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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
デジタルアーカイブが変えるミュージアム活動
笠羽晴夫
 デジタルアーカイブはミュージアムにおいて、収蔵品のデジタル記録、データベース化、その公開などに寄与するが、これらに付随してその活動とくに学芸員の活動を外部に理解してもらうことを可能にする。その結果として外からの眼がミュージアムの活動そのものに良い影響をきたすとすれば、それはさらに喜ばしい。
 例えば、これは自然史系や歴史民俗系の博物館に顕著であるが、デジタルアーカイブが始まると、館の外のものを多く記録に取り込み、またその時間的な変化をも記録し、それら総体をより充実した館の提供物として見せることが可能となる。そしてそれが学芸員の活動、外部の人々との交流を活性化していくことも考えられる。

市川自然博物館ホームページ
市川自然博物館ホームページ
 以前(連載第2回:「地域」という「事実上のミュージアム」参照)、地方自治体の取り組みのところで千葉県の例に触れたが、今回は同じ千葉県でも県立ではなく市立、市川市のものである。まず自然史系の市川自然博物館から見てみよう。
 ここの特徴は学芸員が見た「自然観察週報」というものがあることで、現在はテキストのみであるが、観察された変化が記録されそれを館外から逐次読むことができるということは、これまでとは大きな違いである。また市川の野生生物として10テーマ100点が画像とともに紹介されており、絶滅が危惧される動植物が25種、館外の自然観察園の画像による詳細な紹介がなされている。今後これらが定点観測され、その画像記録とともにアーカイブされ公開されれば、この地域の今の姿とこれまでの移り変わりのアーカイブとして充実したものになるだろう。デジタル機材やネットワークの環境を考えれば、館外の市民の協力も現実的なものになる。ミュージアムの今後のありかたのひとつではないだろうか。
 このほか市川市には、市川考古博物館市川歴史博物館がある。
 考古博物館では、市内の各遺跡がどんなところか紹介されており、土器30選の画像、関連図書の紹介、さらに学芸員の論文を一覧から選んでダウンロードすることができる。地域の考古博物館では、入館して資料や説明を見る前にあるいはその後にこのようなさまざまな情報、データに接することができるかどうかで、その展示の理解、学習効果は著しく異なるだろう。現在のようにデジタルアーカイブとインターネットという手段が利用できるようになったことを踏まえると、このように少しでも多くのものをデジタル化し活用していこうという意志は評価できる。「展示こぼれ話」なども学芸員の活動を公開したものである。市川歴史博物館にもある程度似た傾向が見られる。
市川考古博物館ホームページ 市川歴史博物館ホームページ
左:市川考古博物館ホームページ
右:市川歴史博物館ホームページ
知多市歴史民俗博物館ホームページ
知多市歴史民俗博物館ホームページ
 次に紹介するのは愛知県の知多市歴史民俗博物館である。
 ここはまず本筋のデジタルアーカイブとしても2006年5月現在で10143件の収蔵資料データベースを持っている。内容は歴史・民俗資料、美術資料、考古資料であるが、なかでも多いのが民具である。「検索」、「項目」と進んで対象の「写真切り替え」を行なうと、それを記録・保存したときのものであろうか、構造、しかけ、各部分の寸法など、説明用の手書きスケッチの画像が出てくる。こういうものがあるだけで対象の名前とイメージだけの場合よりよほど理解が深まるし、この道具が使われたシーンに思いをはせることが可能になってくる。これも学芸委員の仕事がそのまま利用者に見えてくるという好例である。
 また「文化財ガイドマップ」では地図とともにカテゴリ別の一覧から館外の建造物、絵画、彫刻、工芸品、典籍、漁撈用具、無形文化財、史跡、天然記念物などが画像で紹介されており、館外の記録としても充実している。館外とのさまざまな結びつき・協力関係がなければ、なかなかこれだけの画像は集められないだろう。欲をいえば、無形文化財について今後は動画による記録と公開が望まれる。

斎宮歴史博物館ホームページ
斎宮歴史博物館ホームページ
 さて学芸員の活動とその対外発信の例として、最後に三重県の斎宮歴史博物館のホームページを紹介しよう。
 斎宮(さいくう)は伊勢神宮とのかかわりで重要な位置をしめるものであるが県外で知る人はあまり多くない。この博物館の紹介にあたっては、館蔵品の画像公開ばかりでなく、この斎宮というのがどういうものかということを丁寧に説明していこうというコンセプトがあったと推察される。そして斎宮にまつわる直接間接の数ある話を集め、「斎宮百話」として長期にわたる連載がなされている。ここにはミュージアムそのものの話として他館とも共通するものがあり、たいへん興味深い。これに類する話はミュージアムであれば必ずあるはずである。以前の連載で「大原美術館」の作品説明に購入経緯などの話が掲載されていることを評価したが、それも同様である。今後この分野で館の方々が積極性を発揮されることを期待する。

2006年6月
[ かさば はるお ]
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掲載/笠羽晴夫
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