリンコンテンポラリー・アワード'97
会場:キリンプラザ大阪
会期:1997年10月1日(水)〜10月19日(日)
問い合わせ:Tel. 06-212-6578

top
review目次review feature目次feature interview目次interview photo gallery目次photo gallery





Copyright (c) Dai Nippon Printing Co., Ltd. 1997