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オストラネニー97
――旧東側で初のメディア・フェス開催
四方幸子

グラーツ、リュブリアナ、ブダペストを巡った後、中東欧のメディア関係者が一堂に会するデッサウの「オストラネニー(OSTRANENIE)97」を最初の2日訪れることができた。グロピウス設計のバウハウス校舎を中心に市内数か所で開催されるこのエレクトロニック・メディア・フォーラムは、デッサウの属するザクセン-アンハルト州が資金を提供し、バウハウスの全面協力の下、ベルリン在住のキュレーター、ステファン・コヴァッツを中心に93年に初回が開催され、今回が3回目。タイトルに"OST"(東)がつくように、東西の分断が終了し、政治体制で分割した〈東vs西〉ではなく、地理的な〈中部、東部〉ヨーロッパ地域をクローズアップし(実際「オストラネニー」は、旧東側諸国で初めて開催されたメディア・フェスである)、それら地域で起こっている急激な社会の変化(メディア環境も含む)の只中で活動しているアーティストや批評家たちが直接出会い、コミュニケートするための場を作る必要性から生まれたという。内容は作品展示、ヴィデオ上映、レクチャー、パフォーマンス、フォーラムなどで構成されており、ほとんどが関係者という濃密な会合の場となった。3回目の今回は特に、90年代以降のメディア状況の変化に加え、ここ2、3年のインターネットの普及によって、政治・経済的には不安定であってもグローバルな発信がさまざまな単位で可能になったことが感じられる。
バウハウス校舎
バウハウス校舎
ポスター
校舎内の"Ostranenie97"ポスター
6日午前には、20年代と90年代の現在とを比較対照したロシア出身の理論家レヴ・マノヴィッチのレクチャーそしてポーランドのアーティスト、ブルスゼウスキーによるレクチャー/パフォーマンスがあった。夜にはヴェリミール・アブラモヴィッチ(ユーゴスラヴィア)がニコラ・テスラについて述べ、それに続いてスロヴェニアの若手アーティスト、マルコ・ペリハンが主宰するプロジェクト・アトルとラステルミュージック(ドイツ)共同のサウンド・パフォーマンス「ヴァルデンクリッフ・プロジェクトNo.2」が行なわれた。
 1900年にテスラが「ワールド・システム」の実験ステーションを設立したロング・アイランドの地名(Wardenclyffe)をタイトルにもつこのパフォーマンスは、会場に飛び交うさまざまな電波情報をキャッチし音に変換、リミックスするもので、ワイヤレスでエネルギーを世界中に配信するシステムを構想したテスラの方向性を、現在において新たに再構成したものといえる。
アルバイツアムト
モホリ=ナジ展が開催された
アルバイツアムト(現在のAOK)
市内のアルバイツアムト(グロピウス設計の円形の建築)で開催されたモホリ=ナジ展では、空間にナジを紹介したパネルが展示されているものの、じつは上部のガラス部分からの採光が、内部や天井部分のガラスによって複雑な光の反射を生み出すこの空間を観客が自由に徘徊することで、空間を一種の「光・空間調節器」(1922-30)に変容させるのが意図である。

残念ながら参加することができなかったが、他に注目すべきものとしてアンドレアス・ブレックマン主宰の中東欧のメディアアクティヴィティ「V2_EAST /シンジケート」ミーティングやユーゴの建築マガジン『アクセレレーター』のプレゼン、「ネッティヴィティ」「オープン・ボーダーズ」などのフォーラム、また今世紀のベルリンとともに生きた電子音楽家、オスカー・ザラによる伝説の電子楽器トラウトニウムの演奏や、今世紀初頭の電子楽器テルミンに関する一連のイヴェントがあった。

中欧が、50年以上経た現在、新たなメディアによりアクチュアルな場所として浮上している。バウハウスを象徴するこのデッサウで、中東欧のメディアの現在形を語る集まりが行なわれていることは、偶然ではないだろう。デザイン・プロダクトの普及により大衆の生活の向上を目指したバウハウス、世界の人々にエネルギーを走破させることを夢みたテスラ……。このような理念は中欧に連綿と流れているものではないだろうか。もちろんそれは、今世紀のドイツがナチズムへと回収されていったような危険も合わせ持つ。スロヴェニアのメディアアーティスト、マルコ・コズニッチが、自らゲーテやバウハウスにつながる系統にあると述べていたが、中欧性にメディアテクノロジーという新しいメスによっていかに批判的に切り込んでいくかが現在探求されつつある。

コジニッチ
マルコ・コズニッチ+カタリーナ・ペヨヴィッチ
コヴァッツ
ステファン・コヴァッツ


DV:四方幸子
《オストラネニー97》
会場:ドイツ(旧東独)、デッサウ
会期:1997年11月5日〜9日
問い合わせ:emi@stiftung-bauhaus.de

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