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ミュージアムIT情報
掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
「著作権がネックで」といつまで言っていればいいのだろうか?
歌田明弘
ますます複雑になる著作権
「美術作品を使った映像資料やデータベースを作ろうと思っても著作権がネックになってできない」といったことがいわれるようになってから、もうどれぐらい経つだろうか。こうした問題は以前からあったが、デジタル技術が容易に利用できるようになり著作物の二次利用をしたい欲求が高まってきて、いよいよ不満がつのってきた。
 そうした嘆きと相反するように、著作権は複雑になってきている。そもそも著作権は単一の権利ではなくて、「権利の束」でできている。公表権や氏名表示権、同一性保持権といった譲り渡すことのできない著作人格権に始まって、経済的価値に還元できる複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権、翻案権、出版権、その他諸々の著作隣接権があるといった具合である。こうして列挙してみてもその種類の多さはたいへんなものだが、最近では、海外で販売されている安いCDが輸入されれば国内市場が脅かされるということで輸入権を認めるべきだとか、本のレンタルをする新手の会社が出てきて、出版物についても貸与権を認めるべきだという主張が出てくるなど、権利の数はまだまだ増えそうだ。


デジタル技術による作品の再利用
 保護期間についても、アメリカでは1998年の著作権法改正でそれ以前より20年間延長され、個人については死後70年、法人については権利取得後95年になった。アメリカは自国の知的財産権を国際標準にしようとしており、著作権強化の波は日本にもやってきている。
 このように強化されていく権利の網の目をくぐって作品を利用し、新たな創造物を作ろうとするのは並大抵のことではない。デジタル技術によって作品の再利用が大幅に容易になり、また大量のデータを検索し表示することができるようになったにもかかわらず、技術を十分に活かすのはむずかしい状況になっている。
 こうした事態をまえにして多くの人々が感じ始めたのは、著作物の利用で大きな利益を実際にあげている作品はともかくとして、そうでない作品についてはどうにかならないものだろうか、ということだ。著作者に連絡を取れば何の支障もなく承諾がとれるものも、少なからぬ手間ひまやコストをかけて著作権をクリアしていかなければ再利用ができない。量が膨大になれば、大きな組織でもその作業はむずかしい。ましてや個人や小さな組織では、はなから望みはなくなる。


自由利用マーク

 いうまでもないが、デジタル技術の特質は、高品質のコピーやデータの改変が容易なことにある。こうしたメリットが、著作権制度とまっこうからぶつかるのだ。
 もちろん多少なりとも動きはある。文化庁はこの2月に「自由利用マーク」を公表し、著作権者がこのマークをつけて無料配布を認めるなどの意思表示をすることを提案している。また、ウェブについては、第三者による保存・公開を認めることをウェブの作り手があらかじめ意思表示する仕組みを普及させ、そうしたウェブ・ページを自動収集する技術を開発しようとしている


解決策はある
 しかし、いずれにしても著作権者が賛同し、協力してくれなければ始まらない。ヴェルヌ条約も含めて現在の著作権制度は、無方式主義といって、登録せずとも著作権が認められる。しかし、国会図書館による保存など非営利の場合には、著作権者がとくに反対の意思表示をしないかぎり、原則再利用できるようにするといった方向に変えていくべきではなかろうか。その一方、作品の再利用条件を登録する国際的な仕組みなども整備していかなければならない。
 著作権などの知的財産権は、ほかの財産権とは同一視できない。モノは誰かが所有すれば使えなくなるが、複製できる知的財産は同時に複数の人が所有可能であり、またそれを利用することによって新たな創造活動が促されていく公的な性格を持っている。デジタル技術の浸透によって、これまでにない規模で著作権侵害が行なわれうることは事実だが、場当たり的に著作者の権利を増やしていくのでは、著作物の公的な性格は失われていくだけだ。
 経済的利害が大きく関わらない部分については解決策があるように思うのは、シロウト考えというものだろうか。
[ うただ あきひろ ]
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